【外から見た日本】メディアの影響、大きく受けた一年 自分の頭で考えるクセを

岡野 健将(Spyce Media LLC 代表)


 海外に住むと多様な価値観に触れる事ができる。英語などの外国語を話せる様になると多角的な思考がしやすくなる。

 日本は単一民族、単一言語で、多くの国民が共通の価値観や思考パターンを持つ、世界でも珍しい存在です。それが「ガラパゴス化」や「日本特有の文化や発想」につながり、良い方面で結果が出るときもあれば、悪い方面に振れる場合もあります。

 この1年、それは大きく悪い方向へ振れたと思いますし、メディアからの大きな影響を受けた事によるものだと強く感じます。

 例えばコロナ対応。世界ではマスクを外しての生活が当たり前になっていますが、日本では外さないし、外せない。理由は皆が外さないから。政府もメディアも「外していい」と言い切らないから外せない。メディアのメッセージに翻弄(ほんろう)されている典型例です。

 2月に始まったウクライナ紛争。当初は感情的な報道に引っ張られたのに、最近ではワールドカップに圧倒されるほど、世間の興味が薄れてしまっています。これもメディアが伝える題材を変えた結果でしょう。

 それにインフレも。連日、生活が苦しいという方向で報道されるため、「インフレ=悪」の印象がついてしまっていますが、デフレが続く中、日本政府はずっとインフレを目指していました。デフレのせいで給料が上がらないとたたいていたのはメディアです。インフレが浸透しないと給料は上がらない訳で、経済の仕組みとしてはどちらかが先に起こり、その後それに反応して他の数字が動き出すのが当たり前なのに、あれもダメ、これもダメ、と目先の数字や現象を否定する報道が繰り返されています。それを見聞きした視聴者が輪をかけたコメントを発し、社会全体としてスパイラルダウンしていく状況になっています。

 それぞれの事案に対して、一方の意見だけでなく、反対意見や多方面からの考え方にも目を向けて、さまざまな角度から検討し、思考すればおのずと自分なりの答えが見つかるはずです。社会に流されるまま、何も考えないで動いていく事の楽さに慣れてしまうのではなく、しっかり物事を考えて判断できる様になるべきです。

 アメリカでは、各メディアが右派か左派の立ち位置を明確にして論戦を行うので、視聴者や読者は両サイドの意見を聞き、一つの事象を多方面から捉えて考える事ができます。ディベートではそういうことを学びます。

 例えば、「中絶する権利」は、今アメリカで大きな問題になっています。民主党が中間選挙で善戦できたのはこの問題のためとまでいわれています。中絶する権利(Pro

 Choice)と生まれてくる子供の生きる権利(Pro Life)。どちらが正しいかではなく、どちらにも正当な理由があり、主張にも一理ある事が分かります。

 SNSや一部メディアだけをみて、そこで発信されている意見だけを唯一絶対として、相いれない意見を頭ごなしに否定し、その意見を主張する人を人格ごと否定するのではなく、両方の意見を読み比べ、自分なりに考えを巡らし、どちらを支持するか。決してどちらかが正しくて、どちらかが間違っている、ではないのです。

 昨今の日本では、短絡的な思い込みによる一方的な決めつけをした考え方がはびこっています。先日の宮台氏への襲撃などもその最たる例でしょう。自分と違う意見を受け止める(受け入れる、ではない)ことすらできなくなってきています。これは、民主主義においてかなり危機的状況です。

 文化やバックグラウンドの違う人同士が話をしたり交渉したりすれば、意見も違えば、考え方や価値観が違うのは当たり前。多くの場合、自分にとっての常識すら、相手にとっては非常識になることもあります。そんな中、意見や考え方が違うということで、相手を断罪したり、切り捨てていると何もできなくなってしまいます。

 多方面からの考え方に触れたり、自分とは違う意見にも耳を傾けてみて、そこには意見の相違があることを理解し、自分の中でしっかりと考えてから、自分はどう思うのかを決められる様になってもらいたいものです。

 英語に〝We agree to disagre e〟という言葉があります。意見の合わない者同士が「私達はお互いに意見が違うと言う事には同意する」という意味で、意見が違い合意していないけど、この言葉で握手して別れる事ができます。そして次へ向けて進んでいけるのです。やる気もないのに「善処します」と口だけの言葉をはくより余程前向きで建設的です。

 今年一年、私のコラムを読んでいただいた方の中にも、当然私の意見に同意できない人はたくさんいるでしょうが、〝We agree to disagree〟として、受け止めて頂き、少しでも広い視野で多面的に考えを巡らせてみてください。来年も一石を投じる様な内容で皆さんに問いかけますので、ぜひ読者の皆さんの声も聞かせてください!


【プロフィル】 State University of New York @Binghamton卒業。経営学専攻。ニューヨーク市でメディア業界に就職。その後現地にて起業。「世界まるみえ」や「情熱大陸」、「ブロードキャスター」、「全米オープンテニス中継」などの番組製作に携わる。帰国後、Discovery ChannelやCNA等のアジアの放送局と番組製作。経産省や大阪市等でセミナー講師を担当。文化庁や観光庁のクールジャパン系プロジェクトでもプロデューサーとして活動。