「これを食べればやせる」「炭水化物は悪」――SNSではさまざまな健康情報があふれ、何が正解なのか迷う人は多い。こうした状況に問題意識を持つ管理栄養士でNaka.代表の中村達也さんは「食事を減らすのがダイエットの常識ではない。逆に〝足す食事〟で痩せて健康になることも知って」と呼びかけている。中村さんは現在、正しい栄養知識などを企業の健康経営に生かしてもらおうと、1日1分の動画サービスを配信している。

引き算だけのダイエットに終止符
「ダイエットと聞くと、多くの人は『食事を減らす』『カロリーを削る』という引き算ばかりを思い浮かべます。しかし、本当に大切なのは食の組み合わせ。つまり『何を足すか』なのです」
管理栄養士として長年減量やボディメイクの現場にも携わってきた中村さんの視線は、世間に流布する「引き算の呪縛」に向けられている。カロリーを制限すれば一時的に体重は落ちるかもしれないが、それは単に体が飢餓状態に陥っているに過ぎず、根本的な解決にはならないという。
「そもそもカロリーとは熱量の単位。体内でその熱を作り出し、効率よく燃焼させるためには、代謝経路という『歯車』を正しく回さなければならない」と指摘しながら、「例えば、おにぎりを食べたとき、炭水化物をエネルギーに変換するビタミンB1などの栄養素が不足していれば、結果として代謝されにくくなるということです」
中村さんの栄養指導は、「ダイエット=我慢」という先入観を心地よく覆す。何を抜くかではなく、何が足りないかを知る。それが無理なく続けられる食生活の第一歩になるという。
中村さんが所持する管理栄養士の資格は、健康な人だけでなく、病気や高齢など一人一人の状態に合わせ、専門的な栄養管理や指導を行う国家資格。病院の管理栄養士としても働いていた中村さんは、インターネット上にあふれる健康情報について、「言っていることに正しい部分があっても、強い言い切りによって誤解を招く情報が多いように感じる。『これさえ食べれば痩せる』という食品はない」と警鐘を鳴らしている。
1日1分、職場に健康習慣
そんな中村さんが現在、力を入れるのが企業向けの健康指導だ。
従業員が出勤していても肩こりや目の疲れ、睡眠不足などで仕事の能率が落ちている状態は「プレゼンティーズム」と呼ばれ、経済産業省も従業員の健康状態と仕事の生産性との関係を指摘している。
こうした健康経営に注目は集まっているが、企業側としては何から始めればよいか分かっていないケースが多く、「その役割を担いたかった」と中村さん。
このほど配信を始めた「WellBe Partner(ウェルビーパートナー)」は従業員が専用サイトから短い健康動画を見られる福利厚生サービスで、昼休みや仕事の合間に1日1分の動画で学び、社員自らが体調を整えるきっかけをつくっている。現在は眼精疲労、姿勢、自律神経などの動画をそろえ、今後は食事や運動にも内容を広げていくという。
料金は従業員1人当たり月額300円から。初期費用はなく、最低契約期間も設けていない。従業員10人の会社なら月額3000円から始められる。

専門家をつなぎ、健康の入口に
中村さんは約6年前、フリーの管理栄養士として活動を始めた。病院での栄養指導やパーソナルジムの運営で経験を積みながら、整体師やヨガ講師、トレーナーなど健康分野で活動する専門家との交流も広げてきた。
そこで見えてきたのが、専門的な知識や技術を持ちながら、それを必要とする人や企業と十分につながれていない人が多いという課題だった。
「優れた技術を持つ専門家はたくさんいます。ただ、企業との接点がなく、力を発揮できる場所が限られているのです」と中村さんは話す。
このため、昨年の法人化を機に、専門家の知識や経験を企業の健康づくりに生かす仕組みを本格化。福利厚生サービス「ウェルビーパートナー」を立ち上げた。
専門家にとっては、自らの知識や技術を企業や働く人に届ける機会となる。企業にとっては、従業員が日常的に健康情報にふれ、体調管理に役立てられる福利厚生の仕組みとなる。
中村さんは「私一人で世の中を健康にするのは難しい。思いを持つ専門家で力を合わせ、日本の企業を元気にしていくことができれば」と話している。

