「起業家精神」を持つ子を育て、未来の日本を元気に

 谷町六丁目駅近くのビル内に、子ども向けビジネススクールを展開する「アルボルキッズスクール」。ただ「お金に詳しくなる」ことや「起業家を増やす」ことを目指すのではなく、「日本社会を変えたい」という熱い思いをもったスクールだ。

きっかけは「人が育たない」という焦燥感

 スクール開校のきっかけは、代表である福井朋子さんの会社員時代の経験から。液晶のメーカーで20年、設計、営業、経営管理、そして人事とあらゆる部署に携わった。人事として研修や採用に携わる中で感じたのは、「人が育たない」という課題感、そして「人材の二極化」である。

 「人が育たない」という課題を抱えるのは自社だけではなかった。あらゆる中小企業の社長や人事担当から「いくら研修や勉強会を行っても成長しない」という言葉をよく耳にしていた。ただ一方で、「勝手に成長する」人材もいる。

 そこで福井さんは、人材を「自立型」と「管理型」に分けられると考えた。「自立型」は、会社の利益や自分の成果の向上を追い求め、自主的に創意工夫しながら業務を遂行する人材。管理型は、指示したことは忠実に行えるが、管理下でのみ業務を進めるため、その枠から〝はみ出た〟、自主的な取り組みはしない人材だ。後者は成長が見込みにくく、また日本の人材は、後者の方が多数だという。

 福井さんは「自立型は元から向上心があるので、社内研修の有無にかかわらず、自分で学びの場を作るのです。一方で、管理型は、研修を受けても一過性で終わってしまうことがほとんど。研修をたくさんこなすより、まずは『自立型』の人材を育てる必要があると考えました」と話す。

教育にアプローチし、成長に必要な「心」を育てる

 両者の違いは何か。福井さんは、学力やスキルではなく、考え方やモチベーションなど、〝心〟にあると考えた。しかし社会人になってから、成熟した〝心〟を変えることは難しい。そこで一歩手前にある「教育」に目を向けると、そもそも日本の教育のあり方が「管理型」人材を生みやすい仕組みになっていると気づいた。

 日本の教育は知識の詰め込みが中心で受動的。正解の無い問いに対し、「自分で答えを作っていく」という機会が少ない。そのスタンスのまま社会人になるため、仕事を「作業」としてとらえ、「うまくこなす」ことに注力する人が多い。

 「AIやテクノロジーが台頭し、仕事の消滅は加速しています。また、変化が激しく、〝正解〟が分からない時代になりました。そんな時代のなかでも活躍できる人材を育てるには、経営者のような『創造性』と『行動力』、それらを支える『自主性』を身につけることが必要ではないでしょうか」と福井さん。ただ勉強ができる子以上に、「経営者意識」を持つ子どもを増やすことで、今後の日本社会がよくなると確信し、スクールの開校に至った。

福井朋子さん

「アントレプレナーシップ教育」と「マネーリテラシー教育」で「わくわくできる社会人」に

 同スクールでは、起業家のようなアイデアを生み出す能力や意欲、革新性やリーダーシップ力を育てる「アントレプレナーシップ教育」、またビジネス社会では必須だが現在の教育に不足している「マネーリテラシー教育」を行っている。

 マーケティングや商品開発、コスト、プレゼン、そして自分たちで準備したビジネスを実際に実施してみるなど、大人顔負けの実践型プログラムが繰り広げられている。「原価」や「資金調達」といった言葉を理解し、仕事を〝自分ごと〟としてとらえられるような内容だ。

 プログラム外でも、家にある不要なモノを値付けし教室内で販売する生徒や、編集動画講座を開く生徒もいる。将来パン屋になりたいという生徒は、教室内でパン教室を開催するなど、さまざまなビジネスを子ども自身で展開している。「お金はもらうものではなく、自ら生み出すもの」という価値観を根付かせ、子どももビジネスを楽しんでいる。ここに通う子どもたちは意欲にあふれている。

プログラムは対話形式で進んでおり、子どもたちは前のめりで発言している
実際にレモネードを販売。企画から自分たちで行った

 福井さんは「実際に自分達でイチから考えて、失敗まで経験して、『次はこうやったらうまくいく!』とチャレンジする。この一連の流れを通じて、子どもたちの自己肯定感や非認知能力も育てています」と話す。

 クラスは小学生から中学生を中心に、高校生、大学生向けのプログラムも展開している。「仕事の楽しさって、自分で創意工夫するところにあるのではないでしょうか。『早く仕事終わらないかな…』と言いながら週末まで働くより、自主的に働くことで『仕事って楽しいな』ってやりがいを感じながら毎日を過ごす人が増えてほしい。そんな思いで子どもたちに教えています」と福井さんはほほ笑んだ。体験会の問い合わせはHPまで。