来年4月13日の開幕に向け、300日を切った大阪・関西万博。前回は〝万博の華〟と呼ばれる海外パビリオンについて取り上げたが、今号では国内のパビリオンをクローズアップ。万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を具現化するシグネチャーパビリオンを中心に、その全体像に迫りたい。(佛崎一成)
前号で紹介した華やかな海外パビリオンも見どころの一つだが、日本がつくるパビリオンも期待大だ。目玉のシグネチャーパビリオンが8つ、NTTやパナソニックHD、吉本興業HD、パソナグループなどが展開する民間パビリオンが13、ほかに日本政府が運営する日本館、大阪府市のヘルスケアパビリオンなどが6つあり、多彩な27館が展開される。
日本を背負う8人がプロデュース
まずは今万博のテーマ「いのち輝く─」を象徴するシグネチャーパビリオンについて紹介したい。同施設はロボット工学の第一人者・石黒浩さんや、メディアアーティストの落合陽一さんなど現代の日本を背負う8人がプロデュース。〝いのち〟をキーワードに計8つのパビリオンを展開する。
博覧会協会で広報・プロモーション局長を務める小林浩史さんは「(同パビリオンは)1970年の大阪万博でいえば、岡本太郎さんの太陽の塔の下にあったテーマ館にあたるもの。そう考えればイメージしやすい」と説明する。目玉だけに会場のど真ん中、大屋根リング内の中心に陣取る。
内容をいくつか見ていこう。ロボット研究の石黒さんは、人間とアンドロイドの関係が未来社会でどうなっているかを見せ、人間と科学技術の融合によって「いのち」の可能性が広がる将来を描く。落合さんが描くのはデジタルとヒューマンが融合する未来だ。建物の外観だけでなく、内部も鏡のようになっていて、AI(人工知能)が作り出す自分の分身に出会える。
日本の技術や文化
続いてNTTやパナソニックHDなど民間企業や団体が出展するパビリオンを紹介したい。こちらは全部で13ある。
いくつかの出展企業と見どころを紹介すると、NTTは従来通信に比べ、データ転送容量で125倍、遅延を200分の1に縮小させたIOWN(アイオン)を紹介。IOWNという未来の社会基盤となり得る可能性がある通信を用い、距離という物理的なもの、離れているという心理的なカベを超えた世界を体験できるパビリオンを出展予定だ。
パソナはiPS細胞やiPS心筋シートの技術で作った「iPS心臓」を展示。培養液の中で実際にiPS心臓が拍動する様子も見られる。大阪外食産業協会では、大阪の食を楽しむだけでなく、音などの演出で見せ方も楽しませる。
小林さんは「子どもたちが好きそうなガンダムやお化けもあるし、技術をしっかり見せるNTTなど見どころがいっぱい。日本の技術や文化の可能性を再度感じてほしい」と話している。
その他のパビリオンにもふれておこう。
日本館(日本政府館)は外観は円を描くように無数の木の板を並べて〝いのちのリレー〟を表現。「ごみを食べる日本館」をテーマに会場内の生ゴミをバイオガスに変換して発電し、施設のエネルギーへとして使うなど「循環」を表現していく。
大阪府市が運営する大阪ヘルスケアパビリオンは、大阪の知恵とアイデアを結集して「いのち」や「健康」、近未来の暮らしを感じる展示を展開。70年大阪万博で話題となった〝人間洗濯機〟が55年の時を超え、アップデートされた状態で展示される。
偶発性を楽しめ
「会場の西側ゲート付近で空飛ぶクルマの発着エリアに隣接する『未来の都市』にも注目してほしい」
こう小林さんがアピールするのは、博覧会協会と企業がSociety5.0における未来の都市の体験展示を提供するパビリオンだ。リアル会場に加え、「バーチャル未来都市」を高度に融合し、未来の都市を再現。無人運転のロボット農機や未来のモビリティなど協賛企業各社が先端技術を紹介する。
海外に加え、国内も多彩なパビリオンが目白押し。会期中の来場者は多い日で20万人以上と試算されている。万博は尻上がりに来場者が増えるから、早い時期から訪れるのが得策だ。
小林さんは「これまで見たこともない展示にふれ、偶発性を楽しんでほしい」と呼びかけている。
8つのシグネチャーパビリオン
いのちの遊び場 クラゲ館/中島さち子さん(音楽家、数学研究者、STEAM教育家)
膜を張ったような屋根はクラゲをイメージ。国籍や年齢、性別、障害の有無と言った違いを超え、音楽や映像など五感で味わうSTEAMの新しい遊び場を提供する。
null2/落合陽一さん(メディアアーティスト)
建物は鏡面状になっていて、建物内ではデジタル上の自分の分身と出会える。物質とデジタルの境界がなくなり融合していくデジタルヒューマンの未来が体験できる。
EARTH MART/小山薫堂さん(放送作家、京都芸術大副学長)
料理の鉄人などをプロデュースした小山さんが、食にスポットを当てたパビリオン。建物内は、スーパーマーケットのような見せ方で、体験を通じて食がいのちであることの見つめ直しや、新しい食べ方のヒントを得られる。
いのち動的平衡館/福岡伸一さん(生物学者、青山学院大教授)
生物の循環を表す「動的平衡」を体感できるパビリオン。自分のいのちが粒子化され、悠久の生命進化史の流れに参加。生きること・死ぬことの意味と希望を再発見する体験ができる。
いのちの未来/石黒浩さん(大阪大教授、ATR石黒浩特別研究所客員所長)
人間とアンドロイドの関係が未来社会でどうなっていくかを見せ、人間と科学技術の融合によって「いのち」の可能性が広がる将来が体感できる。
Dialogue Theater ─いのちのあかし─/河瀨直美さん(映画作家)
奈良と京都の廃校を譲り受けた建物を活用。パビリオン内は見知らぬ人同士の「対話」を通じて、世界の至るところにある「分断」の原因を明らかにし、解決を試みる実験場。
Better Co-Being/宮田裕章さん(慶応大教授)
天井も壁もない建物で、静けさの森に一体化するイメージのオープンなパビリオン。自然の中に溶け込んだ装置が、霧や雨、光によって虹などのアートを演出する。
いのちめぐる冒険/河森正治さん(アニメーション監督、メカニックデザイナー、ビジョンクリエーター)
「マクロス」シリーズの監督・メカデザイナーがプロデュース。先端技術を活用して海洋、大地、そして宇宙のつながりを「リアル」と「イマーシブ(没入感)」で体感できる。
13の民間パビリオン
NTT Pavilion “Natural”/日本電信電話
大容量・低遅延・低消費電力の次世代インフラIOWNなど最先端技術を展示。遠くの人やものと空間や感覚を共有できる体験も。
電力館 可能性のタマゴたち/電気事業連合会
電力の未来社会を描くパビリオンで、エネルギーに関する〝可能性のタマゴ〟を数多く体験できる。
住友館/住友EXPO2025推進委員会
森の中でさまざまな〝いのちの物語〟に出会うインタラクティブな体験や、来場者が参加できる「植林体験」を通じて環境問題への関心を養う。
BLUE OCEAN DOME/特定非営利活動法人ゼリ・ジャパン
海洋資源の持続的活用と海洋生態系の保護をテーマに、来館者が楽しみながら環境保護の考え方を学べるパビリオン。
パナソニックグループパビリオン「ノモの国」/パナソニック ホールディングス
子どもたちのこころの持ちようが変わるような体験を通じ、「自分を信じるチカラと一歩を踏み出す勇気」が持てるきっかけを提供。
三菱未来館/三菱大阪・関西万博総合委員会
地上に浮かぶマザーシップのような建物。地下空間からパビリオンを巡り、深海から宇宙へ、いのちを巡る壮大な旅へと案内。
よしもと waraii myraii館/吉本興業ホールディングス
直径20㍍の笑顔の球体をメインエントランスに、広場ではさまざまなイベントやショーを楽しめる。楽しい展示やコンテンツも
PASONA NATUREVERSE/パソナグループ
心臓を作り上げるiPS心筋シートなどの最新テクノロジーを展示。鉄腕アトムやブラックジャックがパビリオンを案内してくれる。
GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION/バンダイナムコホールディングス
未来のスペースエアポートをイメージ。「ガンダム」を通して新たなテクノロジーや宇宙について興味を持つきっかけを提供。
TECH WORLD/玉山デジタルテック
立体映像技術などの展示を通じ、来場者の視覚・聴覚などの「六感」と交流。先端技術がわれわれの生活にもたらす変化を紹介。
ガスパビリオン おばけワンダーランド/一般社団法人日本ガス協会
「おばけ」たちと一緒に、未来に「化ける」ドキドキ・ワクワクの体験ができる来場者参加型のエンターテインメントパビリオン。
飯田グループ×大阪公立大学共同出展館/飯田グループホールディングス
外装は特殊加工された西陣織の生地。建物内では、新エネルギーで健康的・快適に暮らせる「未来型住宅」や「まちづくり」を紹介。
ORA外食パビリオン『宴~UTAGE~』/一般社団法人大阪外食産業協会
おもてなし、食体験、新境地、にぎわいなど、新しい外食の在り方「宴~UTAGE~」を世界に発信する。
その他のパビリオン(一部)
日本館(日本政府館)
「いのちと、いのちの、あいだに」をテーマに、万博会場内の生ゴミを利用したバイオガス発電や、世界に貢献しうる日本の先端的な技術などを活用し、一つの循環を創出。持続可能な社会に向けた来場者の行動変容を促す。
大阪ヘルスケアパビリオン
「REBORN(リボーン/再生、復活)」をテーマに、「いのち」や「健康」の観点から、子どもから大人まで楽しみながら未来の大阪の可能性を感じられる展示体験を提供。パーソナルヘルスレコード(PHR:個人の健康等に関する情報)をもとに生まれた2050年頃の自分と出会い、一緒にミライのフードやヘルスケアを体験する。
関西パビリオン
「いのち輝く関西悠久の歴史と現在」をテーマに、関西の9府県が出展。建物の白い膜には、プロジェクションマッピングを映すほか、切り絵をデザイン。内部では関西各地の歴史文化、観光などを発信。
未来の都市
博覧会協会と12の協賛企業が未来の生活を展示。「交通・モビリティ」「環境・エネルギー」「ものづくり・まちづくり」「食と農」の分野で先端技術などを紹介していく。