好況感どこへ? 生活実態苦しいまま!
日経平均株価が5月19日、バブル期以来の33年ぶりに最高値を更新し、3万1千円台の3万1086円を付けた。本紙の締切日時点(6月5日)にはさらに伸び3万2000円台で終了した。
株取引をやっているのは日本では総人口の1、2割程度と言われているから、ほとんどの人はピンとこないだろう。とはいえ、今年1月4日大発会での終値が2万5716円だったから、素人目でも今の急激な値上がり状況はお分かりいただけるはずだ。
しかし、株は上がれど生活がラクになっている実感がないのが実情。相変わらず円安状態が続き、原料を輸入に頼っている日本は物価高。そこに賃金上昇が追いついていないから、市民の生活実感として「誰が日本株を買っているの?」というのが正直なところだ。内幕を探ってみよう。
円安に飛び付く外国人マネー 見直される「手堅いNIPPON」
日本株「人気」の背景ズバッ!
まずは現状を正しく認識するために、世界の株価の動きを年初から振り返ってみる。EUが10・6%、米国は0・5%の上昇だ。対して日本株は20・9%とはるかに高い。
この日本株の伸びについてNHKの分析は─
①欧米の金融不安への意識が後退している
②日本企業の決算が好調。東京証券取引所(東証)上場の主要企業前年度最終利益が2年連続で過去最高
③実態に比べ株価が低い企業に東証が改善を要請している
④その結果、企業は自社株買いを増やし株価を支えた
⑤日銀が金融緩和を継続している─を分析結果として上げている。
そして⑥として最も強調しているのが〝投資の神様〟と呼ばれるウォーレン・バフェット氏(92)が、それまで外国人投資家に見向きもされなかった日本株見直しを示唆したことによる『バフェット効果』だ。
外国人投資家にとって、円安ニッポンは株価が〝超〟がつくほどの割安に映っている。外国人観光客はお買い得な日本マーケットを目指し、インバウンド効果が一気に上昇。国が2025年の大阪・関西万博時を目標にしていた来訪者数と消費額を、速くも今年に達成しそうな勢いにある。
さらに、ウクライナ侵攻に揺れる欧州市場や、台湾有事を含めて不安定な中国市場と比べると、日本株は紛争リスクが低い。加えて、コロナ禍からの回復が欧米より遅れた分、「国内需要の伸びを含め日本の好況はまだ続く」などの分析が期待感に結びついている。
日本企業では、円安に乗じて機械製造などの輸出関連業が好調。バフェット氏も注目した商社は、いわばエネルギーの輸入業者と化しており安定している。今年に入って食品や燃料だけでなく、さまざまなモノが値上がりしているが、値上げができた企業は株価にも好影響。
本来、企業は収益が増えると設備投資や賃上げをして、次の成長を目指すのがあるべき姿のはず。しかし、日本企業はもっぱら収益を自社株買いに回し、株価を下支えしている。これは東証が、持っている純資産よりも株価が低い企業に改善を求めていることも影響している。あのお堅い日本郵政ですら、「発行済み株式の10%を上限に自社株買いする」と発表するほどだ。東証からすれば、企業の意識を株主還元に向かわせることで、世界からの日本株投資を増やしたい思惑がある。
さて、企業が自社株買いをすると、世の中に出ている株数が減り、1株当たりの利益が増えるから投資家にとってはプラス。一方で、利益が株主還元に回り、労働者や消費者に十分還元されない。今回の株価高騰に対し「実力ではない、期待値だけのバブル」と揶揄されるのはそのせいだ。
「投資の神様」日本株注目
この株高を作り出した正体は、外国人投資家だ。今春までの日本株は、国や企業、個人投資家と国内資金で買い支えていたが、春から一転。外国人が買いはじめ、すでに3兆6000億円の資金が流れ込んでいる。
世界の膨大なお金が今、日本株に流れているのはなぜか。運用資金というものは、より安全なところへ流れる習性がある。ドルやユーロはロシアのウクライナ侵攻で、基軸通貨として不安定になった。さりとて人民元やインドルピーなども信用性が低い。その分、ゴールドなどの貴金属価格が上がっている。
そう考えると、コロナ回復が遅れた日本株は当分の間は安定成長が見込まれる。消去法で投資先として見直されたわけだ。
『バフェット効果』の震源地・バフェット氏は、米国投資会社「バークシャー・ハザウェイ」の経営トップで、個人資産15兆円以上と言われる大物。4月に来日し、5大商社をはじめとする日本株の買い増しを示唆した。
「自分で分析して納得できた会社の株しか買わない」との経営哲学を持つ彼の効果は絶大。成長要素が低く、長年外国人投資家から無視され続けた日本株に一躍世界の注目が集まった。
「官製相場」解消は今だ
この株高状況は、優良企業株を国や日銀が大量に保有する「官製相場」を解消するチャンスでもある。株価が低迷している時は、持ち株を市場に放出するとさらに値下がりしてしまうから簡単にできない一方、現在のように外国人投資家の参入で値上がりしている時は、利益を確定させて売り抜ける絶好のチャンスだ。
しかし、急落リスクを常に慎重に見定める必要がある。1990年8月、イラクのクエート侵攻で東証の株価は2カ月で1万円も一気に下落。バブル崩壊へと迷い込んだ苦い経験がある。企業収益力は当時よりあるが、政府日銀は依然慎重姿勢を崩さない。
また日銀は総裁交代を経ても金融緩和を続けているが、仮に内需が活発で好況が続き、ゆるやかなインフレに向かっていることがはっきりすると、一定の金融引き締めが必要になってくる。つまりゼロ金利で市中に資金をジャブジャブ供給し続ける政策を変更する可能性が出るが、このさじ加減が実に難しい。
心配なのは「アメリカがくしゃみすると、日本は風邪を引く」ともいわれる米経済の動向。米が本格的な景気減速に入ると日本への影響はかなり大きいが、すでに来秋の米大統領選に向けて民主・共和両党の候補者選びが動き出しており、景気への悪影響な施策は与野党共に取りにくい。こうした現在の兆候が今年後半まで続けば、日経平均は3万3000円台も夢ではない、と見る。
実は「最後のチャンス」か!?
今春の春闘での賃上げ率は、労働団体「連合」の集計によれば30年ぶりの高水準となる2・1%アップだった。労働人口は少子高齢化を背景に、IT関係を中心に高い能力の人材が慢性的に不足しており、高い株価を背景に収益を新たな投資に回せない企業は「発展が見込めない」と判断される。
外国人投資家の参入は頼もしいが、彼らは世界を市場にしているから「ダメだ」と見下されたら引き足も驚くほど早い。
今回の株高を一時的なバブル状態に終わらせないためにも、本気で世界中の投資家から信用を得る企業体質に改善させないと、日本経済は世界から取り残され、本当に終わってしまう。その最後の分岐点になるかも知れない。