「やれやれ」と小さなため息のひとつもついてしまう。ご先祖には申し訳ないが、年に1、2度とはいえ、家族を引き連れての遠方の墓地へのお参りは「しんどい」というのが正直な気持ちだ。日頃のご無沙汰のせいで、暑い日、寒い日の墓掃除も〝修行〟気分である。おかげで「俺は子どもに面倒を掛けないようにしよう」と誓った―なんてケースが最近は激増しているようだ。暮らしぶりが変化し、社会の価値観も変わってきた。それに合わせて墓のあり方も多様化し、それぞれが自分にあったスタイルを選べる時代になった。そこで新しいスタイルの墓を取り上げてみた。
変わってきた価値観で、変わった墓のあり方
樹木葬
自然志向派にぴったり
大應寺浄苑(天王寺区餌差町3)
樹木葬とは、墓石のかわりに樹木や花を墓標として埋葬する墓で、散骨とは違って拝むシンボルがあることや、自然志向派にはぴったりのスタイルとあって、最近はとくに人気が高くなっている。
いくつか種類があって、遺骨を直接、土に埋葬するタイプもあるが、ここは墓碑の下に個別納骨室を設けたタイプである。大阪メトロの玉造駅から約7分という都心部にあり、真田幸村の陣「真田丸」ゆかりの「大應寺」の境内の一画とあって、お寺が永代供養も行ってくれる。これが「安心感を得られる」というのが遺族らの声だ。しかも宗派は問わない。
石碑プレートは多種類から選ぶことができ、価格は15万から70万と様々。墓地使用料に平均的な石碑代プラス管理費10万円に永代供養料を含めても、100万円弱で「お墓という形ができ、供養、納骨されると 〝最高の供養ができた〟と思ってもらえる」とは霊園を開発し、管理する「阪神総商」の青木隆行専務。さらに「街中にあるので、いつでも逢いに来られる」のが大きな利点と上げる。
この霊園は2020年1月にオープンしたが、他のタイプの墓も含めると、すでに400人のお骨が埋葬されている。そのなかには遠い郷里で「墓じまい」した子孫が納めた遺骨も相当数含まれているという。また「ここで眠りたい」と訪れる、生前申し込みの人が増えており、なんと契約者の約7割を占めるというのも、最近は「終活」が当たり前になってきたためだろうか。
バーチャル墓
場所、時間も関係なく〝墓参り〟
CLASSIX大阪(北区曾根崎新地2)
墓を建て維持するための負担(経済的、体力的など)が大きいと考える人が増えている。暮らしの変化に合わせ、価値観が変わってきたため、従来の墓とは大きくイメージが違うものであっても、今や抵抗なく受け入れられる時代になった。時代はデジタル。パソコンやスマートフォンなどで、仮想空間の墓地に墓を設け、そのアプリでバーチャルな墓参りをする。これだとインターネット環境さえあれば、場所も時間も健康面での心配も、必要なしだ。
提供しているのは「リアルとバーチャルが一緒になったサービス」(夏目三法会長)である「まるっとお葬式」のポイントのひとつとしてである。このサービスは火葬後の遺骨を寺院に運び込み、そこで葬儀を行う。寺でも、オンラインでも参列できる。その後、遺骨は寺の施設に納められ、寺が永代供養する。納骨後の命日やお彼岸、お盆などの年12回の法要にもオンライン参列できる。また別途、四十九日や三回忌などの法事を開くことも可能で、最大15カ所まで接続できる。そしてバーチャル墓だ。すでに大阪や京都、東京、神戸の8寺院が参加しているが、今後もさらにネットワークを広げることにしている。
「まるっとお葬式」の最大の特徴は「価格が安い」(夏目会長)ことだ。華美な装飾や過剰なサービスを省くことで「実現した」価格は、5つのポイント・サービスで「30万円」。一般的な葬儀費用や墓の購入費、法要費用などを比較すれば、その低価格が明らかだろう。ところでデジタルは苦手という人にも、操作方法などを詳しく教えてくれるというので「安心して」と同社は伝えている。
宇宙葬
ロマンあふれる「宇宙」への旅立ち
銀河ステージ(西区立売堀1)
海や野山などではなく、遺灰をカプセルに封入し、ロケットで「宇宙」空間に打ち上げる散骨の一種。かつては限られた人だけのものだったが、今では一般向けにサービスが提供されており、普通の市民が「宇宙に行ってみたい」との〝ロマン〟を実現できると、話題と興味を集めている。
ロケットを打ち上げるのは米国の商業宇宙船やNASA。「費用が高いのでは」と心配する向きもあるが、これが墓石を買ったりすることと比較すると、数あるプランによって差はあるが「思うほど大きな負担ではない」と、宇宙葬の豊富な実績を持つ「銀河ステージ」の萬好勝成本部長は説明する。
具体的にみると、宇宙空間に打ち上げるだけのものから、人工衛星に搭載されて地球軌道を周回するもの、月面旅行や宇宙の果てを目指して無限に飛び続けるものなどプランは多い。これまでに40人が飛びだしており、料金は66万円から810万円まで。当然、遺灰を入れるカプセルの容量(1~7㌘)や飛ぶ距離でコストが変わってくるわけだ。
それと打ち上げ前日に、希望する家族が施設見学やセレモニーなどに参加できるツアーも用意されている。ただし打ち上げはロケットの具合などで延期となる場合があるのは、周知のこと。1997年以降、2021年1月までの間、計18回の打ち上げが実施されている。萬好本部長は「葬送ニーズは多様化しており、今後、大きく変わる可能性があるが、宇宙葬そのものの〟申し込みがなくなることはないだろう」と展望している。
自動搬送式納骨堂
手ぶらで天候関係なし参拝
国分寺御廟(北区国分寺1)
今や都市では主流になった墓で、建物内の参拝室に、バックヤードに収蔵された遺骨(厨子)がコンピュータ制御で搬送され、墓に納められ、参拝するというスタイル。広い土地が必要な墓地が難しい都心でも、収蔵スペースを縦長の建物内に設けて可能にしたことから、マンション型と呼ばれたりする。すでに東京ではこれが一般的となっており、大阪でも5、6年前から多くなり、現在、府内に6カ所となっているとか。
国分寺という飛鳥時代から続く歴史ある寺院内に御廟(びょう)が誕生したのは2年前。市内有数の繁華街「天六」から歩いてすぐと、交通アクセスがよく、天候に左右されない建物内の墓であって、しかもリーダーにICカードをかざすだけで受付され、参拝準備も整うシステム。生花や線香も用意されており、手ぶらで気軽に、いつでも行きやすい墓だ。毎月1回、合同供養の法要も寺院本堂で執り行われている。
価格は2タイプあり、永代供養料込みの約4平方㍍で98万円、約6平方㍍だと130万円。基本的に納める遺骨数に制限はないが、目安として4~6人分。代が途絶えたときは、寺院境内にある「永代墓所みのり」に合祀(し)してもらえる。
ところで、この種の納骨堂には「建物老朽化が避けられず、災害時の遺骨が心配」とのデメリットを指摘する声がある。「災害に強い、縦横どちらの圧力にも十分に耐えられる造りになっており、長期メンテナンス計画で100年以上の耐久性の実現に努めている。もちろん機器が損傷した場合の保険に加入しており、その場合はただちに復旧作業を行うようになっている」と事業委託の「ヤシロ」の坂田修課長は胸を張る。