
実例紹介で「地域を支える継承」を議論
中小企業の後継者不足や黒字廃業の増加を背景に、M&Aを成長戦略として活用する動きが広がっている。近畿経済産業局は11月27日、近畿財務局、中小企業基盤整備機構近畿本部と連携し、「未来をつなぐM&A戦略セミナー」(大阪市・グランキューブ大阪、オンライン併用)を開催した。会場・オンライン合わせて約250人が参加し、実際の事例を交えながら、中小企業の将来を拓く手段としてのM&Aの可能性を共有した。
中小企業庁によると、民間M&A支援機関を通じた中小M&A件数は年々増えており、2021年度3403件、22年度4036件、23年度は4681件に達した。件数が伸びる一方で、「乗っ取り」「トラブル」といった負のイメージも残る。
こうした状況を踏まえ、第1部の事業者向けの基調講演では、中小企業庁財務課長補佐の長縄遼太郎さんが国の取り組みを説明。「仲介会社やアドバイザーの質の底上げを進め、安心して相談できる環境づくりを進めている。特に若い経営者には、M&Aを〝攻めの戦略〟として捉えてほしい」と呼びかけた。
売り手・買い手4社が語る〝リアルな現場〟
続く第1部のパネルディスカッションでは、売り手・買い手の立場から4社が登壇し、実体験に基づくM&Aの姿を語った。
製造業同士の事例として、八尾市の溶接業・株式会社ミヤザキが板金加工の沖野製作所(大東市)を買い受けた経緯を紹介。宮崎社長は「数字以上に〝この人と一緒にやれるか〟を重視した」と述べ、売り手の沖野氏も「不安はあったが、仕事を通じて信頼が深まり、思いを丁寧に受け止めてもらえた」と振り返った。成約後は工程の内製化が進み、短納期対応や受注拡大などにより成長が加速しているという。
奈良県吉野町で仕出し業を営む(旧)上市魚市場の事例では、後継者不在や家族の病気から廃業も考えた中谷氏が、「地域の高齢者の食を守る責任があった」と相談に踏み切った。買い手となったミライトリンクの中本社長は「単なる買収ではなく、地域インフラを守る役割に価値を感じた」と語り、現在は配食・観光分野での新たな事業展開へとつながっている。
いずれのパネリストも、「事業を一緒に進める上で対話がいかに重要性か」を語り、参加者は熱心に耳を傾けていた。
第2部は金融機関向けに、地域金融が担うM&A支援の役割をテーマに開催。近畿財務局と中小機構近畿本部による基調講演が行われ、続いて地元銀行や信用金庫が登壇し、各行の取り組み実例を紹介するパネルディスカッションが行われた。


