タイガー魔法瓶が発売した新聞紙を燃料にご飯を炊く、炊飯器が話題だ。昨年10月にタイガー魔法瓶が100周年記念で発売した「魔法のかまどごはん」は、電気でもガスでもなく新聞紙を燃料にした〝ホンモノ直火〟炊き炊飯器だ。ネットだけの販売ながら既に5000台を売り上げている。防災グッズやキャンプ需要、学校教育などを想定している。
電気ではなく「炎」で炊く炊飯器は一人の社員の諦めないこだわりから生まれた。開発の経緯や今後の展開について、製品のプロジェクトリーダー村田勝則さんに話を聞いた。
タイガー魔法瓶が生んだ奇跡の炊飯器「魔法のかまどごはん」
きっかけは、タイガー魔法瓶の社内公募制度「シャイニング制度」から始まった。多彩な炊飯器を開発・販売しているタイガー魔法瓶。 修理・交換用の部品としての内釜が存在する。部品保有期間は10年と定めており、保有期間終了後の未使用の内釜を有効活用できないかということが、このプロジェクトの発端となった。村田さんは「未使用の内なべ(内釜)の再利用を考えていたとき、私が大学生の頃に『少年自然の家』でアルバイトをしていて、新聞紙を燃やしてご飯を炊いたことを思い出しました。炊飯器の内なべには、炊飯用の目盛りも付いているので水量も手軽に計れます。そこで直火の炊飯器にできないかと考えました」と当時を振り返る。
21年から、植木鉢をかまどのように使った試作機を制作。防災イベントで紹介するなどした。その後、22年1月にはシャイニング制度で「事業化賞」を受賞。製品化への取り組みがスタートすることになった。
そうして完成したのが独特な炊飯方法の「魔法のかまどごはん」だ。通常、ご飯を炊くには強い火力が必要となる。このため電気炊飯器なら1000ワットを超える電力を使い、飯ごう炊飯でも多くの薪を使って強い炎で沸騰させる。これに代わるものとして、どこでも手に入れやすく扱いやすい新聞紙を燃料として活用した。
かまどに空いた2つの穴にねじった新聞紙を入れていく。穴が2つあるのは新聞紙を完全燃焼させるためだという。全判11枚で5合のご飯、全判9枚で3合のご飯が炊ける。
このときのポイントは新聞紙を半分に切ったあと、ねじって棒状にすること。そして約1分~1分半ごとにかまどの2つの穴に新聞紙を交互に入れる。これで強い火力を手軽に生み出せる。吸水時間が30~40分、炊飯時間が約20分、蒸らし時間15分で、トータル1時間強で炊ける。電気炊飯器とは異なり、常にそばにいて新聞紙を投入し続ける手間はあるが、直火で手軽にご飯を炊く体験ができるのだ。
おいしく炊くための工夫もある。「魔法のかまどごはん」では一般的な炊飯器とは異なり、内釜がかまどから飛び出した構造となっている。これは内釜の上部を外に出すことで内部の温度に差をつけるためだとか。下部の温度が高く、上部の温度を低くする。内釜内部で熱対流が起こりやすくなり、〝踊り炊き状態〟が可能となる。
●編集後記
実際に炊いたご飯を試食したが、粒立ちがよく、つやつやにご飯が炊けていた。アウトドアシーンはもちろんのこと、災害で避難しているときなどに、この温かくおいしい炊きたてご飯が食べれたら、非常にうれしいはず。評価はじわじわと広がり販売も好調だという。