【外から見たニッポン】トランプ改革の行方は? トランプ関税が破壊する米国社会

 トランプ米大統領の関税のせいで米国社会が大変なことになり始めている。「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン(米国を再び偉大に)」の掛け声とともに誕生したトランプ政権だが、今のところ米国社会にとっては苦難でしかない状況に陥り始めている。
 異常な高関税を世界中の貿易相手国に課してしまうと、国内の物価が暴騰するか、製品が輸入できずに欠品が続出するかになるのはわかっていたが、今まさに米国でそれが起ころうとしている。
 米最大の港であるロサンゼルス港には、通常の半分以下の船しか入港しない日が続いている。これは90日間の特例中でのこと。「もし特例中に各国との交渉がまとまらず、本当に高関税が適応されると入港する船がいるのか心配だ」と、港を運営管理する組織のトップは頭を抱えている。稼働するコンテナ数が激減したせいで、港で働く中小業者の従業員の半分以上が仕事にありつけない状態が続いているそうだ。
 すでに各地のスーパーマーケットなどでは日用品などの品薄が発生し、今のうちに買いだめを薦める動画がSNSに多数アップされていたりする。
 米国全体をみても、今年に入ってから景気の先行き不安や離職、失職によって、全世帯の約6割が生活必需品を購入するのに必要なだけの収入を得られていない、というアンケート結果も出ている。今はまだ交渉中で、高関税の適応前にもかかわらずだ。また、25%が日用品の購入にさえ後払いで商品を購入するサービスを利用していて、この割合は14%から大きく増加している。
 米国内で製造する、あるおもちゃ会社の経営者は、「関税のおかげで中国産のおもちゃが輸入されず、仕事はフル回転でうれしい状況。しかし、長い目でみれば業界全体が落ち込み自社製品の売れ行きも落ちるだろうから、決して今の状況は喜べない」という。製造業の国内回帰を目指すトランプ政権だが、国内で製造を行う企業ですら、先行きを不安視している。
 また、外国人への風当たりの強さや厳しいビザ規制などを嫌ってか、今年に入って米国を訪れる外国人の数が激減している。昨年比で9%、旅行業界全体で約1兆3000億円の損失が出ているといい、年度末まで今の状況が続けば、損失は3兆円以上になると予測されている。
 これら全てを含め、今年の米国GDP成長率は過去に予想されていた2・8%から1・6%に引き下げられており、その影響で世界の主要国でも経済の悪化やGDPの下方修正が予想される。
 トランプ大統領としては、今年は景気が悪化しても株価が下がっても、それは折り込み済みで、来年の中間選挙までに減税プランが機能し、景気が戻ってくればよし、という考えなので慌てる様子も、気にする様子もなさそうだ。
 今は対岸の火事でしかない米国内の事情だが、これが今年後半になると、我々の生活にも大きく影響してくることを忘れてはいけない。

Spyce Media LLC 代表 岡野健将

【プロフィル】米ニューヨーク州立大ビンガムトン校卒業。経営学専攻。NY市でメディア業界に就職後、現地で起業。「世界まるみえ」「情熱大陸」「ブロードキャスター」「全米オープンテニス中継」などの番組製作に携わる。帰国後、ディスカバリーチャンネルやCNAなどのアジアの放送局と番組製作。経産省や大阪市等でセミナー講師を担当。文化庁や観光庁のクールジャパン系プロジェクトでもプロデューサーとして活動。