うつ病治療〝医師任せ〟から転換 患者と一緒に決める新ガイドライン

共同意思決定を重視 新薬にも期待、早期受診と治療継続呼び掛け

 うつ病治療の考え方が大きな転換点を迎えている。昨年全面改訂された「うつ病診療ガイドライン2025」では、医師が一方的に治療方針を決めるのではなく、患者と医師が対話を重ねながら一緒に治療を選択する〝共同意思決定〟が柱に据えられた。関西医科大学精神神経科学講座主任教授の加藤正樹氏は7月1日、東京都内で開かれた塩野義製薬主催のメディアセミナーで、新ガイドラインの意義や今後の治療の方向性について講演した。

「患者と医師が一緒に治療方針を決める時代になった」と話す関西医科大学精神神経科学講座主任教授の加藤正樹氏

 厚生労働省の統計では、精神疾患で外来通院する患者は約580万人に上り、このうち約4人に1人が気分障害(うつ病を含む)とされる。うつ病は本人の苦痛だけでなく、仕事や学業など社会生活にも大きな影響を及ぼす。

 加藤氏は、出勤していても心身の不調で本来の能力を発揮できない状態を指す「プレゼンティーイズム」による経済損失が年間約7・3兆円に上るとの試算を紹介し、「うつ病は個人だけの問題ではなく、社会全体で取り組むべき課題だ」と指摘した。

 一方、治療を巡っては課題も残る。抗うつ薬の種類は増えたものの、患者アンケートでは「早く症状を改善してほしい」「病気について理解したい」「苦しさを分かってほしい」といった要望が多いという。従来の抗うつ薬は効果が現れるまで一定期間を要することが多く、副作用が先に現れて服薬を中断してしまうケースも少なくない。

 加藤氏は「治療を継続するためには、患者と医療者が十分にコミュニケーションを取り、治療への理解を深めることが重要だ」と話した。

 約9年ぶりの全面改訂となった新ガイドラインでは、精神科医だけでなく、看護師や薬剤師、心理職、さらに患者や家族も作成に参画。基本理念として「患者中心の医療」「共同意思決定(SDM)」「測定に基づく診療(MBC)」の3点を掲げた。

 共同意思決定では、治療法の利点や欠点、患者の価値観や生活背景を医師と共有しながら治療方針を決めることを重視する。また、症状を評価尺度で定期的に確認するMBCを取り入れることで、治療効果を客観的に把握し、一人一人に適した治療につなげる考え方も盛り込まれた。

 セミナーでは、新たな作用機序を持つ抗うつ薬として、神経ステロイド系抗うつ薬「ズラノロン」も紹介された。従来の抗うつ薬の多くがセロトニンなどの神経伝達物質に作用するのに対し、ズラノロンは脳内で神経の働きを調整する「GABA(ギャバ)受容体」に作用する。臨床試験で2週間の投与で有効性が確認されており、投与終了後は6週間以上の休薬期間を設ける点も特徴だ。

 加藤氏は「長期間の服薬が難しい患者などにとって、新たな選択肢となる可能性がある。ただし、既存の薬と同様に効果の現れ方や持続期間には個人差がある」と説明した。

 講演の最後に加藤氏は、「薬が合わない場合でも次の選択肢がある。自己判断で治療を中断せず、つらい状態が続く場合は早めに医療機関へ相談してほしい」と呼び掛けた。

タイトルとURLをコピーしました