大阪と札幌にはイメージしやすい共通点がある。大阪の「うめきた」と札幌の「さつきた」だ。互いに駅裏と呼ばれるエリアの再開発が進行中で、どちらも唯一無二の超高層マンションが建設され、富裕層の注目の的だ。すでに大阪の一部の富裕層マネーも、府域を超えて札幌に注がれている。
うめきた2期 価格は近畿圏で過去最高水準か
新たなまちづくりが進むJR大阪駅北側。「うめきた2期」と呼ばれるプロジェクトは2月、「グラングリーン大阪」と装いを新たにした。全体まちびらきは2027年度で現在、敷地の両端にガラス張りのビルが天に向かい丈を伸ばしている。徐々に街の姿が鮮明になってきた。
敷地内には超高層マンション2棟も建設され、年内にも売り出される予定。不動産業者の間でも「価格は近畿圏で過去最高水準になる」と注目の的だ。長年、マンション用地の取得と販売に携わった大手ディベロッパー幹部によると「資産価値の高いマンションは、販売の最中にも価格が上がり続ける。それでも竣工前の値上がりは期待の枠に留まる。完成して人が集まるようになれば、さらに一段、二段と価格が上がっていく」
うめきた2期の物件も、青天井に価格が上がっていくのだろうか。それを裏付ける事例がすぐそばにあった。
グランフロントの物件価値は10年で3倍以上に
2期工事に先行すること10年前。グランフロント大阪が開業したが、このときの超高層マンションが今、大きく値上がりしているのだ。
「グランフロントオーナーズタワー」と呼ばれる同マンションは、2013年4月に完成。販売当時と現在の価格を比べると、新築時に4800万円だった1LDK(60㎡台)は、現在1億4900万円の値をつけ、中古市場で取引されている。2LDK(120㎡台)も新築時の9870万円から3億3000万円に高騰。10年で資産価値は3倍以上になった。
「再開発や商業施設などとセットになった物件は、過去の経験からほぼ値上がりする。駅周辺の再開発は大阪に限らず、全国の主要都市でも行われており、情報の早い富裕層らはすでに目を付けている」(同幹部)と明かす。
都心最後の一等地〝駅裏〟に白羽の矢
近年は少子高齢化で、住民の生活圏をコンパクトにまとめる潮流がある。1カ所に集約すれば、行政サービスや日常生活の利便性が増すからだ。その中心は主にターミナル駅となるが、にぎやかな繁華街を形成する駅の表側に比べ、反対側はまだまだ開発の余地を残すケースが多い。
大阪の「うめきた」も同様で、以前はJR貨物駅を中心とするコンテナヤードだったが、都心最後の一等地として白羽の矢が立ち、新たなまちづくりが進んだ経緯がある。
愛知県の名古屋駅もその一つだ。百貨店や高層ビルが建ち並ぶにぎやかな駅東側に対し、西側は土地の権利関係などが複雑で、これまで開発が進んで来なかった。
そこへ舞い込んだのが2027年以降に開業するリニア中央新幹線の計画だ。名古屋─品川を最速40分で結び、45年には大阪へも延伸。三大都市圏を約1時間で結び、東名阪を一つの経済圏に捉える「スーパーメガリージョン」構想が持ち上がる。
三大都市圏を一体化させることで、GDPはフランスやイギリスを超え、ドイツに迫るという夢のある話で、工事が国に認可された翌15年には、駅西側のビルの地価が36%上昇。商業地の上昇率で全国2位に躍り出たのもつかの間、翌16年にはついに1位となった。
こうした将来性に伴い、駅西側で建設が進むタワマンも億ションの価格をつけながらも売れ行きは好調だ。
全国の地価上昇率 トップは北海道が総ナメ
そして現在、地価上昇率が急激に伸びているのが北海道だ。国土交通省が3月22日に発表した公示地価では、住宅地は全国トップ100を、商業地は全国トップ10を北海道が独占した。いずれも札幌近郊の地価上昇が勢いを増している。
その札幌市は大規模な再開発の真っただ中だ。札幌駅も大阪や名古屋と同様に、大通公園やすすきのなどのにぎやかな繁華街のある南側と、北海道大学をはじめとする文教地区の北側で、毛色の違う街並みを形成している。
そして大阪の「うめきた再開発」と同様に、「さつきた」と呼ばれる札幌駅北側での再開発が進んでいる。
目玉は再開発組合の事業で建設中の「ONE札幌ステーションタワー」だ。地上48階、道内最高層となる高さ175㍍の超高層マンションを核に、建物の真下で地下鉄「さっぽろ駅」と直結。加えて雪の積もる冬場に一切外に出ることなく、JR札幌駅まで地下道を通って行ける。
物件は完成前だが、すでに札幌市民には「ワンタワー」の愛称で注目されている。市内に住む男性は「戸建ては雪かきが大変だから、マンションは合理的。大阪の人にはイメージできないかもしれないが、雪の積もった地上に一歩も出ないで済む駅直結のマンションは、道民なら誰もが憧れる」と高く評価している。
実際に付近にある築16年のタワマン価格の推移を見ると、新築時に4900万円だった住戸が中古市場で1億1000万円で取引されている。他の駅近のタワマンが同じような傾向になっても何ら不思議はなさそうだ。
面白いのが、購入者は道外で4割を占め、うち3割が大阪をはじめとする関西人であることだ。
「道外の購入者はセカンドハウスとして購入するパターンが多い。大都市に比べて安いし、富裕層なら簡単に買える金額。ホテルに長期滞在する経費を考えれば、資産価値の高い物件を沖縄同様にリゾート拠点として所有する方が合理的と考えるニーズが一定数ある」(販売担当者)
最高価格は5億円にもかかわらず売れ行きは好調。不動産のプロたちですら値上がりを確実視しており、購入客でさえ「もう一戸ほしい」と買い増しのために、キャンセル待ちをしている状況という。
北海道新幹線の延伸で、札幌に富裕層マネーが集結
同物件にも、竣工後に資産価値を上昇させるニュースが控えている。〝北海道新幹線の開業〟だ。現在、本州から新函館北斗まで来ている新幹線が、31年には札幌まで延伸されるのだ。
この将来性を見て、これまで札幌になかったハイアットやマリオットの五つ星ホテルが進出を決定。新幹線が開業すれば、世界の超富裕層が別荘を構える「ニセコ」への所要時間も2時間半から30分圏内に短縮されることから、札幌が富裕層の長期滞在の受け皿になることは間違いない。
先の販売担当者は「私自身、大阪や名古屋で販売経験があるが、新幹線や大学、繁華街などの都市機能がすべて駅周辺に集中した都市は札幌以外見たことがない。しかも世界の富裕層を呼び込める観光都市でもある。近年は有名企業が北海道へ拠点を移す動きも活発。これだけ将来性のある都市は全国でも珍しい」と期待している。