【わかるニュース】大企業は給料アップへ 賃上げ実現のカギを握るのは〝中小企業〟

 労働者側と経営陣が賃上げ交渉を行う春闘がスタートした。米国経済はポストコロナでインフレ基調の好景気にある一方、日本は「何とか物価上昇分の賃上げを」と情けない状況にある。

日本の賃金 世界5位から27位に転落

 アベノミクス以来、国は唯一使える賃上げへの武器「最低賃金引き上げ」をほとんど使わなかった。結果、最も賃金の高い東京でも10年間で222円増の時給1072円程度で、諸外国に比べ極めて低い。アベノミクス以前は世界5位だった日本の賃金も、いまやOECD(経済開発協力機構、西側先進38カ国加盟)で27位と最下位グループに甘んじている。

 グローバル展開を嫌って国内の生産消費に目を向け、株高のために企業を内部留保や株主配当に駆り立てた安倍政権。日銀の円安誘導もその延長線上だ。こうして輸出企業だけを優遇する政策にまい進した結果、日本経済は衰退した。

 私たちが肌で感じる部分では、いたるところで見かけた外国人労働者が激減していることだ。代わりに日本人労働者が外国へ出稼ぎに行き、高い賃金を得ている。この状況は目を覆いたくなるかも知れないが、「日本の二流国への転落」ではないだろうか。

給与の推移

低賃金に甘えた日本企業のツケ

 岸田総理の打ち出した「三位一体の労働市場改革」。具体的には①デジタルなどのスキルを習得する「学び直し」②年功や在籍年数ではなく仕事内容で賃金を決める「職務給の確立」③転職や副業のハードルを下げる「成長分野へ雇用移動」─の3つ。しかし、デジタル機器に囲まれ育ったZ世代の若者にとっては、「何を今さら?」と当たり前のことばかりだ。

ユニクロの初任給30万円 世界基準では高くない

 世界を知るにはユニクロを運営するファーストリテイリングの賃上げを見ればいい。「年収最大40%アップ」でまずビックリ。国内社員の平均年収959万円に2度ビックリ。さらに、賃上げで初任給30万円、入社2年目の店長で39万円というから3度ビックリだ。しかし、これに驚いた人は、自分が世界と比べ、どれだけ低賃金で労働しているかに気づいていない。

 ユニクロは国内より海外店舗の売り上げが高く、当然外国人労働者が多いから安い給料では優秀な人材が集まらない。その代わり、年功序列や役職手当を廃し、完全実力主義を導入。社員は片時も気が抜けない。

完全実力主義を導入しているファーストリテーリングが運営するユニクロ
完全実力主義を導入しているファーストリテーリングが運営するユニクロ

労働者をコストと見なした結果…

 春闘の賃上げ率は民間予測の平均で2・85%だが、もし日本で実現すれば1997年以来だから長年の停滞ぶりがはっきり分かる。それでも一方で、物価指数は4%以上になっているからとても追い付けない。

 給与は生産性と共に上がる。事実に目を覆いたくなるが、日本は「低生産性・低スキルの仕事を低賃金の人材で回す」という途上国並みなのが実態だ。



 日本の平均賃金は437万円で約30年間横ばい。すでに韓国(470万円)に抜かれた。ちなみに米国は822万円だ。1人当たりGDP(国内総生産)も今年、韓国が日本を抜き去るかもしれない。

 韓国は最低賃金を2018年から10%以上連続で引き上げている。この強制的な賃上げに、企業は人を減らすことと技術革新で生産性を上げるための設備投資に迫られた。つまり、高付加価値の製品を生み出さないと生き残れないという痛みを克服し、今日の好循環を呼び込んだと分析できる。

 一方で日本企業はどうか。設備投資をせず、賃上げどころか労働者をコストと見なして残業を抑え、休みを増やし、勤労意欲を削いできた。社内研修なども経費をケチって怠ってきた。