新型コロナワクチン接種後、健康被害が生じた場合、国の制度を使って医療費などの補償を受けられる仕組みがある。だが、その申請に必要な診療録、いわゆるカルテが時間の経過によって破棄される可能性がある。こうした中、大阪府議会は12月17日、国に保存期間の延長を求める意見書を全会一致で可決した。意見書は今後、国に提出される。(加藤有里子)

救済制度は「期限なし」でも、カルテは5年で廃棄の恐れ
国の予防接種健康被害救済制度では、新型コロナワクチン接種によって病気になったり障害が残ったりした場合、救済を受けることができる。2021年2月17日から24年3月末の「特例臨時接種」期間においては、請求期限が設けられていない。
一方、救済を受けるためには、接種と症状の関係を示すカルテなどの医療記録が必要となる。しかし、医師法ではカルテの保存期間は原則5年と定められており、保存期間を過ぎると医療機関で廃棄される可能性がある。
接種開始から5年目前 申請できても書類が残らない矛盾
新型コロナワクチン接種開始からまもなく5年を迎える中、申請期限は残っているにもかかわらず、必要な書類が残っていないために救済を受けられない事態が生じかねない。意見書は、こうした状況が制度の趣旨である「迅速かつ公平な救済」を十分に果たしていないと指摘している。
意見書の作成に関わった大阪維新の会の市来隼(いちきはやと)議員は「申請できる期間が残っていても、記録がなければ救済を受けられないのは制度として矛盾している。国には、制度が実際に機能するよう早急な対応を求めたい」と話す。
検証の土台にも影響 診療情報の蓄積が失われる懸念
さらに、意見書では、この問題が個々の申請者の救済にとどまらず、将来の医療や公衆衛生の在り方にも影響を及ぼす可能性があるとしている。ワクチン接種後にどのような健康被害が起き得るのかを検証するためには、診療情報の蓄積が不可欠であり、記録が失われれば、医学的な知見の蓄積という観点からも看過できないとしている。
資料廃棄の回避求める
府議会は国に対し、令和2~5年度(21年2月17日〜24年3月末)の特例臨時接種に関する新型コロナワクチン接種の記録について、特例的に保存期間を延長し、現に保有する資料が廃棄されないよう措置を講じることを求めている。
認定9392人、死亡1004人 国の対応に注目
コロナワクチンの副反応に関する問題を訴えてきた関西学院大経済学部の安岡匡也教授は「コロナワクチンを巡り、カルテ保存の問題に正面から向き合う意見書が、地方議会で全会一致により可決されたことは画期的だ」と述べる。
12月5日現在、予防接種健康被害救済制度に基づき、新型コロナワクチン接種後の健康被害として認定された件数は9392人に上り(前年同月比842人増)、このうち死亡が認定された件数は1004人に達している。
府議会が問題提起したのは、「制度が存在していても、実際に利用できなければ意味がない」という点だ。時間がたってから表面化する可能性のある健康被害に、制度はどう向き合うのか。国の対応が注目される。
