100年を超える吉本興業の歴史で常に屋台骨を支えてきた上方落語の系譜を継承しよう、と林家菊丸(50)、月亭方正(56)、桂かい枝(55)の50代噺家3人が5月16日夜に「特選よしもと三人会」と題し同社のホームグランド「なんばグランド花月(NGK)」で行う事になり意気込みを語った。

昨年芸歴30周年を迎えた菊丸とかい枝は〝華の94年組〟と呼ばれるバリバリの中堅世代。NSC(吉本総合芸能学院)大阪校6期生で山崎邦生として漫才師やピン芸人を経て噺家に転じ今年で17年目の方正はまだ若手扱いだが年が近く、同じ吉本所属とあって3人はこれまでも同じ演目をリレー形式で行うなど一緒に落語会を開催する機会もあった。

昨年それぞれがNGKでの独演会を成功させ、今年は3人揃って〝特選よしもと〟と銘打っての初の三人会開催が決まった。三人会お約束の出番順抽選は、開幕トーク後にくじで出番順を決定。各持ち時間30~40分で、前の2人後に中入り休憩、最後の1人がトリを取る。当日の演目はこの日高座上で即席の話し合い。まず菊丸が「しばらくやってないので、立ち切れ線香!」と笑いが少ない上方落語屈指の人情噺をチョイス。続いて方生は囲碁好きが意地を張り合う江戸落語の人情噺「笠碁」を「亡き(桂)ざこば師匠がやっておられるのを聞いて感動したから」と選択。最後のかい枝は「う~ん、2人とも人情噺かぁ…」と腕組みして思案した末に大ネタ〝東の旅〟の一部で京都から大阪へ下る川旅船中が舞台の「三十石」を上げた。「2人が人情物なので、僕はハメ物(伴奏)も入る楽しい噺を」と説明。方生が「どういう順番で演じるか分からんけど、互いに化学反応起こすはず。ぜひご覧下さい」とPRした。

吉本の笑いは漫才や新喜劇のイメージが強いが、戦前の創業期を支えた人気者初代桂春団治と女性興行師吉本せいの「口に差押札」の逸話は有名。松竹に遅れを取った復興期は笑福亭仁鶴、桂三枝の2大スターがテレビの人気者となり伝統を維持、今日の隆盛へとつなげた。

3人の師匠や大師匠はその礎を築いた功労者だけに、菊丸は「大師匠の三代目染丸は京都、梅田、なんばの当時の花月3館にほぼ毎日出てはった方。花月の看板に〝林家〟が常に1人は居るようにとの覚悟があります」と決意。テレビで人気が出た方正も「元々吉本が大好きでタレントになった。遅咲きの40歳で落語家になり、〝やっと芸人になれた〟と感じた。それでもNSCには毎年1千人規模で入学してくるのに、上方落語協会の新人は、このところ毎年1人か2人。これではアカン。吉本のためにも僕らで落語を盛り上げたい」と宣言。かい枝は「このNGKの夜の特別公演時の高座から見る景色は素晴らしい!」と前置きし、「エンタメが多様化している時代、昼の本公演のトリを取れるような魅力ある噺家が出てこないと会社もファンも待ってくれない」と危機感を強めた。3人は「初回なのでまずは成功し、毎年恒例で開いていただけるよう頑張るしかない」と決意を込めた。
(畑山 博史)