【わかるニュース】世界4位転落の日本のGDPをどう見る? 株価最高値の陰で何が!?

GDP「実質」「名目」って何?
生活苦元凶は〝少子化〟

 世界3位だった日本のGDP(国内総生産)が、ついにドイツに抜かれた。さらに2026年にはインドにも抜かれる予測だ。かつて米国に次ぐ世界2位の地位を確立していた日本だが、10年に中国に抜かれ、昨年ドイツにも後塵を拝する状況となった。
 一方で、「ドルに換算した場合の数値だから、今は円安。数字のマジックでしょう。現に昨年の名目GDPは+5・7%で過去最高額なんだから。日本株も過去最高値を更新しているし」と問題視しない声もある。果たして真実はどこにあるのか。考えてみよう。

GDP「実質」「名目」って何?
生活苦元凶は〝少子化〟

日独比較すれば?

 まずは日本とドイツの数字を比べてみたい。今世紀に入ってからの年経済成長率の平均は日本が0・7%で、ドイツは1・2%と大差ない。ところが、30年間の賃金の伸びを比べると日本が1・1倍と横ばいに対し、ドイツは2・1倍にもなっている。
 日本の賃金上昇率はG7(先進7カ国)で最も低く、手取り収入(可処分所得)も米国の約半分。ドイツやイタリアにも負けている状況だ。

gtpの推移

 GDP(国内総生産)を見るときは名目と実質の違いがあることも知っておきたい。前述のものは、単に数値だけを比べた名目GDPだ。一方の実質GDPはその国の物価上昇も加味した生活実態に近い評価で、こちらは昨年末が▲0・1%と2期連続のマイナス。国内需要が後退する景気減速がはっきりと見える。
 つまり、名目が伸び、実質がマイナスということは、国内需要の減少を自動車や精密機械などの輸出で稼いでいるのが実態だ。
 日本の少子高齢化が国内消費の足を引っ張り、輸出にシフトする大企業は海外拠点進出へ活路を見いだす。機械設備の国内民間需要は昨年10~12月期で前年比マイナス1・0%と3四半期連続のマイナス。今年1~3月期は伸びる予想値が昨年末に出ているが、今年に入り能登半島地震やダイハツ認証不正などマイナス要素が相次ぎ楽観を許さない。

株高に浮かれるな

 一方、株式市場では日本株の史上最高値がニュースになっているが、中身は外国人投資家が中国経済の低迷を警戒して、円安のために割安感のある日本へ資金を避難させていることが大きい。米国の景気は依然好調だから、日本株はそれにも引っ張られて上がっていく。リーマンショックやコロナ禍のようなドカンと株価が落ちる要素がなければ当分は続くだろう。
 実際に順調に値上がりしている株は半導体などの3割程度で、ごく一部の銘柄だ。金持ちと庶民、所得分配の不平等がさらに続けば、日本社会の構造改革がまた先送りになる。名目GDPの後退はその警鐘だ。
 このまま円安が続けば輸出企業だけが儲かり、国内は物価高のために生活水準の切り下げが続き、格差は拡大する。円高でも海外で売れる高品質な商品や国内サービスを生み出すことこそが国力向上のカギだ。
 円安で大量に来日する外国人観光客の姿は、20世紀の高度経済成長期に海外旅行で爆買いに走った日本人との逆パターン。日銀はアベノミクスの円安誘導をようやく是正する時期に入りつつあるが、ペースが非常にゆっくりなので当分は円安が続く。
 経済界は「バブル期は日本企業の収益力が年間約18兆円、2022年は74兆円に増大。株高は本物」と盛んにアピールしている。しかし、株価が今後高値を維持し、日本企業の真の再興を目指すには〝株主・社員・消費者を含めた社会〟の『三方良し』の企業統治が欠かせない。その具体的な手だてを次に考えてみよう。

賃上げと生産性向上

 株高にわいても、低賃金による消費低迷で国内需要が伸びない不均衡な現実。〝冷たいバブル〟のままでは庶民はいつまで経っても株高の恩恵にはありつけない。
 まずは給料。データによると、3年連続のアップで前年比1・2%増の月額32万円9859円まで来ているが、物価変動の影響を加えた実質賃金は2年連続減少だから、生活は昨年より悪くなっている。
 1人当たりの購買力を示すGNI(国民総所得)を比べると、圧倒的上位はノルウェーとカタールの産油国。30位以内に米、独、加、仏、英、伊と他のG7各国が並び、日本は韓国より低い36位。中国とロシアの専制大国は貧富差が大きいから圏外だ。
 労働組合の代表「連合」は「株高が生活向上につながっていない。賃上げしてこそ生活実感を持てる」と春闘で昨年を上回る4%増をラインにした攻防を目指す。
 20世紀バブル期の日本は「明日は今日よりすばらしい」と信じ、みんながモーレツ社員となって産業力で国全体を引っ張った。今の株価は存在感自体が遠過ぎ、一般の人々は好景気の実感が抱けない。
 少子高齢化の日本は賃上げしないと若者が集まらない。国内企業の98%を占める中小企業の大半が「人材確保の防御的賃上げはやむを得ない」と答えている。全労働者の7割は中小企業で働いているから、今春に大企業が大幅賃上げしても、中小企業にまで及ぶのは半年、1年先のことだ。
 さらにハードルがある。大企業は賃上げ分を捻出するために経費節減を図り、下請け企業に製品価格の据え置きを迫る。このため、中小企業は製品の利幅を増やせないのに、賃上げを要求されるダブルパンチへと追い込まれる。

足引っ張る財務省理論

 ところで〝日本の沈滞と不景気〟を裏で演出しているのは財務官僚だ。ことあるごとに「先進国ナンバーワンの借金国」とか「財政均衡(収支が釣り合う)第一」「次世代に大量の借金を残すな」と、自民党安倍政権などの積極財政派を裏で批判してきた。
 現実にはアベノミクスで国債を大量に発行し、市中をお金でジャブジャブにしたが、債務超過によるハイパーインフレは起きなかったばかりか、日銀が目標とした2%インフレにさえ到来しなかった。
 それもそのはず。日本は国債を発行するときにIMF(国際通貨基金)などの外国資本に頼らず、国内で資金調達できるからだ。国債を大量に日銀に買わせる禁じ手を使っても、お札をジャンジャン刷ることのできる日銀は債務不履行には陥らない。実際は刷る必要すらなく、書類上の借り換えを行うだけでいい。
 その「日本を見習え!」と台頭してきたのが、バイデン米大統領与党の民主党内で盛り上がっているMMT(現代貨幣)理論。日本の国債償還システムをモデルとしているから面白い。
 日本を牛耳る財務官僚とその手先となっている政治家たち。財界と一般市民は「財政破綻論」の呪ばくから脱し、考え方を転じないことには、日本再生すなわちGDPの向上は到底望めない。

MMT理論の先駆者として知られるアレクサンドリア・オカシオ=コルテス米民主党下院議員
MMT理論の先駆者として知られるアレクサンドリア・オカシオ=コルテス米民主党下院議員
=写真は米下院、バイデン大統領の弾劾調査 次男が非公開会合で証言(写真:ロイター/アフロ)