在阪民放局カンテレで弁護士資格を持つ現役ディレクターがジリジリと真実を追い詰めていく一風変わった番組、ザ・ドキュメント「逆転裁判官の真意」が11月24日(金)深夜1時25分放送される。
主人公は、退官直前に逆転無罪を連発したことで週刊誌に取り上げられた福崎伸一郎・元大阪高裁判事(71)。高裁裁判長の1年半の間に一審の有罪を35件破棄し、うち7件に逆転無罪を下している。彼に興味を持った上田大輔ディレクター(45)は、2017年の退官後に2度に渡り〝取材依頼〟の手紙を送ったが、返事さえもらえていなかった。
上田ディレクターは、30歳目前に司法試験に合格、弁護士資格を取ったがカンテレに法務担当の一般社員として入社。コンプライアンスや著作権などに関する問題を主に手がけてきた。7年前に報道記者に転じ、ドキュメンタリーは今回が5作目。法曹界の取材はいわば自身が幼い頃から抱いていたさまざまなジレンマとの戦いでもある。
まず、彼自身が07年に見てショックを受けたという痴漢えん罪を扱った映画「それでもボクはやってない」の周防正行監督(67)を取材。日本の司法体制が「着実に有罪になる事件のみ起訴され、裁判員裁判でも99%以上が有罪になる」という事実に肉薄。弁護士の視点から、福崎裁判長の過去の判決内容を丁寧に読み解き、関係した先輩後輩の判事や弁護士らに丁寧に周辺取材を重ね、疑問をぶつけていく。法律家同士の丁々発止のやり取りは、まるでサスペンス映画を見るような迫力で迫ってくる。
上田ディレクターは「福崎さんが退官された6年前からずっと気になって取材に機会をうかがっていた。関連する判決文はすべて目を通して分析しました。関係者に面談取材するには最低限、判決内容は全て理解しておかないと話しにならないですから」と、通常の司法担当記者では考えられないほどの専門知識をフルに生かした手法でジリジリと真実に迫っていく。
果たして福崎判事は上田ディレクターの取材に応じるのか? 仮に応じてくれたとしても、判事経験者が退官後に過去の判決について言及する可能性は極めて低い。題名にある通り〝1人の判事の真意〟に行き着くことはできるのだろうか?
司法担当記者経験がある筆者が見ても全編緊張感みなぎる内容。上田ディレクターは「たとえ微罪でもえん罪は決してあってはならない。逆転無罪が意外に見られて目立ってしまうのは〝刑事裁判としてホントにいいことなんですか?〟という気持ち」と話している。
(畑山博史)