〝断らない不動産〟で業績伸ばすクリエイト大阪 狭小地も再建築不可を高く買い取る秘訣

不動産

 「売却物件募集!」─。自宅のポストにあふれかえる不動産の買取業者のチラシ。連日のように投函されることから、読者は「不動産屋はどんな物件でも、喉から手が出るほどほしがっている」と印象を持つかもしれない。ところが、築年数が古い、建物がボロボロ、自宅が接する道路が狭いなどの物件は、「なんでも買います」とうたう業者でさえ、断る可能性が高いのをご存じだろうか。無理に買い取ってもらえば大事な資産が二束三文というケースも。こうした中で、前述のような物件を高く買い取れることを強みに、みるみる業績を伸ばしている企業が、大阪にある。(佛崎一成)

「価値がない」ではなく「価値をどう作るか」

 読者はご存じないだろうが、不動産屋の仕事は大きく分けて「仕入れ」と「販売」がある。「仕入れ」は物件を売りたい人を見つけることで、「販売」は文字通り、買う人を見つけることだ。
 仕入れに強い業者は、その物件を独占的に販売できるが、仕入れに弱い業者は別の業者の物件を売る手伝いをするしかない。当然だが、売りやすい物件は回って来ないから、多くは売れにくい物件のケースだ。
 つまり不動産ビジネスは、売り手と買い手の間を取り持ち手数料を得る「仲介」にしても、物件を自社で買い取り「売主」として再販するにしても、仕入れが重要になる。
 大阪府内のある中堅不動産会社の幹部は「実際には販売よりも仕入れが難しい。だから、『住宅を売ってほしい』という第一報を、どの業者もほしがっている」と話す。
 ところが、不動産会社は売り物件をほしがっているにもかかわらず、買い取りを断るケースがある。一体、なぜだろうか。

なぜ買い取ってもらえないのか?

 背景にあるのは、銀行が融資をつけてくれないケースだ。不動産業者は土地や物件を買い取るときの資金を、自社の預金ではなく、銀行から調達するのが一般的だ。
 土地を買うなら、そこに住宅を建て、付加価値を付ける。中古マンションなら時代に合った内装に作り替え、価値を高めて市場に供給する。
 銀行はこうした土地の仕入れ資金や住宅の建築費用を不動産会社に貸し、物件が売れた時点で返済してもらうパターンが多い。いわゆる業界で「プロジェクト融資」と呼ばれる方法だ。
 ただ、銀行はどんなプロジェクトにもお金を貸すわけではない。銀行にとって最大の争点は「売れるか、売れないか」。だからお金を貸す前に、物件の立地条件や価格の妥当性などを厳しく審査する。
 「一般的には、区画の多い広い分譲地には融資がつきやすいが、狭小住宅などは融資が付くことはほとんどない」(先の中堅不動産会社幹部)

嫌われる狭小住宅

 その理由は、銀行の視点に立てば見えてくる。例えば、広い敷地を10区画で割り、1区画2000万円で総額2億円のプロジェクトに融資するのと、1軒だけで2000万円のプロジェクトに融資するのでは、銀行はどちらを選ぶだろうか。
 当然、規模が大きい方が売れやすそうだし、一度に大きな金額を貸すことができる。融資額を伸ばしたい銀行にとっては当然、10区画の方が魅力的に映るだろう。
 半面、一点モノの物件は、融資する額も少ないうえに、売れ残るリスクも高そうだ。さらに家の前の道路が狭く、解体にも手間のかかる狭小住宅や、再建築ができない物件なら、なおさら財布のひもを締める。
 つまり、銀行が融資してくれない物件は、基本的に不動産会社は買わないし、仮に買う場合には二束三文のケースがほとんど。これが不動産買取の裏側だ。

「あらゆる不動産を買い取ります」は本当だった

 ところが、この〝融資がつきにくい物件〟を積極的に買い取る企業が大阪にある。
 「他の不動産会社が嫌がる市場は、弊社が最も得意とする分野です」。こう話すのは、大阪市北区にある「クリエイト大阪」の中田拓也社長だ。
 同社は中古住宅を買い取った後、リフォームして販売し、年々業績を伸ばしている。府内を中心に、常に150~180現場が稼働しているが、その中には他社で買い取りを断られた物件もある。
 実際に、守口市にある狭小地の古家を同社に買い取ってもらった斉藤幹夫さん(仮名)。「すぐに売却する必要があったので、最初は買取業者に相談していたが、ことごとく断られた。このため、仲介業者に話をすると800万円で販売できるという見積もりが出た。ただ、仲介の場合はいつ買い手が現れるかわからないし、売れなければ価格を下げなければならない不安もあった」と明かす。
 そんなとき、新聞で偶然、不動産買取をするクリエイト大阪の存在を知り、ダメ元で連絡。「当日に980万円で買い取ってくれる話をいただいた。仲介のままだと仮に見積もり通りの800万円で売れたとしても、そこから33万円弱の手数料を支払わなければならない。会社によって査定額がこうも変わるのかと驚いた」(斉藤さん)と話す。
 銀行融資がつきにくいような物件を、同社はなぜ、高く買い取れるのか。
 中田社長によると、「弊社は多くの取引先や独自の販売ルートがあります。また、借り入れをせずに現金買取ができる。このため金利も発生せず、通常あまり値がつかない物件を高く買い取れるんです」と説明する。業界では買取を断るケースも多分にあるが、「実際には買い取れない物件はないと思っています。どうやって価値を高めていくかの柔軟な発想が大事」と強調する。
 紙幅の関係で具体事例は控えるが、同社はこれまでにも買い手のつかない戸建てや中古マンション、収益アパートなどを買い取ってきた。現在も100を超える現場の稼働が、それを裏付けている。
 ただ、実は同社の強みは、高く買い取るノウハウもさることながら、〝お客様の依頼を断らない〟という根っこの企業文化にこそ本質がある。

〝断らない〟がアイデアを生む

 〝断らない〟といえば、異業種では徳洲会の『救急を断らない』が有名だ。「実は徳洲会の方針に影響を受けた」と中田社長は明かす。
 過去に、同社の創業者の母親が救急搬送されたとき、目と鼻の先にあった大病院に受け入れを断られてしまったことがある。そのとき唯一、受け入れをしてくれたのが同グループの病院だった。
 「患者からすれば最後の砦の医療を断られると、途方に暮れてしまう。そんな中で『救急を断らない』という方針を実際に体感し、感銘を受けた」という。
 以降、この考えを企業理念に掲げる。「せっかく頼って来られたのだから、プロとして断るのは申し訳ない」と〝断らない、そして高く買う不動産屋〟として歩み始めた。
 その後は「今まで買い取りを断っていたような物件に対しても、どうすれば価値を見出し、高額査定ができるかを考えるようになった」と中田社長。あえて難しい道を選美続けることで、「クリエイト大阪だけが持つノウハウやアイデアも蓄積された」(中田社長)
 例えば、狭小地のように設計が難しい物件を多く扱うようになったことで、腕の良い設計士との出会いがあった。買取のスタッフも「どうすれば、価値を高められるか」の視点に変わり、仕事がクリエイティブ化した。

梅田スカイビル近くにあるクリエイト大阪
梅田スカイビル近くにあるクリエイト大阪

 つい先日も「断らない」のウワサを聞きつけた兵庫・淡路島の地主から土地売却の依頼が入った。現地を視察すると、車でも上れない山道を抜けた先にある土地だった。「山しかないと思えば不便な場所だが、山があると思えば価値が出てくる。さらに海の眺めも抜群に良かった。エリアに需要がなければ、需要を作り出すだけ。この場所がどう変わるか見ていてください」と微笑む。

業界をカッコ良く

 NHKで現在、テレビドラマ「正直不動産」の続編が放送中だ。「千の言葉のうち真実は三つしかない」という意味で、〝千三つ〟ともいわれる不動産業界。その中で、ウソをつかない正直営業で立ち向かう真っ直ぐな姿が視聴者をとりこにしている。
 こうした背景には、お金や物質、地位など目に見えるものが重視された「土の時代」が終わり、2024年から本格的に、心の喜びや精神性など目に見えないものの価値が高まる「風の時代」に入ったからかもしれない。
 業界に「クリエイティブ(創造的)」の概念を持ち込み、従来の不動産屋のイメージを一新しようとするクリエイト大阪。不動産業界に新たな風を吹き込んでいる。

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