【外から見たニッポン】誰のためのトランプ関税?

Spyce Media LLC 代表 岡野 健将

Spyce Media LLC 代表 岡野健将氏
【プロフィル】米ニューヨーク州立大ビンガムトン校卒業。経営学専攻。NY市でメディア業界に就職後、現地で起業。「世界まるみえ」「情熱大陸」「ブロードキャスター」「全米オープンテニス中継」などの番組製作に携わる。帰国後、ディスカバリーチャンネルやCNAなどのアジアの放送局と番組製作。経産省や大阪市等でセミナー講師を担当。文化庁や観光庁のクールジャパン系プロジェクトでもプロデューサーとして活動。

 8月1日に迫るトランプ関税の実施予定日。交渉がまとまれば数値は修正されると言われますが、どうなるのでしょう。
 日本は赤澤大臣が何度も渡米し交渉していますが、今のところ〝ラチが開かない〟状況で、最悪の事態に直面しているようにみえます。
 しかし、日本より経済規模の小さい韓国も25%、欧州は30%、中国も30%(暫定)、ブラジルは50%の関税率を送りつけられています。米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)=旧北米自由貿易協定(NAFTA)=を結ぶカナダとメキシコにも30%を通達しているのです。

 イギリス、ベトナム、インドネシアはトランプ政権と合意しましたが、それ以外は合意する見込みがなく、特に欧州とカナダ、メキシコは報復関税を宣言しています。
 米国は生活必需品や食料の多くを中国、工業製品はメキシコやカナダから輸入しています。このため、米国内で物価が上がり始め、アマゾンなどの大手は配送拠点や配送スタッフを削減、港湾作業員や運送業の人員整理も始まりました。
 小売店や通販サイトでは関税率の低いうちに駆け込みの大量仕入れ。在庫を多く抱えたため、仕入れは当分控えそうなので経済の停滞は避けられません。

 カナダでは米製品のボイコットも。量販店などから米製品は姿を消し、米国旅行をするカナダ人も激減。製造業や農業だけでなく、観光業にも大きな打撃を与えています。
 カナダでスーパーを経営する友人は「多くのカナダ人は以前のように米製品を購入することはないだろう」と話し、小規模のメーカーなどは「米国に売らなくても他に取引先はいくらでも見つかる」と意に介しておらず、今後の米産業に大ダメージを与えそうです。結局、トランプ関税で一番被害を被るのは米国民、特に中産階級から下の一般人ではないでしょうか。

 日本に対する自動車市場の開放にしても、もともと米国車に対する輸入関税はゼロ。自由に輸入できる状況にあります。実際にメルセデスやBMWなどのドイツ車は街中を多く走っています。アメ車を日本人が購入しないのは道路事情に合わない車両サイズ、燃費、安全基準による理由の方が大きいです。
 それを国内の自動車メーカーに割り当てして強制的に購入させるのか、それとも米メーカーが独自に販売網を作るのでしょうか? とても現実的ではありません。

 いっそ「どうぞお好きに。アメ車を販売してください。でも日本車への関税は元通りにしてください」と伝えればいいのではないでしょうか?
 トランプ政権にとって日本との合意は意味のあることかもしれませんが、最優先課題でないのは他国の動きを見ていると明らかです。
 米国内を疲弊させながらどこまで強引な施策を続けられるのか。高みの見物と行きたいところです。

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