困ったときの心の寄りどころ 大阪の頼れる住職たち(其の一)

 日本全国には、コンビニエンスストアの数(約5万7000店)よりも多い、約7万6660カ寺の寺院が存在する。寺院数が最も多いのは京都府や奈良県と思われがちだが、実際は愛知県が最多で、大阪府、兵庫県と続く(文化庁「宗教統計調査」より)。

 寺といえば、葬儀や法事など仏事の場というイメージが強い。しかし近年は、地域の祭りや文化活動、教育、福祉の拠点としての役割も広がっている。写経や座禅などの体験行事をはじめ、寺カフェの開催や地域交流の場として開放するなど、世代や国籍を問わず気軽に立ち寄れる場所として親しまれる寺も増えてきた。

 地域社会とのつながりを大切にし、人々の悩みに耳を傾ける住職の存在も、寺の魅力の一つだ。困ったときの相談相手として、あるいは地域の心のよりどころとして、多くの人に寄り添っている。

 本企画では、大阪で地域に根差した活動を続ける寺院を訪ね、そこで人々を迎える住職たちの人柄や思いに焦点を当てて紹介する。

骨髄移植から始まった「癒やし」の寺づくり

高野山真言宗 常光円満寺 住職 藤田晃秀(こうしゅう)さん

―「癒」という言葉について

 僧侶の道を進むと決めた25歳のとき、「再生不良性貧血」と診断された住職の藤田晃秀さん。辛い骨髄移植で一命をとりとめることができた。移植後は、さまざまな悩み相談を経て、どのような人にも優しさと温もりを持って接し、『癒』やされるお寺づくりを目指してきた。

―住職になるまでの道のりを教えて

 「お寺の長男として生まれましたが継ぐつもりは全くなく、自分の決めた道を進むつもりでした」と藤田さん。就活前に当時住職の父から「どこに就職しても良いが、いつでも戻ってこれるように修行だけはしておくように」と言われ、1年間高野山の修行に入った。
 朝4時から就寝まで、娯楽や自由がなく常に正座の厳しい生活が続く毎日を過ごしていく中、寺をもたない修行仲間の影響もあり「寺で生まれて、修行も親の援助から、自分はめぐまれている」と思うようになったという。修行後、檀家さんたちが温かく出迎え喜ぶ顔を目の当たりにして、「このお寺で頑張ろう!」と決意が固まった。

―その後、骨髄移植を経験

 修行を終えて3カ月後、異常な疲れや微熱、鼻血がとまらないなどの体調不良にみまわれた。当時、体内血液の組織がほとんどなく、医者からは「この状態で生きているのが不思議ですね。骨髄移植が唯一の治療法」と伝えられた。辛い、弟の組織と一致し移植の運びになったが、大量の抗がん剤や放射線で髪の毛がすべて抜けてなくなり、激しい嘔吐(おうと)、移植による拒絶反応にさいなまれ、苦しみで「一分一秒がとても長く感じた日々だった」と当時を振り返る。

 以来、「あたり前の生活はとても幸せな喜びなんだ」と実感し、心から全てに感謝できるようになったと藤田さん。病を乗り越え、HPを作成して水子供養の相談を受けるようになり、「天国の赤ちゃんQ&A」の著者となり、水子供養をする人が当時年間30件だったのが、今では年間5000件を超える件数に増えた。

―読者に向けて

 「闘病を経験して、思いの持ち方が変わることでお参りの方が何を求めて来られるのか、少しずつわかるようになりました。〝どのような気持ちで寄り添い行動すると相手の心が癒やされるか〟を懸命に考え、お参りの方を笑顔で迎える毎日を生きていきたいです」

外観写真

■常光円満寺/吹田市元町28-13/電話06(6381)0182
受付時間/9:00~17:00
参拝時間/7:00~20:00
アクセス/JR吹田・阪急吹田から徒歩5分
足利将軍の菩堤寺で1300年の歴史がある。水子供養・安産祈願・お宮参り・七五三参り・厄払い・厄除け祈願・カード式納骨堂・永代供養・樹木葬・永代合同納骨・お葬式・家族葬・先祖供養・法事。ヨガ教室・写経・音楽ライブなどのイベント開催。


〝一人ひとりの心に仏〟慈悲の教えが息づく寺

真言宗泉涌寺派 法樂寺 住職 小松光昭さん

―「慈」という言葉について

 真言宗の古刹・法樂寺の起こりは治承2(1178)年。源平の戦いが激しさを増す中、平重盛公が敵味方を分け隔てなく供養する場として建立したと伝わる。その由来を、住職の小松さんは「怨親平等」と説く。仏の前では誰もが等しく祈り、まず心の中で許すことから慈悲が生まれるという。その精神は、住職が大切にする「一味和合」、すなわち皆で心を一つにする考えにも通じる。人と人がつながる場の座標となる存在でありたいと語る。

―暮らしに寄り添う寺

 東住吉区田辺の閑静な住宅街に、真言宗の古刹・法樂寺がある。毎朝4時半に門を開き、夕方5時まで参拝できる。宗派や立場にかかわらず、「誰でもふらっと立ち寄り、手を合わせられる寺でありたい」と小松さんは言う。境内にはベンチが置かれ、丁寧に手入れが行き届いている。「毎日、誰かが手を合わせに来てくれる場所であることは、地域にとって大きな意味があります。心を休められる場所が町の中にあることは大切です」とも話す。

 学生時代を振り返り、「勉強は得意ではなく、テストの順位も下の方が多かった」と笑顔で話す。その頃から「自分よりすごい人はたくさんいる。上がいれば下もいる。それぞれに役割がある」と受け止めるようになったという。眉間にしわを寄せて力むのではなく、まず笑顔でいることが大切だと説く。そこから人とのつながりが生まれると考えている。イギリスでの遊学経験は、その思いをさらに強くした。言葉や文化、宗教の違いを越え、互いに尊重し合えば分かり合えると実感したという。「相手を上から押さえつけるのではなく、一人ひとりの心に仏がいると考え、敬う気持ちが大切。これは日本に限らず、どの国でも同じだと感じています」と静かに語った。

 朝の掃除や行事の準備には近隣の人が自然と集まり、世代や立場を越えて顔を合わせる。人と人との距離がやわらぎ、互いを気にかけ合う関係が育まれていく。その光景は、敵味方を分け隔てず供養したことに始まる寺の思いと重なる。「一味和合」の教えは、今もこの寺に息づいている。最後に読者へ一言を求めると、小松さんは「私はいつでもここにいますよ」と穏やかに語った。その言葉に、身近に開かれた寺の姿がにじんでいた。

外観

■紫金山 小松院 法樂寺/大阪市東住吉区山坂1-18-30/電話06(6621)2103
開門時間/4:30~17:00
アクセス/JR阪和線「南田辺」駅から徒歩4分
http://www.horakuji.com/
「たなべのお不動さん」の名で親しまれ、境内の大クスノキは850年。近畿三十六不動尊、大阪十三仏霊場、神仏霊場、役行者霊跡札所、摂津国八十八ヶ所

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