【万博コラム】世界と日本をつなぐボランティア ルクセンブルクのLenaとYannickの挑戦 お金では得られない価値

 ルクセンブルクパビリオンでスタッフとして活躍しているLenaとYannickの2人に話を聞いてきた。

左からLenaとYannick

 二人は、6月初旬に来日し、8月半ばまで約2カ月間、ボランティアとしてこのルクセンブルクパビリオンで働いている。インタビューした週が彼らにとっての最後の週だった。

ルクセンブルク、万博、インタビュー

 ルクセンブルクパビリオンでは、2カ月ごとにルクセンブルクから2人のボランティアスタッフが来日し、日本で雇われた日本人スタッフ33人とともにパビリオンの現場運営を担っている。そのため来週には新たな2人がルクセンブルクから来日して、LenaとYannickと交代で業務を担当するという。

 Lenaは、今回が初めての万博でのボランティアで、Yannickは、前回のアラブ首長国連邦で開催されたドバイ万博でもルクセンブルクパビリオンでボランティアをした経験がある。

 彼らの業務の中心は、マネージメントチームと日本人スタッフの間を取り持つ橋渡し役としての存在。1日の中で4時間は日本人スタッフとともに過ごし、残りの4時間をマネージメントの人たちと過ごしている。「マネージメントの人たちと日本人スタッフももちろん直接話をしますが、それでも両者の間を繋げるのが私たちの役目だった」とLenaが教えてくれた。

 業務について聞いてみると、
 Yannick 「日本人スタッフからは彼らの視点での考え方や日本の習慣や行動様式を学び、またマネージメントの人たちからは彼らの立場での考え方を理解して、それら両者をうまく繋げていくことが毎日の業務だった」

 ボランティアの仕事に就くための条件を聞いてみると、Yannickは「日本語は絶対条件ではなく、できるとプラス、という位置付けで、それよりもオープンマインド(新しい考え方や意見に対して偏見を持たずに受け入れることができる、柔軟で寛容な心の状態)であることが重要」だというので、「ルクセンブルク人は皆オープンマインドではないのか?」と聞いたところ、「確かにそれは正しいが、自分の意志でどんどん知らない人に声をかけて行ったりするか、というと、それは誰にでも当てはまることではない」という回答で、国民全体がオープンマインドでお喋り好き、多言語を話せるルクセンブルク人でも、知らない人にどんどん話しかけるのは難しい、という新たな発見でした。

 Yannick 「この業務を行うためには、ルクセンブルクのことを知っている必要がある。歴史や文化、経済や政治、社会など、日本人が知りたいかもしれないルクセンブルクのことを説明できるように知識をつけておく必要があった。それ以外にもコミュニケーションスキルは絶対に重要だし、忍耐力も必要。特に価値観や考え方の違う外国人と話をするような場合は、相手のことを理解する努力が必要で、そのために忍耐力が求められる。私たちはルクセンブルク語以外に、英語やドイツ語、フランス語を話せるので、相手の母国語で話が出来ると、その瞬間強い結びつきを感じて、話の内容は一気に深まる」

 LenaもYannickと同じく、オープンマインドでないといけないという。

 Lena 「私たちは来館者からするとルクセンブルクを代表している存在なので、ルクセンブルクのことを知らずにはできないし、日本人スタッフとの協力体制も必要。また多くの来館者が一緒に写真を撮りたがるので、それにも応じています。そうすることで来館者がよろんでくれるのがわかりますし、こういう行動を取るためにはオープンマインドでなければ難しいと思う」

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 このボランティアというポジションに応募した理由を聞いてみたところ、2人とも、ほかではできないような経験ができると挙げてくれた。

 Lena 「万博については小学生の頃に教科書で少し習ったくらいで、詳しいことは全く知りませんでした。それでも2カ月間、日本に住んで自分とは全く価値観や生活様式の違う人たちと過ごせることは貴重なことだと思って応募しました。人生の内の2カ月を過ごすには魅力的な内容ともいえます」

 Lenaは、学業を終えた後インターンシップを経て、9月から正社員として働き始める予定で、その間の夏期間に予定がなかったため、万博のスケジュールがぴったりハマったという運もあったようだ。

 Yannick 「私の場合は、前回のドバイ万博の経験があったので、今回の応募には最初から参加したいと思っていた。過去の経験から、世界はもっとコミュニケーションを取るべきで、オープンになるべきだと思っている。私たちがルクセンブルクはこんな国だよ、と伝えると同時に、他の国についてもどんな国なのか知りたいし、伝えてもらいたい。そうすることで国境を超えた友人ができて、自国以外の状況や事情、機会の有無など様々なことを知ることができる。それが自分を成長させてくれる糧になる。大阪万博はその機会を与えてくれている」

 Yannickは、来日前、正社員として働いていたが、上司に対して「無給で構わないから2カ月間休暇を取りたい」と掛け合って休暇を得た。驚いたのは休暇をくれたボスの判断もそうだが、Yannickはその会社に入社してまだ半年も経っていないということ。入社間もない社員がいきなり2カ月の休暇を求めたら日本では間違いなく却下されるだろう。

 彼のボスは、Yannickが日本のことを学んだり、コミュニケーションスキルを磨いたり、社会人としてのスキルを身につけたり、とどう成長して帰ってくるかに期待してくれた、という。ただ、Yannickも、ルクセンブルクの企業とはいえ、この機会を得られたことはかなりラッキーだったと思う、と語っている。以前に務めていた企業ならきクビになっていたかも、とも。

 日本に来て最も驚いたことを尋ねてみると、
 Yannick 「もう尊敬の念しかない。どこに行っても清潔だし、人は丁寧で親切。言葉が話せなくても親切に対応してくれる。他の国でも親切にしてくれるところはあるが、日本は特別。例えば、日本人は私のいうことを全く理解できなくても、手振りや身振り、Google翻訳などあらゆる方法で助けてくれようとする。これは凄いことだと思う」

 Lena 「私の父は90年代に仕事で日本に住んでいました。そのため、家族は何度か日本にも旅行で来たことがあり、彼らからは、日本はどこに行っても日本語だらけで英語の表記がない、外国人旅行者というだけで一緒に写真を撮りたがる、そして全ての物が超高い、と聞いていました。しかし、実際に来日してみると、地下鉄には英語表記が溢(あふ)れているし、Google翻訳で困ることはないし、おまけに8ユーロで夕食が食べられるなんて信じられないほど物価が安いことに驚きました。ルクセンブルクでは8ユーロで夕食なんて考えられません。他にも父は日本には外国人旅行者はほとんどいない、と言っていたのに、実際は外国人だらけです。なので父から聞いていたことと現実が違いすぎてそれが最大の驚きです。30年の間に物凄く変わっていたようです。もう一つ付け足すとすれば日本人は列に並ぶのが好きだということかな」

 Yannick 「ドバイ万博は、大阪万博の会場と比べると多分2倍以上の広さがあったので、大阪万博は混み合っているように見えるが、それは敷地が狭いからだろう。またドバイは地理的に国際便が飛んでくるのに便利な位置にあるので、世界中からの来場者が集まり、来場者全体の8割は外国人で、ドバイの国内からの入場者は2割程度だったと思う。アジアの東端に位置する日本は地理的に世界中から飛んでくるには少し不便な場所だったのは否めないかも。またパビリオンを建てるために必要なものを運んでくることを考えても、ドバイと比べるとやはり一苦労が必要になってしまう」

 現実をよく観察している。

 そして最後にLenaに同意するようにYannickは「日本人は列に並ぶのが好きだ! そしてルールがめちゃくちゃ多く、それにきっちり従っている」と驚きを隠せまなかった。それはルクセンブルクとはかなり違うようた。

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 それを聞いたLenaは「列に並ぶのに加えて待つのも大好きなようですね」と笑っていた。20時頃にスタートする花火を見るために大屋根リングに18時頃から待機している様子が印象的だったそうだ。

 お気に入りのパビリオンはあったかを尋ねてみたところ、

 Lena 「コモンズ館に行ったのですが、そこに参加している国々は小さなスペースにも関わらず出展していて、実際に足を運んで見るとみんな自国のことを話するのが大好きで、バックオフィスに移動して一緒にお茶を飲んだこともあって、とても楽しい時間でした。それまでは存在すら知らなかった国のことをたくさん知ることもできてすごく良かったです」

 筆者もコモンズ館では同じことを体験していたので、Lenaのコメントには強く同意する。

 Yannick 「ドバイ万博でもコモンズ館のようなものがあり、少なくともどんなに小さな国でもスタッフ1人と展示物を用意できれば参加できるので、万博というイベントとしては素晴らしい仕組みだと思う」

 今後万博はどうしていくべきか、ということについては

 Yannick 「もちろん続けていくべき。万博は最初の頃は経済やビジネスの発展が目的で開催されていたけど、今はそれ以上の意味を持つ存在で、国と国を繋げるだけでなく、私たちのように普通の人たちをも繋げる役割を持っている。運営のトップからアルバイトスタッフまであらゆる人が出会って繋がれる機会を提供している。そうやってコミュニケーションをとって繋がっていくことで将来に起こりうる問題を解決できたり回避できるので、今後も絶対に続けるべきだと思う」

 Lena 「私もYannickのコメントに同意します。でも実際の世の中は少し違う点もあって、私が万博にいく話をすると、友人たちから『時間の無駄』だとか『何しにいくのか?』と問われたりしました。彼らにはYannickが説明したような世界中と繋がっていけることが見えておらず、その意味も理解できていません。彼らにはルクセンブルクが税金を無駄使いしているように見えるのかもしれません。経済面を無視するわけではないですが、それ以外にも大切なことがあります。例えばこのパビリオンを訪れる人のほtんどはルクセンブルクについて何も知りません。しかし30分ほどパビリオンを体験した後に『ルクセンブルクに行ってみたいと思ったか?』と聞くと、多くが『行ってみたい』と答えてくれ、パビリオンの存在が日本人を少しでもルクセンブルクに近づけたことがわかります。これこそが万博の意義だと思います。個人的には、ルクセンブルクに戻った後に、このパビリオンに来た、という人に出会えたら最高ですね」

 また二人は日本人スタッフと働くことで、日本人の考え方や価値観、日本文化などを学ぶことができたし、彼らが通訳してくれるから日本人の来館者や通りすがりの人たちともコミュニケーションを取ることができて、貴重な経験だった、と教えてくれた。

 ボランティアという立場について尋ねてみると、旅費や滞在費は負担してもらっているが、給料は一切なしということ。それでもこのポジションを選んだのはやはり、それだけの価値があるから。前回の経験があるYannickは、万博に関わることでしか学べないものがあって、それはお金で置き換えることはできない、といい、Lenaは、私たちは経験という価値のあるものを給料の代わりに受け取っている、と力強くコメントしてくれた。

 Yannick 「もしボスが許可してくれていなければ、仕事を辞めてでも万博のこのポジションを選んだ。この経験は何事にも変えがたい。仕事なんていつでも代わりを見つけられるけど、これはそうはいかない。ここでの経験は私を成長させてくれるので、今後のキャリアにもプラスになることは間違いない。外国に住んで働く機会もあるだろうが、ここは限られた場所の中に世界中の国が集まっていて、あらゆる価値観や考え方、人に触れることができるので何事にも変えがたい」

 Lena 「ここで学んだことは間違いなく自分の将来の役に立つはずです。Yannickと私はバックグラウンドが違うけど、お互いに学んだことがある。私たちはまだ若く社会人としては駆け出しだけど、歳の離れた経験値の高い人たちとも接する機会があったし、単純にここに来たという経験だけでなく、様々な人たちから聞いた話にも大きな価値があり、そこから学ぶこともたくさんあって、それは間違いなく自分の人生に良い影響を与えるだろう」

 最後に彼女の誕生日が少し前にあった際、日本人のスタッフがルクセンブルク語で「誕生日おめでとう!」と言ってくれたことはすごくうれしかった、と付け加えてくれた。

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 物凄く心地よい空間でのインタビューだった。

 彼らがボランティアとして人生の中で2カ月という時間を投資して得ようとしたものが何なのかがよくわかる内容だった。お金を稼ぐことも大切だが、若いうちはそれ以外にも大切なものがたくさんあることが読者に伝わっていれば良いな、と思う。

 世界は広く、万博のように一つの場所でさまざまな人と触れ合い、価値観を知り、視野を広げ、人生を豊かにしてくれる機会は早々あるものではない。

 今回大阪でこの万博が開催されていることの意義をもう一度噛み締めて、残りの期間も万博で自分なりの何かを掴み取ってもらいたい。