言語能力アップのカギは「語彙」にある?
毎年140万人が受検し、漢字の知識や正しく使う能力を測る「漢検」。漢字学習の一環として、もしくは「試験」に慣れるために、という理由で低年齢時から取り組む子どもも多い。そして今、漢字を勉強することが「言語能力」を鍛えることにつながるということで再注目されている。 (長澤拓、礒見愛香)
中学生の「国語力」低下の傾向
文部科学省が今年4月に実施した「全国学力・学習状況調査」の中学校国語の結果では、記述式問題の平均正答率が25・6%と顕著に低かった。記述式の問題で問われるのは、文章を正確に読み取り、考えを自分の言葉で表現する力。正答率は例年50%あたりで、今までも他の形式の問題と比べ低水準であると指摘され続けていたが、今年度はさらに半減した。中には未回答率が30%近くを記録した設問もあり、「子どもの読解力低下」が表れる結果となった。

「AIコミュ力」と言語能力の関係
現代では、生成AIなどとのデジタルコミュニケーションも必要性が増しているが、対AIにも読解力や伝達力などの「言語能力」が重要である。
日本漢字能力検定協会(下、協会)は2025年8月「デジタル時代のコミュニケーションにおける実態調査」を行った。調査では、AIを利用するとき「ストレスを感じることがある」と回答した人の80%以上が、人との通常コミュニケーションにおいてもストレスを感じていることがわかった。背景には、「相手の意図がわかりにくい」「自身の意図が伝わらない」といった読解力や伝達力の不足が関係している。私たちがAIから求める回答を得るためには、AIに適切な指示を出し、その回答を正しく読み取らねばならない。年齢を問わず、人とAI、両方との会話を無意識のうちにこなす現代人にとって、「言語能力」の向上は欠かせない。
「語彙力」のカギは「漢字の手書き」
言語能力を上げるにはまず「語彙(い)力」向上が必須である。国立国語研究所の松下達彦教授によると、テキストに書かれている内容の70%以上を理解するには、テキストの延べ語数の93%程度を理解する必要がある。語彙を鍛える方法の一つとして、漢字学習は有効だ。「日本語の語彙は漢字に支えられています。漢字を学習することで、語彙力が上がり、表現の幅が広がります」と協会の山田昌哉さんは語る。
また、協会と京都大学との共同研究プロジェクトでは、漢字習得の中でも、特に「漢字を手で書く力」が文章力の向上に直接的に影響していることが明らかになっている。自分の手で書けて意味が分かる漢字が多いほど、語彙力、読解力、文章作成能力など、言語能力が総合的に高くなるといえる。
「文章力アップ」がビジネスコミュニケーションに生きる
協会は「漢検」以外に「文章検」という検定も行っている(正式名称:文章読解・作成能力検定)。協会内の位置づけとしては漢検の「続き」の試験で、小・中学生で「漢検」、高校生以降で「文章検」という流れで受検することで、より「強固な読み書き基盤」を作る、という設置意図がある。
具体的な試験内容は、文章・データの要約文や、題材を踏まえた論説文の作成など。他人の文章を正確に読み取り、自分の考えや意見を、論理の流れがはっきりした文章で表現する「論理的文章力」を測定する。「近年は多様化によるコミュニケーション力の重要性を感じてか、社員研修で使われるなど大人の受検者も増えています」と山田さんは語る。
ビジネススキルとしても重要な「言語能力」。その向上には、子どもの宿題でよく見かける、ドリルにたくさん漢字を手書きして覚える、というような行為の積み重ねが重要だといえるだろう。
