【短歌に込める経営者の想い⑨】Animo株式会社 橋本典子社長

(歌人・高田ほのか)

 Animo(アニモ)という、一風変わった社名の会社がある。橋本典子社長が、女性が自分らしく輝ける会社を興そうと考えていたとき、かねてから付き合いのある人にこんなことを言われた。「橋本さんには本能で行動する、動物的な魅力があります!」。動物→アニマルから、ネイティブ発音でアニモー→アニモ。試しに「アニモ」で検索をかけてみると、スペイン語で〝がんばって〟〝元気をだして〟という励ましを意味するという。それは、橋本社長が思い描く会社のビジョンを体現したような言葉だった。 

 橋本社長は中三のときに不慮の事故で父親を亡くした。塾の講師をしていたというお父さまの葬儀には、塾の生徒をはじめ、1000名を超える人が弔問に訪れたという。「父は身長が180センチあるぽっちゃり体型で、誠実を絵に描いたような人でした。生徒さんたちの話から、プーさんみたいに愛され、頼られていたんだなあとまた泣けてきて」。喪失感から抜け出せずにいたある日、近所のショッピングモールで大きなクマのぬいぐるみと目が合った。橋本社長は、(お父さんみたい……!)と、その場で購入。「大きいから背負って、長い坂道をのぼりました。それから家にいるときはいつも一緒。クマを椅子に座らせて背中を預けたり、一緒のお布団で眠ったりしていました」 

橋本社長

 時間をかけて父親の死と向き合いながら、橋本社長はひとつの思いを強くしてゆく。「九死に一生を得るような事故が起きた場合、傷病者に最初に接するのが救急救命士。そこでどんなひとに出会えるかで運命が別れる。私は、救命士になる」。そして、22歳のときに救急救命士の国家資格を取得。2人目の出産後、半年で社会復帰するが、わずか4か月後に次女が難病指定を受けてやむを得ず退職する。 

 その後、3人の娘の母親となった橋本社長は、同世代のママ友たちから再就職の不安や壁についての悩みを多く聞く。「一般企業に勤めた経験などなかったですが、女性の社会復帰を支援したい、と起業を決めました」 

 橋本社長は、出産などを機に離職した女性の社会復帰をスムーズにするためのマナースクールと、復帰を握る保育園の運営を主軸とする会社を興す。どちらも〝もらう前に提供する〟を前提とした事業だ。「親からもらう愛情の一つに〝無償の愛〟があると思うんですが、社会では〝仕事をしたらお金で返す〟という仕組みがある。だから愛が見えづらくなってしまう。私は自分が無償の愛をほしいと思っているので(笑)、社員にも与えすぎてしまうところがあります。でも、それができるのが社長の特権だなって」 

 起業からわずか2年後、Animoは社内託児所部門の「ホワイト企業アワード」を受賞する。変化が激しく予測困難な時代において、誠実さを貫くのは容易ではないだろう。橋本社長は本能で社員の性質を嗅ぎとり、その人が社会で自分らしく輝けるよう心を尽くす。その誠実さの積み重ねが、こんにちのAnimoの評価につながっている。「コミュニケーションが大切だと言いながら、社員の心に寄り添っている会社はまだまだ少ない。私はそこを大事にしたい。父の血が流れているからか、私も曲がったことができない質。ちなみに、クマは今も実家の私の部屋にいます」 

 経営者のなかでもとりわけ希少種であろう橋本社長は、社会というジャングルのなか、愛を武器に戦っていく。 

クマさんをおぶってながい坂道を(アニモ、アニモ)とじぶんに唱え 

橋本社長(左)と高田ほのか

【プロフィル】歌人 高田ほのか 大阪出身、在住 短歌教室ひつじ主宰。関西学院大学文学部卒。未来短歌会所属 テレビ大阪放送審議会委員。「さかい利晶の杜」に与謝野晶子のことを詠んだ短歌パネル展示。小学生のころ少女マンガのモノローグに惹かれ、短歌の創作を開始。短歌の世界をわかりやすく楽しく伝えることをモットーに、短歌教室、講演、執筆活動を行う。著書に『ライナスの毛布』(書肆侃侃房)、『ライナスの毛布』増補新装版(書肆侃侃房)、『100首の短歌で発見!天神橋筋の店 ええとこここやで』、『基礎からわかるはじめての短歌』(メイツ出版)  。連載「ゆらぐあなたと私のための短歌」(大塚製薬「エクエル(EQUELLE)」)