日本の企業の大半を占める中小企業で、デジタル化の遅れが利益を圧迫するケースが増している。人手不足や賃上げ圧力、原材料費の高騰、取引先から求められるセキュリティ対策。現場は日々の業務に追われていることから、山積する課題の何から手を付ければよいのかさえ見えず、放置されているケースも多々ある。
こうした状況をサポートしようと、中小企業の経営課題に伴走する取り組みが広がっている。地方銀行や信用金庫が従来の融資中心から、ITツールの選定やビジネスマッチングといった「本業支援」へと舵を切る動きが活発化。全国の商工会議所でも地域のデジタル推進窓口として経営指導を強化し、外部の専門家を時間単位でシェアする民間サービスも増えてきた。

経営サポートを行う民間企業でもユニークな取り組みが進む。AI(人工知能)やさまざまなデジタル技術で中小企業や小規模事業者を支援するフォーバルグループのビー・ビー・コミュニケーションズ(東京・渋谷、以下BBC)は、「企業ドクター」という新たな産業を協力企業と共につくる取り組みを全国で展開している。年に1度、「お客様への利益貢献自慢大会」を開き、企業ドクターを通じて経営改善した実例を発表し合っている。
大阪では今年2月下旬、西梅田のブリーゼタワーで大会が開かれ、債務超過に陥っていた奈良市の板金塗装会社を企業ドクターとして経営改善に導いたフォーバルアスカ(旧奈良事務機)=奈良市北之庄町、赤羽聡社長=が大賞に選ばれた。
ホワイトボードから始まった黒字化
同社が支援した板金塗装会社の社長は日頃から「従業員の給料を上げたい」と考えていたが、現実にはどんぶり勘定の経営が続き、赤字から抜け出せない状況にあった。
このため、最初に提案したのはホワイトボードに全ての案件の納期を書き出し、社員全員に仕事の状況を “見える化”することだった。
誰がどの案件を、いつまでに仕上げるのか。受注状況や納期を整理し、当たり前の管理を徹底しはじめた結果、1年目で黒字化を達成。
2年目には社長に集中していた業務の見直しに着手。カレンダーをクラウド上で共有したり、AIソフトを導入して見積もり作成を自動化したりして、社長の業務時間を月間で約50時間削減。空いた時間で新たにキャンパー向けの特殊塗装など高収益の事業に取り組み、2年半で2400万円の売上増につなげた。
大会を主催するBBCの満吉順一社長は「まずは現場の業務を整理してみんなで共有できるようにすることが経営改善の出発点。見える化によって着手するべき項目が見えてくる。ただし、IT化すればすぐに利益が出るという単純なものではない。業務改善の専門スキルを持つ企業ドクターが一緒になって、泥臭く取り組んでいくことが大事」と伴走の意義を説明する。
課題に気づけない中小企業

満吉社長は多くの中小企業が抱える問題について、「一番は経営者自身が『自社の課題が何なのか』をわかっていないこと」と指摘する。銀行口座の現金の出入りだけを見て、利益をどう生み出すかという具体的な目標数値すら定めていない経営者も珍しくないという。
実際に企業ドクターが受け持つ中小企業の現場では、いまだに電話注文をメモ用紙に書き留めるだけの会社があったり、有給休暇の管理を手書きでカレンダーに記入して済ませているケースがあったりするという。「こうしたやり方だと、長年勤めた経理社員が辞めた途端、業務がストップすることも少なくない」と話す。
また、大企業がサイバー攻撃への対策を強化する中、セキュリティ対策が手薄な下請け企業が狙われるケースも増えている。IT化の遅れは単なる効率化の問題にとどまらず、企業の信用や取引継続にも関わる課題になってきた。
同業他社と比べて初めて見えること
フォーバルグループと協力企業に在籍する企業ドクターは現在、全国で2500人。支援先は5万社以上に上る。いずれも同社が提供する経営支援ツール「きづなPARK」をもとに経営改善を行なっているため、決算書をAIで分析すれば蓄積された約5万社と比較することもできる。
満吉社長は「同業他社や同規模企業と比べられるから、自社の立ち位置が把握しやすくなる」という。
例えば、同規模の従業員を抱える同業他社と比べ、「うちの会社はこんなに売掛金の回収が遅れているのか」「手書きで勤怠管理をやっている企業はあまりないのか」と気づかれる経営者もいるという。
賃上げの前に必要な利益体質
人材不足に悩む中小企業にとって、賃上げは避けて通れない課題だが、十分な利益が出ていないのに人件費を上げれば、経営を圧迫しかねない。
満吉社長は「日本の99.7%は中小企業。ここが元気にならないと、日本全体は元気にならない。まずはデジタルの力で無駄を省いて利益を増やし、会社に資金を残せる体質を作ることが先決」と話す。
利益が出ないから賃上げができない。賃上げができないから人が集まらない。人が集まらないから、さらに現場が疲弊する。
満吉社長は自慢大会で大賞に輝いた奈良事務機の事例をもとに「中小企業がこうした負のスパイラルから抜け出す最初の一手が見える化だ」と指摘した上で、「日々の業務に追われる中小企業の経営改善には泥臭く伴走していく企業ドクターの存在が不可欠。中小企業を元気にすることが、日本経済を強くすると確信している」と話している。
2月下旬に開かれた自慢大会の上位結果は次の通り。①フォーバルアスカ、②理研産業=広島市、③フォーキャスト=大阪市、④アルファコミュニケーションズ=福岡市、⑤Meisin=千葉市
