起業で約7倍の価値に?
若い世代を中心に、近年「起業」や「投資」への関心が高まりつつある。そこで改めて、「会社を興すとはどういうことか」「株式とはそもそも何なのか」といった基本的な解説をする。
売上から企業価値を測る「マルチプル」の考え方
ある人物が立ち上げたのは、あるアイデアを用いたITビジネス。創業から間もない段階で年商は500万円に達し、1年後には1000万円規模まで成長する見込みだという。
このような初期段階の企業評価には、売上高に一定の倍率(マルチプル)をかけて企業価値を推定する方法が用いられる。たとえば、2倍というマルチプルを適用した場合、将来の年商1000万円のビジネスは2000万円の企業価値を持つと見なされる。
この企業に初期出資者として51・0%の株式を持っていた場合、その株式の評価額は1020万円に相当する。初期投資額が150万円だったとすると、その価値は実に6・8倍に跳ね上がった計算となる。
株は〝価値〟だが、すぐに売れるとは限らない
ただし、これはあくまでも〝紙の上〟での理論的価値であり、株式を実際に売却しようとした際にすぐ買い手が現れるとは限らない。こうした状態を「流動性が低い」という。こうした背景から、多くの企業は誰もが売買可能な株式市場に上場することで、流動性を確保しようとする。
株主は「会社の一部」を所有している
株式とは、企業が資金を集めるために発行する証券であり、それを持つ株主は会社の〝所有者の一人〟という立場となる。アップルの発行済み株式数は、全世界で149億株以上とされているが、そのうちの100株を保有すれば、出資比率はごくわずかであっても、正真正銘の株主だ。
株主は、企業が生み出した利益の一部を「配当」として受け取る権利や、経営に関わる重要事項に対して「議決権」を行使することができる。
起業家が大きなリターンを得る理由
自ら事業を起こした人が高いリターンを得られるのは、時間や労力などの〝汗の資本(スウェット・エクイティ)〟を投じて事業を成長させるからだ。今回のように数倍の価値がつくケースも、リスクを取り、先行して動いたからこそ得られた結果だ。
一方、既に上場している企業に投資する場合、値上がり益が数%でも成功とされる。起業に比べてリスクや見返りが控えめになりがちだ。それでも「働かずに資産が増える」という受動的なリターンは、投資の大きな魅力の一つだ。
「価値を見抜く力」が問われる世界
企業の価値を測る指標には、売上高を基準とするPSR(株価売上倍率)だけでなく、利益に着目したPER(株価収益率)もある。だが、これらの数値が高いからといって必ずしも「割高」だとは限らない。
高級ブランドのエルメスやシャネルのように、高い評価を維持し続けている企業には、それだけの理由がある。むしろ、安いからというだけで投資するのは誤った判断となりやすい。
「価値は一日にして成らず」
ブランドビジネスの世界には「ブランドは一日にして成らず」という言葉がある。企業もまた同じで、顧客からの信頼や市場での評価は、地道な積み重ねによって築かれていく。
投資とは、そうした「本質的な価値」を見抜く力が求められる世界。自分自身で会社を興すことで得られる経験も貴重だが、他人が立ち上げた企業に参加する。すなわち株式投資によってその成長を支え、果実を得るという選択肢も、これからの時代には重要なスキルの一つとなる。