【短歌に込める経営者の想い⑤】アドベンチャーワールド 山本雅史社長(アワーズ)

(歌人・高田ほのか)

 山本雅史社長はアドベンチャーワールドが開園する前年、昭和52(1977)年に生を受けた。パークを運営する株式会社アワーズの本社に伺った際、「私は、自分がアドベンチャーワールドの一番のファンだと信じ、この仕事に携わっています。今日はよろしくお願いします」と、てらいのない笑顔を差しだしてくれた。 

 大工から建設会社の社長になった雅史社長の祖父、山本末男さんは、依頼を受けて陸・海・空のさまざまな動物と出会える、世界に類をみないレジャー施設を建設する。開園わずか1年で元オーナーから経営を引き継ぐことになる。「祖父は丁稚奉公から大工になった、根っからの職人。当時の建設現場では余った釘などはそのままコンクリートに埋めちゃうこともあったらしいのですが、祖父は、『釘一本を粗末にするな』が口癖だったと。小さなことに感謝の気持ちを持ち、アドベンチャーワールドも常にきれいな状態にしていることが大事だと考えていたのだと思います」 

山本社長

 雅史社長は小学生のころ、パークに赴いてはイルカやシャチのスケッチをしていた。「イルカやシャチって、すごいスピードで反り返ったり、ジャンプしたりするんですよね。そこに惹きつけられて。いつも描いているので、そのうちフリーハンドで描けるようになりました」。日常では見ることのない存在が目の前で躍動する……生きものに対する畏敬の念が、雅史少年の創作欲を駆り立てたのかもしれない。 

山本社長(左)と高田ほのか

 今、動物園や水族館は、その存在意義を問われている。現代、特に都会はペット以外の動物と会う機会が少なくなっている。そういう環境で育つと、どうしても人間中心の思考になってしまう。アドベンチャーワールドは、〝いのちを見つめ問い続ける いのちの美しさに気づく場所〟を理念に掲げている。「いのちの美しさって色々あると思うんです。愛情表現している動物同士や、逆に喧嘩しているシーンをみて美しいと感じる人もいるかもしれない。ライオンが鹿を食べて、死体になっていくシーンに美を見ることや、ペンギンたちがコロニーを築いているシーン……人によって、ほんとうに千差万別。パークには、さまざまな生きものがいます。一人ひとりの感性で、生きもののいのちの美しさに気づいてほしいですね」。

 アドベンチャーワールドは今後、単なるエンターテインメント施設ではなく、エデュケーション(教育)を掛け合わた、楽しみながら学べる〝エデュテイメントパーク〟を目指す。「日本は、自己肯定感の低い子どもが多い。パークが楽しい場所、行きたい場所であり続けることが大前提ですが、動物たちの、そして自分自身の「いのち」と向き合う場所でもありたい。そして、瞬間の楽しさだけではない未来のSmile(=しあわせ)を創造していきたいですね」 

 5月、アドベンチャーワールドを訪れた。イルカのライブを見終えたあと、会場の大型ビジョンにこんな言葉が上がってきた。〝海の生きものたちがプラスチックをごはんと間違えて食べてしまうことがあります。使い捨てプラスチックを控えよう。ゴミの分別を行おう〟……他者を思いやり、釘一本、見えないところまで美しくする。それが、自分の幸せとなる。アドベンチャーワールドには、思いやりと素直さを大切に、前向きに進む精神が受け継がれているのだ。 

 「私は祖父、父から本当に大切なことは受け継ぎ、それを未来に繋いでいきたい。それ以外は時代の変化、価値観の変化とともに全てを変えていく。最終的には、子どもたちが自身の命について考え、その美しさに気づく場所にしたい。そのためにも、100年後の子どもたちのために残す価値があるパークにしていきます」。雅史社長の声が初夏の風に乗り、心地よく響いた。

【プロフィル】歌人 高田ほのか 大阪出身、在住 短歌教室ひつじ主宰。関西学院大学文学部卒。未来短歌会所属 テレビ大阪放送審議会委員。「さかい利晶の杜」に与謝野晶子のことを詠んだ短歌パネル展示。小学生のころ少女マンガのモノローグに惹かれ、短歌の創作を開始。短歌の世界をわかりやすく楽しく伝えることをモットーに、短歌教室、講演、執筆活動を行う。著書に『ライナスの毛布』(書肆侃侃房)、『ライナスの毛布』増補新装版(書肆侃侃房)、『100首の短歌で発見!天神橋筋の店 ええとこここやで』、『基礎からわかるはじめての短歌』(メイツ出版)  。連載「ゆらぐあなたと私のための短歌」(大塚製薬「エクエル(EQUELLE)」)