〝多様性のるつぼ〟ルクセンブルク館 建物の構造やギフトショップ、グルメとすべてが予想以上

 訪問したルクセンブルクパビリオンは、パビリオンの内容がどんなものなのか、全く予備知識がない中、驚きの連続だった。

ルクセンブルク、万博

 対応していただいた担当者の話は非常に興味深く、同館の本気度が伝わってくる内容だった。その中でもインパクトのあったコメントを紹介する。

 「ルクセンブルクは地理的にヨーロッパのほぼ中央に位置し、フランスやドイツと国境を接しているので、どこにいくにも便利で、国が小さいので国境を超えた往来は当たり前。そのためルクセンブルク人はオープンであらゆるものを受け入れたり、異質なものとうまく付き合ったり、未知のものを知りたいという好奇心を持っていて、それらはDNAに刻まれていることだ」ということを聞き、非常に興味をそそられた。

 パビリオンの外観のこだわりから始まった話は、中に入る前に記事が1本できてしまうほど濃厚で興味深く、その後に館内の話があり、国としての向き合い方など様々なトピックに移っていった。

 まずは外観の話から。

 シックな色合いの外壁は、艶出し塗料が塗られた木の板。それをフックのような土台を使って固定しながら貼り合わせている。理由は解体しやすいから。万博のテーマでもあるSDGsに沿って、このパビリオンでは使用されている全ての材料は万博終了後に解体して再利用される予定で選ばれているという。

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

 またそれだけでなく、壁に使った板は、元々建築現場で使われていたものを利用していて、万博終了後は再度、建築現場で使用する。Refuse、Reuse、Recycleという考えが根底にあるのだ、という説明を受けた。
 無数にある壁に適した素材の中から目的にあったものを選ぶと、それ以外を排除(Refuse)することになる。そして建築現場で使っていたものをここで使い(Reuse)、終わったら次へ渡す(Recycle)というプロセスになっているわけだ。

 同様に屋根とそれを支える支柱の役割をしている白い構造物は、雨を避ける屋根の役目だけでなく、日陰を作ったり、降った雨を貯めて、植物に与えたり、トイレなどに使ったりして雨水をReuseする仕掛けになっている。

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

 そしてここで使われているシートの素材は、終わった後、日本人の職人の手によってバッグや財布などにRecycleされるという。そのサンプルはギフトショップに展示されていて、注文を受け付けているそうだ。

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

 まだある。少し迷路のような導線をたどらせる待ちの列だが、これも意図してこのような流れになっているという。列が進むごとにルクセンブルクの情報が壁に描かれていて、少しずつ同国のことを学びながら進んでいくようになっているのだ。

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

 壁に描かれているQRコードをスマホで読み取ると3Dデジタルイメージを鑑賞したり、専用ページに繋がって、デジタルブックを通して、自分のペースで同国のことを学べる。

ルクセンブルク、万博

 この待ちの列が続いている空間には、BGMとして音楽が流れているが、これは同国のアーティストがこのために作曲したオリジナル音楽で、時々聞こえる心臓の音と合わせてメディテーション効果を狙っているのだ。列に長時間並んでイライラするのではなく、音楽と心臓の音でリラックスするのは良いことだ。

 やっとパビリオンの入り口にたどり着いた。同館のテーマは「ドキドキ ときめくルクセンブルク」。

 中に入ると、1グループ25人で3つの部屋を巡る。最初に同国の簡単な紹介ビデオをみて、いざ出発だ。

ルクセンブルク、万博

 1つ目の部屋は多様性がテーマ。人口の約半分が外国籍の人だという。その国籍数180カ国以上でまさに〝多様性のるつぼ〟。そして人だけでなく歴史や文化、価値観が違う人々が神奈川県ほどの大きさの国土の中に住んでいて、ルクセンブルク語、フランス語、そしてドイツ語が公用語で、大多数は英語も話せるという特性があり、とにかく多種多様。
 それを表すものとして、縦長のスクリーンに同国の普通の人が登場し、自分たちの日常や思いの丈を語っている。彼らの話を聞くと、住みやすさや社会について、人のオープンさ、誰でも受け入れる文化などを知ることができる。

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

 全員で16人分の映像が用意されているが、ツアーでみられるのはそのうちの5人分だけ。残りも見たい人はQRコードから繋げて、サイトから楽しむことができる。

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

 時間に余裕のある方は2、3回とパビリオンを巡ってみるのも良い。そこには日本とは違う世界がありそうだ。
 人は皆違うことが当たり前で、違っているからと否定したり正そうとするのではなく、ありのままでその人を受け入れることが大事だと教えてくれる。多様性とはそういうものなのだ。

 次の部屋は全く違ったデザインになっていて、LEDで飾った球体が中心に構成された空間で、各自がゲームステーションを使ってインタラクティブにアクセスするというもの。

ルクセンブルク、万博

 ここでは手元のタッチスクリーンに複数のアイコンが並んでいる中から、気になるアイコンにタッチすると、そのアイコンが球体へ移動し、手元のタッチスクリーンには説明文が現れる。

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

 内容は現在同国で取り組まれているプロジェクトについてで、アイコンごとに違うプロジェクトが紐づけられている。プロジェクトは多彩で、日本が関係しているものも2つあるとのこと。それらの中に興味、関心のあるものがあれば、参加することも可能、ということで、ここでも多様性や国籍にかかわらず柔軟な受け入れ体制ができていることがわかる。

ルクセンブルク、万博

 この体験では、アイディアを出しあうところから始まり、それらをプロジェクトへ形作っていく際の障壁の低さや自由度の高さを伝えようとしている。革新的なアイデアがある人は同国に行けば、国籍に関係なくサポートを得られる可能性がある、ということを知ってもらうことがここでの目的なのだ。それは国が小さい上に人口も68万人ほどと少ないので、継続的に国が発展、成長していくには外国人も含めて国にとって価値のあるものには積極的に投資し、受け入れていく必要があると感じているからなのだという説明だった。

 最後の部屋では、宙に張られたネットの上に乗って、映し出される同国の映像を体感する。体感というのは、映像を映し出すスクリーンが天井と前面に2面、そしてネットの下にある床面と全部で4面あり、自分たちはその4面の中でネットには乗っているが、宙に浮いている様な状態になるので、没入感が半端なく、同国にいるかのようなリアルな体感が得られた。

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

 映像に登場するのはユネスコに認定されている世界遺産や豊かな自然、近代的な都市部など同国の有名スポットで、過去から現在、そして未来へと繋がるサステナブルな環境を維持していることを没入感の中で感じることができる。旅行気分になるだけでなく、実際に行きたくなったらいつでもウェルカムだということだった。

 この部屋を出ると中庭のようなスペースにカフェ・レストランと、ケーレブンと呼ばれる同国の伝統的な遊びのボーリングレーンがあり、誰でもチャレンジできる。ストライクを出したらシャンペンボトルがプレゼントされるが、これまでに1人しか達成した人がいない難関らしい。私も何度か投げさせてもらったが、なかなか思うようには行かなかった。

ルクセンブルク、万博

 レストランでは、同国名物のソーセージなどが販売されているが、現地ではここのソーセージよりも細いものが主流。つまり、同館で販売されている極太ソーセージは万博用の特別アレンジモノなので、ここでしか食べられないメニューとなる。

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

 デザートは、国内で案を募集してその中から和風の要素も取り入れたスイーツを6種類選択し、それらを1種類ずつ毎月第2週目に新しいスイーツに入れ替える。全部食べたい人は毎月同館に通う必要がある。

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

 中庭は外の喧騒からも距離があり、開放的な空間で陽光が差し込み、青空が見えて、風が吹き込み、そして料理とワインやシャンパンとゆっくりくつろぐには最適。ただし、この空間に入るためには列に並んでパビリオンを体験した後にしかたどり着かない。残念な気もするが、その分混み合うことがないのはうれしい。

 食事でリラックスした後、ギフトショップへ向かう前に1つ注目してもらいたいものがある。それは、パビリオンの構造を説明した図で、カフェのすぐそばの壁に描かれている。これを見ると同館が環境に配慮されて建設されていることがよくわかる。

ルクセンブルク、万博

 その後はギフトショップでお土産を物色。先に紹介した構造物に使っているシートを利用したバッグや財布のサンプルが展示されているので要チェック。

ルクセンブルク、万博

 余談になるが、パビリオン全体の写真を撮影しようとしたが、植えられた木々が邪魔をしてうまく撮影できる角度がなかった。しかし話を聞いた後に改めて見ると、木々は葉が繁り、列に並んでいる人々に木陰を提供し、木々があることで緑が広がり、目を休める効果や感情的にリラックスさせてくれる効果もありそう。機能だけを求めるのではなく、違った視点から見ると、今まで見えていなかった景色が見えてくるものだ。

ルクセンブルク、万博

ルクセンブルク、万博

 今回の万博はテーマに持続可能性やSDGsが入っているので、各パビリオンが趣向を凝らしていて、パビリオンの移築や解体してパーツを再利用したり、廃棄物をできるだけ出さないようにする工法や素材の選択など様々な案が採用されている。こういうやり方が次回以降の万博にも引き継がれていけば、今回日本が万博をホストした甲斐があったのではと思う。
 そんな中でも同館は、かなり考え抜かれたやり方でパビリオンを建設したことが伝わってきた。来館する人は、中のコンテンツはもちろんだが、建物の作りなどにも少し意識を向けてあちこちチェックしてもらいたい。