【わかるニュース】空前株高を徹底分析 迫る日経4万円台 GDP4位転落なのになぜ?

空前株高を徹底分析
東京証券取引所

 日本の株価日経平均は、平成が始まった1989年12月29日大納会で付けた3万8915円が長い間過去最高値だった。それが今年は年初来株高が続き、「バブル期最高値更新へ!」の見出しが新聞に躍り、ついに証券各社は今年の終値予想を次々上方修正し、悲願だった『4万円』の大台が飛び出す事態になった。
 経済優先の岸田総理はニコニコ顔だが、庶民生活は円安インフレの進行で実質賃金は目減りし続け、日本の国力を示すGDPもドイツに抜かれて4位転落。豊かさの実感がないまま上がり続ける日本株の行方は?

「まだはもう、もうはまだ」の4万円相場

「プラス要因」総ざらい

 メディアでまとめられた「日本株上昇」要因と、私の見方は?
①米国株、上昇続く
→米は依然として雇用や消費が好調。インフレ抑止へ利下げ(利率を下げると資金が借りやすくなり、景気はよくなる)したくてもできない。「大統領選の年に米国株価は下がらない」が定説。日米の株価は連動して上下する事が多いのも目安に。

②日本企業の業績好調
→輸出関連を中心に、プライム上場(旧東証1部)企業の半分以上が増益。ただし中小企業はついて来られていない。

③外国通貨に対し軒並み「円安」
→自動車やゲーム、半導体など輸出関連企業は収益上方修正。外国人投資家から見れば日本株は極めて割安に映る。

④中国からの逃避資金流入
→中国の不動産不況で上海市場が急落。アジア投資で中国から逃げ出した外国人投資家がとりあえず日本株へ。

⑤日銀が低金利政策を継続
→マイナス金利解除でも植田日銀総裁は低金利維持を表明。「急な利上げ(資金が借りにくくなると景気後退)は無い」との市場の安心感生む。

⑥新NISA(少額投資非課税制度)スタート
→実際の積立金は9割まで米国など外国株に投資されているが、投資家心理として「株に新たな資金流入」イメージが株買いの追い風に。

⑦東証が低株価企業に改善指導
→上場3000社のうち、PBR(株価純資産倍率)1倍割れしている約半数の企業に対し東証が具体的改善策を要求。応じない場合は市場退場も辞さぬ構え。

⑧企業の自社株買い、日銀と年金機構の株保有進む
→高収益企業が自社株を、日銀や年金機構など国機関が優良株をそれぞれ買っており、市場に出回る株が減った分株価上昇。

⑨バフェット効果
→米国の著名投資家、ウォーレン・バフェット氏が日本株を高評価し、内外の投資家が好感して見直した。
 株価上昇に対して、肯定的な見方を並べてみた。

きれい事を暴いてみると

 今度は日本株の特性を冷静に分析してみたい。
 まず東証が企業に対して要求している体質改善だが、一番てっとり早い手段は自社株買い。確実に株価は上がるが、本来は設備や人材に投資するべき利益を注ぎ込むのは見せかけの邪道だ。そもそも株式上場は広く市場から資金調達をすることが目的のはずだから、自社株を買って株の価値を上げる行為に大義はない。そのお金で人とモノへ投資し、事業で収益拡大しないと本当の意味で「企業業績が伸びた」とはいえない。
 日経平均株価最高値の〝マジック〟も要注意。「1989年以来の最高値」とか「初の4万円台」と言うが、当時とは3分の2の銘柄が入れ替わっており、現在は世界的に好調な半導体などハイテク企業株が相当組み込まれている。株価の足を引っ張る中小企業の株はほとんど含まれておらず、むしろ生活実感とのかい離が大きく、経済実態と照らして〝冷たいバブル〟とやゆする声もある。
 日本は日経平均の最高値を「超えた、超えない」で騒いでいるが、米ニューヨーク市場でのダウ平均は同じ34年前と比べ約14倍に膨らんでいるから、実は日本が単に遅れていただけかも。
 次に新NISA。今年から政府主導で「預貯金から投資へ」の大号令に乗り登場。セミナー会場は「ブームに乗り遅れるな!」の人々で大盛況。月々積み立てて最大1800万円まで非課税投資枠が使える。投資信託は特定株式よりリスク分散しやすいメリットも。ただしメリットが実感できるのは、20年、30年先で「年金がアテにならない18歳以上の若者向き」と考えた方がよい。

株高
日経平均は続伸 連日のバブル後最高値=2月16日撮影(写真:ロイター/アフロ)

「バブル期」捨てたモンじゃない

 34年前のバブル期と散々比べられるが、当時のリアルな感触と比べてみよう。当時、私は大手日刊新聞社大阪本社の記者だった。株価による財テクブームと土地・マンションが日々高騰し、地上げをめぐる土地成金の話題が列島を駆け巡っていた。日米は経済的にライバル関係にあり「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とモテはやされた。円は今と同様に安く143円前後もした。よく話題に出る超円高の80円前後の外国為替レートは1995年と2013年の話だ。
 起業家ブームで、モーレツ社員の企業戦士が「24時間働けますか?」と叫びながら全力疾走。みんなが「明日は今日よりすばらしい。働けばどんどん給料が上がる」と信じていた。サラリーマンも好景気を実感し、今回の株高みたいに生活がよくなる実感がまるでないより相当マシな日々だ。「当時は空っぽなバブルだったが、今回は企業業績自体がしっかりしている」的な現状肯定論はうのみにしない方がいい。
 すでに高値の今の時期に株式投資を始めたい初心者は、まず証券会社で狙った銘柄ごとに各社が設定する「目標株価」を参考にしたらいい。各社によって多少の額の差はあるが「今後、どこまで上がる余地が残されているか?」を客観的に見通せる。

命運握る海外投資家

 1月の日本株売買実績をみると、日本の個人投資家は9370億円の売り越し(株を買った額より、売った額が多い)、日本法人は1兆3952万円の売り越しで利益を確定したい思惑がありあり。これに対し、海外投資家は2兆693億円の買い越し(買った額が、売った額を上回る)で、2月前半をあわせると3兆1000億円の海外マネーが日本株を買っている。とても日本の個人投資家と企業が対抗できる額ではない。
 海外投資家が売買するときの判断基準は極めてシンプル。「安ければ買う、高くなったら売る」だけ。彼らは来たるべき円高に向け、日本株をドル建てで安く買い、円高に振れれば一斉に売って利益を確定させる。素人がまねをすれば大やけどだ。庶民の生活実態と株高がズレているのは、海外投資家が主導する株式相場だからだ。

経済音痴な岸田総理

 安倍総理時代はしゃにむに株価を引き上げ、為替は円安へと誘導したアベノミクスが代名詞だった。企業の体質を強化させるイノベーション(新たな価値作り)に失敗したことで岸田総理は就任当初、アベノミクス離れを見据え「新しい資本主義」を掲げて金融所得課税強化を打ち出した。しかし、経済界の激しい反発に遭いすぐ引っ込めてしまった。
 1月の施政方針演説で「賃上げ、設備投資、株価や日本経済が新たなステージに移行する明るい兆し」と社会状況を述べた。しかし、岸田政権のやっていることはアベノミクスの追随、超低金利政策の継続であり、庶民は得るべき預貯金利息を連日失い続けている。
 円安で二流国に転落、インバウンド景気といえば聞こえがいいが、外国人旅行者にこびへつらいながら外貨を稼ぐ手法は、バブル期の日本人が途上国で繰り広げていた海外旅行の裏返しだから皮肉だ。
 よって今の株高相場は「まったく信用できない」と断言したい。
 最後に私自身の投資と財テクについて明かそう。35年ぐらい前にまずマンションをローンで初購入。不動産ブームの最中に高値で売り抜け、もうけたお金を投資信託で増やし、円高になるのを待ってドルやユーロなどの外貨預金へと移行。円安になってから円貨に戻し、複数の日本株へ分散投資。株高時代に入るといったんすべてを売って、米株式と新興国の債券への海外分散投資に切り替えた。すぐに必要な資金ではないからこそゲーム感覚で投資可能。多少未練はあっても次の選択肢を決め、他人より早めに動くことを心がけている。
 マイナスになったら深追いせず〝損切り〟して即撤退。「授業料を支払った」と笑って割り切ることだ。こちらが本業を持っている限り、パソコンを駆使し〝生き馬の目を抜く〟デイ・トレーダーには絶対勝てない。その分、株式投資だけに固執せずマネーゲームとして楽しもう。