12月29日に得意の「ほろ酔いコンサート」全国ツアーを大阪・新歌舞伎座で千秋楽迎える歌手、加藤登紀子が歌手生活60周年の区切りを迎え、これまでの生き方などを振り返った。
半世紀を超える「ほろ酔い」ツアー中に毎年誕生日を迎え、今年81歳になるがこのほど新刊書『「さ・か・さ」の学校』を出すなど心身ともに元気。20年以上前に最愛の夫を看取ったが、以後は3人の娘が彼女を支え歩いてきた。
長く広島の朗読プロジェクト「広島愛の川」に関わってきただけに、今年のノーベル平和賞を日本被団協が受けた喜びはひとしお。「原爆を開発したオッペンハイマー博士はドイツの降伏でいったん開発を中止しようとする。それが〝日本はまだ戦争をしている〟という一言で再び開発に携わる。二度と戦争を起こさないためには国を超えた人と人のつながりが大事」が持論。
元々がシャンソン歌手だけにそのあり方に強いこだわりがある。「日本では恋愛をテーマとして訳された詞が多いけど、実際の訳はもっと生き方への強いメッセージ性がある。だって誰かに頼って生きて行くのは楽しくないでしょ」と、思い通りに生きてきた誇りと自負がにじむ。新刊書の「さ・か・さ」とは砂時計をひっくり返したイメージから。つまり常識を覆す行動を指し、自身での実践も相当年期が入っている。
来年が60周年の本番。「60年間の1つずつの曲の歴史を届けたい」と前置きし、自身の「ひとり寝の子守唄」「琵琶湖周航の歌」「百万本のバラ」はもちろん、森繁久弥の「知床旅情」、中森明菜の「難破船」、高倉健の「時代遅れの酒場」など関わりの深い曲や提供した楽曲がスラスラと出て尽きない。「エッセイストも作家もやったけど、やっぱり歌った方が生きる力になる。人生を踏み出すには歌がいるのよ」と歩みを止める気配はなさそうだ。
(畑山 博史)