高校授業料の「完全無償化」 「教育の質の低下を招く」 私学連合会から見直し求める声

高校授業料の「完全無償化」 「教育の質の低下を招く」 私学連合会から見直し求める声

 大阪府が進める私立高校の「授業料の完全無償化」。実現すれば、所得や子どもの数に制限なく授業料が「無償」となり、喜ばしい制度のはずが、大阪府 私学連合会の校長からは「学校の特色が失われる」「〝教育の質〟が低下する」と見直しの声が上がっている。吉村知事は「教育の質は大切。8月に〝より良い〟制度案をまとめ、任期中の実現を目指す」と回答している。果たして新制度のどこに問題が隠れているのか。

 「授業料の完全無償化」は今年4月の大阪府知事選で圧勝した維新の吉村洋文氏の選挙公約。大阪府では来年度の高校3年生から始め、2026年度までに府内すべての生徒を対象にする方針だ。実現すれば、都道府県での完全無償化は全国で「初めて」となる。

 保護者の声を拾ってみても「私学はひとつに特化する印象。選びやすくなると思う」「選択肢が広がるので、親としてはありたいです」「子どもは先が長いので、いい教育を受けさせたいと思う」などと負担が減る保護者からは歓迎の声が聞かれる。

大阪府の私立高校授業料無償化

所得制限が撤廃されると学校の負担が増加

 大阪府では現在、国と府の補助金をあわせた上限額を60万円と定めている。それを超える授業料については年収800万円未満の世帯を対象に、私立学校側が負担する「キャップ制」という制度が導入されている。この所得制限が撤廃されると、これまで保護者が負担してきた分も合わせて、すべて学校側が負担することになる。
 他府県でも行政からの支援制度はあるが、支援額を超えた分を負担するのは「各世帯」。学校側が負担する「キャップ制」が適用されているのは大阪府だけという。

 現在、年間授業料が60万円を超える府内の私立高校は全体の約半数にあたる41校(支援制度に加入していない1校を除く)。もしそのまま実現すると、年間で最大約8000万円の負担増となる私学校もあり、41校で合わせて8億円の追加負担が生じるという。

 新制度が実行されるとどういうことが予想されるのか。学校で一番お金がかかっているのが人件費と施設運営費。人件費を削減すると、少人数の選択授業ができなくなり、私学校としてはできるだけ生徒数を増やすことになるという。

 実現に向けて歩み始めた「授業料の完全無償化」。本来「生徒のため」に推し進められる制度が、かえって教育の質の低下を招くのではないかと、私学の現場では懸念の声が広がっている。