3月16日、沖縄・辺野古沖で修学旅行中だった同志社国際高(京都・京田辺市)の生徒らを乗せた小型船2隻が転覆、女子生徒(17)と船長(71)が死亡、生徒ら14人が負傷。5月6日、福島・磐越道で北越高(新潟市)男子ソフトテニス部員20人を乗せたマイクロバスがガードレールなどに衝突し、男子生徒(17)が死亡、ほかの部員らが重軽傷を負った。この2つの事故には「学校が管理し切れていない校外活動中に、生徒の命が失われた」という共通点がある。文科省は学校側の管理体制不備を指摘、国交省は旅客に当たる生徒が乗った船やバスに営業・事業許可が降りていなかった事を重く見て調べを始めた。そこには校外活動を現場教師に任せ切りにした学校側との深い意識差があった。

「現場丸投げ」で済まぬ実態 国は対策だけ指示するが!?
「抗議船利用」知らぬ学校
二つの事故を詳細に見ていく。辺野古での転覆は、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に反対する市民団体の抗議船2隻に、生徒らが分乗して起きた。沖縄戦跡などを巡る〝平和学習の一環〟との位置付けだが、文科省は「政治活動禁止を定めた教育基本法に違反する」として、設置者の「学校法人同志社」に対し是正を求めた。
平和学習実施の賛否について同志社側に言い分があるなら、堂々と述べればよい。問題はむしろ、学校側が乗船実態を全く把握していなかったことだ。抗議船は海上運送法に基づく事業登録がないにもかかわらず、謝礼を受け取って生徒らを乗船させた。生徒も現場に行くまで「抗議船に乗る」とは知らされていなかった。事前の安全指導は不十分で、乗員名簿の作成や事故保険への加入もなかった。教員による下見すら行われず、当日引率した2人は陸に残っていたため、転覆時に誰が乗船していたか当局へ名簿を提出するまでに約1時間を費やす事態となった。
事故後の捜査当局やメディアへの対応も、市民団体側は不十分だと言わざるを得ない。当日は波浪注意報が発表中だったが出港判断は船長任せだった。知床遊覧船事故を彷彿(ほうふつ)とさせる状況にもかかわらず、団体側は「ボランティアだった」として十分な説明に応じていない。
学校側は事故後の保護者説明会で「知らなかった」と繰り返した。同高の沖縄修学旅行で抗議船に乗るプログラムは、少なくとも数年前から継続実施されていたにもかかわらず、校長らは把握していなかったという。
変わらぬ〝伝統私学〟
背景には、建学の精神「自由自治」をはき違えた組織の無責任体質がある。同志社はかねて文科省や京都府から「教員の裁量や現場での自由度を重んじるあまり、組織のガバナンス(統治)や安全管理が機能していない」と指摘されていたが、それが最悪の形で露呈した。私自身、同志社の校友として過去に総長や理事長らへ改革提言をしてきたが、「本学は学部自治、学校自治だ」と気色ばんで門前払いされた経験がある。結果的に〝侵してはならない教員の既得権〟が常に優先され、法人全体での改革プログラムにお目に掛かる事はなかった。
法人は「第三者委員会による調査」を発表したが、裏返せば自浄能力の欠如を認めたに等しい。兵庫県の斎藤知事が第三者委員会の改善勧告を「一つの意見」と実質無視した例を見ても、単なる時間稼ぎに終わる危険性はある。国や府県など行政側のペナルティーも、せいぜい私学助成金のカット程度だ。数年前の日本大学がそうであったように、巨大私学は数年間補助金を減らされたくらいでは大したダメージを受けず、抜本改革は難しいのが実態だ。

遠征費「大幅増」必至
次は磐越道の事故についてだ。本来、遠征は新幹線や定期バスなどの公共交通機関を使えば安全確実である。しかし、大人数で移動し、用具や楽器の多い部活動においては、専用バスや保護者のワゴン車への分乗が常態化している。「緑ナンバー(営業車)」は安心だが高額で、観光シーズンは手配自体が困難だ。一方、レンタカーでマイクロバスを借りて運転手を外部に頼む「白バス」行為は比較的安価だが、無許可営業にあたり、保険加入も不確実となる。
今回のバス事故はまさに後者のケースだった。顧問教諭は自家用車で先導し、バスには同乗していなかった。手配を巡っては学校側と事業者側で主張が食い違うが、学校側はバス遠征自体を認識しつつも、運用実態は「顧問任せだった」と証言している。
国交省・文科省動く
これらの問題を受け、文科省は5月、国交省と協議した上で部活動遠征時の安全確保に関する通知を出した。要点は以下の通りだ。
①「緑ナンバーの確認」:ナンバープレートを撮影し報告書へ添付。
②「レンタカー(白ナンバー)の場合」:運転手の登録確認、検温・アルコールチェックなどの記録保存。
③「無理のない計画と準備」:早朝出発や深夜帰還の禁止、前泊や新幹線利用の推奨。
④「管理体制の強化」:責任教師と学校間の連絡・報告の徹底。
このガイドラインを厳格に守れば遠征費用はこれまでの倍以上となり、学校や保護者、後援会などがその負担を強いられる。保険加入が必須となる上、最寄り駅から離れた試合会場は変更を余儀なくされ、大会日程の調整が必要になるケースも出てくるだろう。
費用負担の増加によって生徒が参加を断念しないよう、既に岩手や長野の一部公立校では、登下校用スクールバスを土日祝日にシェアリングする試験的サービスを始めている。当面は、夏休みに開催予定の全国高校総体(滋賀県を中心に近畿2府4県)や、全国中学校体育大会(主に中国地区5県)での参加移動に大きな影響が出そうだ。

どうする?「働き方改革」
学校保健安全法は、「学校設置者(理事長など)および校長は、校外学習を含むすべての教育活動において生徒の生命・身体の安全を確保する義務を負う」(安全配慮義務)と規定している。事故が起きれば、業務上過失致死傷などの刑事罰に加え、民事上の損害賠償責任も問われる。
教員の自主的裁量で長く運営されてきた教育現場が「安全管理の厳格化」を徹底すれば、費用だけでなく教職員の事務作業時間も飛躍的に増大する。これは〝働き方改革〟が目指す「教員の負担軽減」の流れと完全に逆行している。
解決策は、欧米のように「教員は授業のみ」とし、スポーツや文化活動は外部指導者による「地域クラブ化」へ完全分離することだ。修学旅行時の安全対策もプロの旅行添乗員に任せるべきである。少子化対策として公立・私立を問わず高校無償化が進む今、授業外活動における安全管理の対応がこれ以上後手に回ることは許されない。
