本紙編集長であり「もりぐち夢・みらい大使」を務めるU.K.こと楠雄二朗は、この地域の最大の魅力は〝人〟だと語る。京阪エリアで活躍する人々に迫る「みらいびと」。今回は、ITを活用した農園作業やユニバーサル野球を通じ、重度の障がい者にも社会との繋がりや楽しみを提供している谷岡哲次さん。娘の難病と向き合った日々、多くの人への感謝、そして他者の人生を豊かにする取り組みについて聞いた。

─障がい者支援事業を始めたきっかけは。
門真市の中村工務店で住宅営業をしていたころに生まれた次女は、成長がゆっくりで、生後半年から1歳頃にかけて、それまでできていたハイハイなどが徐々にできなくなっていきました。いくつも病院を回りましたが、診断がつくまでに2年かかりました。当初は「小脳の働きが弱い」との見立てもあり、リハビリで改善する可能性も示されていました。
それでも「何かおかしい」という思いは拭えず、自分で情報を探したところ、全く同じ症状のブログを見つけ、専門医に相談。2歳頃に「レット症候群」と診断されました。
─「レット症候群」とは。
女児のみに発症する難病で、約1万~1万5千人に1人の割合とされる進行性の神経疾患です。治療法は確立されておらず、徐々にできていた動作ができなくなるほか、側弯症やてんかん、手を口に入れたり揉んだりする常同行動も見られます。治療法がないという事実に大きな不安を抱く中、「治療法確立の一助になれば」と2011年、NPO法人「レット症候群支援機構」を立ち上げました。
─周囲の反応や支えは。
長年過ごしてきた門真・守口の地域には、下町らしい温かな人情があります。中村工務店の中村光伸社長も活動を後押ししてくれ、仕事より時にはNPO活動を優先することも認めてくれました。地域の方々の協力を得てチャリティイベントなどを実施し、研究費の寄付を続けています。累計支援額は約2000万円。治療法が全くない時代から続けてきた活動が実を結び今年、日本でも症状を緩和する治験が始まるなど、確かな成果につながっています。

─新たに生活介護事業所「スマイルキャンパス」を設立した理由は。
娘の紗帆は現在17歳。来年、支援学校を卒業しますが、卒業後の進路を考えたとき、重度の障がい者が十分に支援を受けられない状況があると感じました。「高校卒業後のキャンパスライフのように過ごせる場所をつくりたい」と考え、2年前に事業を立ち上げ、昨年4月に門真市で「スマイルキャンパス」を開設しました。
─「スマイルキャンパス」のユニークな取り組みとは。
ITを活用した農園作業では、視線でパソコン画面を操作し、自動で水やりができる仕組みを導入。重度の利用者でも椎茸栽培に参加でき、収穫物を地域企業に納品することで社会との繋がりが生まれています。

また、「ユニバーサル野球」をアプリで遠隔操作する「ウルトラ・ユニバーサル野球大会」にも、来年から参加します。全国各地のチームが出場し、元NHKアナウンサーの内多勝康氏の実況や元プロ野球選手(今年は岩隈久志氏)の解説も入る本格的な大会です。単なる余暇ではなく、練習や試合を通じ、利用者が仲間とのコミュニケーションや達成感を得られる場になっています。来年11月の第4回大会で優勝を目指し、練習試合など頑張っています。

─難病支援を続ける中で、得たものとは。
活動を通じ、普段なら出会えなかった多くの人とつながることができ、「人への感謝」の気持ちが強くなりました。活動を見て「勇気づけられた」と手紙をいただいたり、長年寄付を続けてくださる方がいたりと、支えられてきた実感があります。
私にとって「レット症候群」は娘と共に歩む〝人生そのもの〟です。決してネガティブな存在ではなく、娘が生まれてきた意味にもつながるものだと信じています。治療法確立に、少しでも貢献し続けたいと思っています。

