老後資金・住宅ローン早期返済・相続対策・入院介護資金・進学資金に活用
総務省統計局の調査によると、2022年高齢者の人口は3627万人、総人口の29.1%を占める中、世帯数の減少や人口減少が起因と考えられる〝空き家増加〟問題が深刻となっている。生涯収入や老後の不安、オンライン化による働き方改革など、個人や社会情勢が大きく変化。自宅を〝終の住処〟として住み続けることに疑問を抱く人も増えている。自宅を改修、リフォームして再利用する一方、不動産の有効活用として、〝リースバック〟という取り組みが注目されている。将来相続や空き家となる可能性を秘めている物件を売却し賃貸契約で住み続けることができるのだが、個々のケースを踏まえ検討することが必要だ。
特定空家等とは
- そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
空き家の管理強化!〝管理不全空き家〟
固定資産税住宅用地特例解除
売る? 貸す? 使う? 解体する?
〝賃貸借契約条件〟関係者で確認
空家の管理強化や活用案を盛り込む「空き家対策特別措置法改正案」が成立した。同法案は、管理状態の悪い物件を新たに「管理不全空き家」と規定。空き家の管理強化や活用案を盛り込み、市区町村が指定・勧告できる。管理不全空き家は、特定空き家になる恐れがある物件を想定。状態は悪くないが1年程度住んでいない「空き家」と、状態が悪く周囲や環境に悪影響を及ぼす「特定空き家」の間の空き屋。勧告に従わない場合、固定資産税住宅用地特例(1/6減額)の解除が可能になる。
空き家放置を防ぐ「活用促進区域」を指定
また、空き家対策特別措置法改正案に特例として、空き家の「活用促進区域」に指定できる制度を創設。建築基準法のルールでは、住宅やビルを建てる場合、原則として敷地が幅4㍍以上の道路に2㍍以上接している必要がある。しかし、道路幅が狭い市街地や古い住宅街などでは、この規制の影響で同じ場所での建て替えができないケースがあり、空き家が放置される要因の一つとなっていた。区域内では、安全確保策を実施すれば、敷地に接する道路幅が4㍍未満の場合でも建て替えを可能にする。 また、促進区域内で建物の用途に関する規制を緩和できる特例も盛り込んだ。例えば、原則店舗を建てられないなどの制限があるエリアでも、地域活性化や観光振興を目的に、空き家をカフェや宿泊施設などに活用することを可能とする。
空き家の取得経緯・所有者の居住地との関係
●空き家の取得経緯は相続が55%
●所有者の約3割は遠隔地(車・電車等で1時間超)に居住
賃貸で〝終の住処〟
リースバックは、高齢者世帯を中心に、老後資金の確保や住み替え、また住宅ローンの返済が厳しいがずっと住み続けたいなどを目的としているケースが多い。一方、空き家の取得経緯=図=として相続の割合(約55%)が高く、遺産分割のトラブルを防ぐ手段としても活用されている。
兵庫県に住む70代のAさん夫婦は、老後の資金がなく年金だけの生活を強いられる中、リースバックを活用。生活に必要な資金が調達でき、自宅に賃貸で住み続けることができた。賃料を支払いながら住み続ける場合、定期借家契約では期間満了で契約が終了する。リースバックに詳しい一般社団法人近畿任意売却支援協会の佐野代表理事は、「賃貸契約には、普通借家契約と定期借家契約がある。定期借家契約は期限が決められており、原則として、その期限が来たら借主は退去しなければならない。貸主と借主が再契約すると住み続けることはできるが、貸主が再契約を拒むと退去しなければならない。賃貸借契約条件は、借主のみならず親族でよく確認することが大切だ」と注意喚起する。一方、売却で受取金額と数年かけて支払う賃料が、どちらが有利か確認することも必要だ。売却価格と賃貸のバランスに注意しながら、賃貸借契約を結ぶことだ。
門真市で一人暮らしの60代Nさんは、子どもが4人。資産として戸建て住宅を保有しているが、将来施設へ入居の可能性や子どもたちへの相続を考えリースバックで自宅を現金化。賃貸契約で〝終の住処〟として住み続けている。不動産の相続が発生する場合、不動産を現金化することで、相続人に現金を均等に分けることで相続争いを防ぐことも可能だ。一方、「一度売却した自宅を買い戻すこともできるが、買戻しについては契約時に定めておく必要がある。しかし住宅ローンは組めないケースがあることを認識しておくべきだ」(佐野代表理事)とアドバイスする。
国土交通省は、各ケースを踏まえ、リースバックの適切な活用方法や留意点等について、ガイドブック=写真=に取りまとめている。
記者の目
遺産分割・相続登記・遺品整理など関係者で事前相談
将来、住まなくなる家をどうするのか、どうしてもらいたいのか親の考えや思いを子どもに伝えないまま相続すると、遺産分割や相続登記、家財の片づけや遺品の整理など問題が山積みで、「売る」「貸す」「使う」「解体する」などの選択肢を実行することができず放置されるケースが多い。家を誰が相続するのか? 相続後は、誰が住むのか? 売るのか貸すのか? それとも解体するのか?など、関係者で事前に話し合っておくことが重要だ。