4月から医師の「働き方改革」 〝病院難民〟続出の心配も?

過重労働で疲弊する医師(写真はイメージ)
過重労働で疲弊する医師(写真はイメージ)

 長時間労働が常態化している医師の世界に4月から「働き方改革」が施行される。
 医師の労働環境が改善されるのは医師の過労死を防ぎ、医療ミスを減らす意味でも国民にとっても歓迎すべき改革だ。ただ、慢性的な医師不足の中、労働時間を減らせば、入院拒否や診療時間の短縮など患者への影響が危ぐされている。

上限1860時間の〝抜け穴〟 主治医制の継続、崩壊も

 「働き方改革」関連法が2019年度から施行され、一般労働者には「時間外労働時間の上限(年720時間)」が施行されている。医師に関しては「すぐに導入するのは現実的でない」と適用が5年間猶予されてきた。
 医師の過重労働は広く国民の間にも知れ渡っている。外来診療では医師不足から「1時間待ちの3分診療」とはよく言われてきたセリフだ。

若手医師の過労自殺

 医者の世界は年功序列社会だ。そのため、若手医師は「当直月8回」のような過酷な勤務体制を強要されやすい。実際に22年、神戸市の甲南医療センターで働いていた3年目の医師(26)の自殺が過労自殺と労災認定された。労基署が認定した亡くなる直前1カ月の残業時間は200時間超。100日連続勤務に対し、この医師が申告できた時間外労働はわずか7時間だった。
 医師の世界では確かにスキルアップを図るための自己研さんは必要だが、若手勤務医からは「人件費を節約する魔法の言葉として自己研さんの言葉が当たり前に使われている」との声も聞かれる。

病院とどう付き合えば

 今回の改革では残業時間の上限は〝過労死ライン〟の年間960時間となっている。ところが、大阪市内で働く勤務医は「そもそも医師の数が足りないので現実には厳しい」と本音を漏らす。このため、厚労省も35年度末を期限に「地域の医療提供体制を確保するため」「技能の習得・向上を集中的に行わせるため」などの条件付きで上限を年間1860時間までできる仕組みを設けている。

■4月から適用される医師の時間外労働の上限規制

一般の勤務医地域医療に携わる勤務医など
年の上限時間960時間1,860時間 ※2035年度末を目標に終了
休憩時間の確保努力義務義務

 医療現場の「長時間労働軽減」を実現するには、「医師を増やす」「仕事を減らす」「効率化」が必要だが、「医師に集中している業務の一部を看護師などに移したり、共同実施したりする医療体制作りを行っているが、遅れている」(総合病院の院長)のが現実だ。
 今後、徐々に医師の働き方が改革されることで、患者にも一定程度の影響が出ることは避けられない。例えば、「入院制限」や「外来診療時間の短縮」などのケースも当然、考えられる。
 全国でも救急車の要請が多い、大阪市ではこれまでも救急車の適正利用を呼びかけてきた。入院できる病床数や救急車には物理的な限りがあるためだ。

懸命に働く医療従事者
懸命に働く医療従事者

〝コンビニ受診〟を控える

 患者が「治療してほしい」と病院に駆けつけるのは当然だ。一方で稼働できる医師数も限られている。今後は救急外来を自己都合で受診する〝コンビニ受診〟を控え、基本的には時間内に受診するのが当たり前となってくるだろう。さらに、働き方改革がすすめば、主治医制は維持できず、「複数の医師が日替わりで対応」のような病院も増える。
 当然、患者も当惑するかもしれないが、休息を十分にとり医療ミスを減らせば患者にとってもメリットとなる。