「おむすび」と一言にいっても、つくる人によって個性はそれぞれ。シンプルな料理でありながら、味にも形にも作り手の想いが表れるから不思議だ。「店舗ごとに一つひとつ違います。色々な作り方を学びましたが、結局私のおむすびになってしまいますね」と話すのは、淀川区東三国におむすび専門店「恩結び-on-」をオープンした高井由美子さん。
もともと、エステ系の業界で長年働いていたが、亡くなった夫が生前に話していた「飲食店をやりたい」という遺志を継いで開業を決意。まったくの未経験でありながら、一から調理師の経験を積み、調理師免許を取得。さらに、東京の有名おにぎり店のオーナーから直接指導を受けるという奇跡のような縁にも恵まれ、開業の一歩を踏み出した。
店内で提供するおむすびは、作り置きをしないことにこだわる。温かくフワフワの状態で、具が端から端まで詰まっているのが特徴。35種類の具材は、絶対に売り切れを出さないのがポリシーだ。当然ロスは発生するが「店が潰れるとしても、これだけはやりたい」と言い切る。
利益よりもお客優先はメニューにも。そのひとつが、お米で作った「恩(し)パンケーキ」だ。きっかけは、小さな子どもとお母さんが、店内で誕生日パーティをしてたある日のこと。声かけてみると、極度のアレルギーで米しか食べられないという。その米でさえも粉にするとショック反応を起こしてしまう。そこで、生米と卵、アレルギーの少ないきび糖、ぬか油だけで、パンケーキをつくろうと決心。実に完成まで52回も試行錯誤を重ねた。
「自由に食事を楽しめない人にも、喜んでもらえるものを作れたらいいなと思っています」。この一言に営業姿勢のすべてが凝縮されているのではないだろうか。
将来の夢は、子ども食堂の開催だ。子育ての負担軽減に貢献しながら、子どもでも気軽に足を運べるような店づくりが理想。「規模拡大よりも、地元で愛されながら長く続けたい」と将来のビジョンを描く。
(紙面・女性起業家特集より抜粋)
■恩結び-on- 大阪市淀川区東三国1丁目20-2