Spyce Media LLC 代表 岡野 健将

参院選が公示され、日本国内は選挙戦真っただ中。外交では米国のトランプ大統領に高関税を押し付けられ、中東情勢に振り回されるなど自力ではコントロール出来ないことに対し、対応のまずさをさらけ出しています。
特に関税に関しては、国内では「自動車は日本の根幹、米は戦略的物資」などと騒いで死守しようとしていますが、米国にとっては、自動車なんて年間1000台ほどしか日本に輸出していないし、コメも日本政府が年間割り当てで輸入してくれている分しかなく、ほとんど存在しないような貿易量なのです。
それに比べ、日本が米国に輸出している自動車は年間100万台以上。トランプ大統領が「不公平」と言いたいのもわかる気がします。
ただ、なぜ米国車が日本で売れないのかを正しく理解してはおらず、統計数字だけをみて発言していることは明らか。米国製品が世界一だと信じているトランプ大統領や支持者たちは、「日本で米国車が売れないのは、日本が不公平貿易をしているから」という図式で見ていることは間違いありません。この誤解を解くのは至難の業でしょう。
私も米国人と何度も似たようなトピックで議論したことがありますが、理解できないものは理解できないのです。米国人は頭が悪いというわけではなく、見たことないもの、知らないことについて説明されても、それを想像して理解して受け入れることが苦手なようです。そのうえ、政府間交渉では巨大なビジネスとその損得が控えているので、日本政府が何をどうしようと、米国側に有利な結果にしかならないはずです。
日本側が「衝撃」と受け止めるレベルにもかかわらず、米国にとっては各国と妥結し、結果を出すトランプ大統領の成果の一つでしかありません。
日米で重要度が異なる理由は、米国にとっては、もっと大きなインパクトが中国だからです。
米国で販売されている日用品や食料、衣類など生活に密着した製品の大半は中国製を輸入しています。本当にトランプ大統領の高関税が中国製品に課されたら、米国の物価は劇的に上昇してしまうかもしれないからです。
このインパクトに比べれば、日本の自動車などはいくらでも替えが効きます。だから、米国民にとって日本との交渉自体、優先順位が低いのです。
さらに、日本が得意とするハイテク製品などは一般の米国民の目につかないところで使用されているから、トランプ支持者の目には見えず、存在しないのと同じです。
トランプ政権としては、輸出入の額や量よりも、米国内への投資や生産設備の移設の方が目に見てて成果がわかるうえに、職も増えて賃金上昇に繋がると考えているので、交渉の前提となる条件や課題は日本側とは異なっているはずです。
それなのに日本政府の動きを見ていると、米国が何を求めているのか、日本は何を死守すべきなのかをわかって交渉に臨んでいるかどうかは大いに疑問です。
先日、妥結したベトナムでさえ、ベトナム製品には20%の関税をかけ、米国製品の輸出は関税0%という内容でした。そのベトナムは、メキシコ(15・2%)、カナダ (10・7%)、中国(9・2%)に次ぐ4番目の輸入先。トップ3ばかりがやり玉に挙がるのを見かけますが、米国への輸出を増やすインドもかなり激しく攻めています。
こうした状況から考えると、日本への関税率がそんなに低い数字で落ち着くとは到底思えませんし、日本の希望に近い条件で妥結するなど考えられません。
自民党がどうとか、個々の政治家がどうということではなく、国家としての長期戦略のなさ、国際交渉力や世界情勢を正しく理解する知識や経験のなさ、政治家ではなく、政治屋しか選挙で選ばれない現実などが、この結果を生み出したのです。
こうした状況を打破するには、やはり選挙しかなく、そのキャスティングボードは私たち一人一人の手の中にあります。大局を見て選ぶのか、私利私欲で選ぶのかー。
米国以前に私たちの問題であることを認識する時が来ているのではないでしょうか。