WBCは〝無料の娯楽〟ではない 500円論争に見る時代のズレ

 野球の世界大会ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)はベネズエラが優勝。日本はベスト8で幕を閉じた。
 今回はテレビ放送がなく、ネットフリックスの有料配信でしか視聴できないことで、開幕前から「貧乏人には野球を観るな、ということか」「地上波で放送しなければ視聴できない」など非難や苦情の声が相次いだ。
 私はこうした日本人の反応に驚いた。「日本人は月額500円すら払えないほど貧乏になってしまったのか」という思いや、「有料のテレビ放送やストリーミング配信サービスは10年以上前から一般的に利用されていることを知らないのか」と思ってしまった。自分たちがNHKの有料放送を契約していることすら忘れてしまったのだろうか…。
 さて、試合の内容はすばらしかった。日本戦だけでなく、他国同士の試合もエキサイティングだったし、ベスト8からの試合は最高のエンターテインメントコンテンツと言っても過言ではないほど見応えがあった。
 これがたったの500円で視聴できるなんて、私はありえないほど安過ぎると思っている。
 今、500円で買えるものは牛丼並盛りやラテ1杯。有料だから視聴できないと言う人は、WBCの観戦が牛丼一杯より価値がないのだろう。
 NHKの会長は地上波で放送されなかったことを問題視しているそうだが、時代錯誤だ。ネットフリックス以上に放映権料を支払えば地上波で放送できたのに、そうしなかった。さらに言えば、そうできないビジネスモデルに固執していることが元凶なのだ。問題の本質をすり替える発言に、テレビ業界の未来のなさを感じてしまう。
 すばらしいコンテンツには、それだけの価値がある。今回のWBCはお金を払ってでも見る価値のある内容だった。
 米国を筆頭に世界の大多数の国では、スポーツはエンタメとして高い人気を誇り、お金の稼げるコンテンツとして認識されている。このため、放映権料が高騰するわけだが、日本だけが流れに逆らっても、外資のプラットフォームに勝てるはずがない。こういうことを理解して対抗策を打たなければいけない。日本の視聴者だけに目を向けていては視野が狭すぎる。
 WBCはメジャーリーグと選手会が主催する米国発のグローバルビジネス。そこに絡むメディアはネットフリックスをはじめ、外資のプラットフォームも含まれ、グローバルの視点で野球の普及や発展をサポートしている。日本のメディアや視聴者は、このことを理解しなければいけない。
 野球はスポーツだが、メディアに載った瞬間、スポーツエンターテインメントというコンテンツになり、ビッグビジネスに変わることを忘れてはいけない。

【プロフィル】米ニューヨーク州立大ビンガムトン校卒業。経営学専攻。NY市でメディア業界に就職後、現地で起業。「世界まるみえ」「情熱大陸」「ブロードキャスター」「全米オープンテニス中継」などの番組製作に携わる。帰国後、ディスカバリーチャンネルやCNAなどのアジアの放送局と番組製作。経産省や大阪市等でセミナー講師を担当。文化庁や観光庁のクールジャパン系プロジェクトでもプロデューサーとして活動。
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