大阪・関西万博で国内外から注目を集めた日本観光が、次の段階に入ろうとしている。2030年の大阪IRの開業を控え、日本観光や宿泊、飲食、エンターテインメントなど幅広い産業を巻き込んだ成長が期待される一方、その現場を動かし、日本の地域の魅力を事業として形にできる人材は十分とはいえない。こうした中、観光産業の未来を担う若者を育てようとする民間発の取り組みに、大阪観光局が共鳴。タッグを組んで支援に乗り出した。(佛崎一成)

「観光は人々が交流し、互いの違いを理解し尊重し合う平和産業だ。この価値ある産業を次世代につながなければならない」。元観光庁長官で、大阪観光局の溝畑宏理事長が、こう切り出した。
大阪観光局で6月24日に開かれた記者会見で、次世代の観光リーダーを育てる実践型プログラム「KLP塾」の概要が発表された。8月に開校する同塾は、KLP合同会社が主体となって運営。大阪観光局は支援する立場から、塾長は溝畑理事長が務める。
KLPは「観光・リーダーシップ・プラットフォーム」の略。観光を単なる旅行や宿泊の産業ではなく、地域の文化や食、歴史、自然、エンターテインメントを結びつける戦略的総合産業と捉え、地域課題の解決や新たな価値創出を担う若者の育成を目指していく。
万博後の大阪に必要なのは、一過性のにぎわいを地域に利益が循環する仕組みに変える人材で、溝畑理事長は「明るい未来を共につくる若者の挑戦を期待している」と呼びかけた。
講義2割、実践8割
KLP代表の島田大輝さんは、理念に「若者の力で、世界に誇るナンバーワン、オンリーワンの観光立国へ」を掲げ、「観光で起業する人材だけでなく、地域や企業の中で早期に価値を発揮し、将来的には日本や世界を動かすリーダーとなる人材を育てたい」と意気込む。
同塾は講義が2割で、実践が8割。受講生たちは座学で知識を得るだけでなく、チームで企画を立てて実際の現場に入り、成果を出す実践形式のスタイル。ゼミでは、チームで1000万円規模の価値創出を目指すなどの数値目標を設け、通常の研修とは一線を画す内容となっている。
同塾の支援に携わる大阪観光局の田中嘉一統括官は「地域の課題を見つけ、企画し、関係者を巻き込み、社会へ届ける。その過程を通じて、机上の観光論では身に付きにくい実行力を磨いていく」と説明する。

KLP副代表の西岡貴史さんによると、「(塾の)講師陣についても学生の声を重視した」という。大阪府の吉村洋文知事と対話する機会もつくると言い、「大阪の政策や街をどう作ってきたのかを聞きたいと学生から強いオファーがあった」と明かし、若者が観光やまちづくりを自分ごととして捉える機会にしたい考えを示した。
学生の声を反映 若者が発信役に
若い世代による発信も始まっている。同塾について、KLPアンバサダーを務める田中葵さん(関西学院大)は「IR開業を控え、変革が進む大阪を舞台に、観光・地域・ビジネス・メディア・エンターテインメントなど、さまざまな分野の第一線で活躍する人たちから学べる実践型のプログラム」と紹介する。
同じくアンバサダーの一条美輝さん(京都大)も「元観光庁長官の溝畑理事長と挑む、観光・地域・ビジネスの実践型リーダー育成プログラム」と発信し、学生世代へ参加を呼びかけている。
プログラムは8月〜12月までの全10回で、うち3回はフィールドワークを予定。会場は大阪市中央区南船場の大阪観光局や、グラングリーン大阪北館の「ブルーミング・キャンプ by さくらインターネット」、東京大本郷キャンパスなど。対象は地域創生、起業、IR、観光・ホスピタリティ分野に関心を持つ若者で、定員は大阪50人、東京20人。参加費は1回3000円(税別)。

国内の観光業の有効求人倍率は、全産業平均の約2〜3倍と不足しており、特に宿泊業では4倍を超えるなど深刻な人手不足の状況にある。世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)も、35年に観光・旅行業界で4300万人超の人材が不足する恐れがあると発表している。
こうした逆境の中、「観光はホテルや旅行会社だけの仕事ではない。食、交通、文化、スポーツ、エンターテインメント、IT、教育、まちづくりまでを巻き込む総合産業」と魅力を再定義する溝畑理事長。KLP塾の挑戦は、単に観光人材を育てるだけでなく、若者にとって観光を「選ばれる仕事」へと変える一歩となるかもしれない。民間発の志に大阪観光局がどう伴走し、観光産業全体へ広げていけるかも注目される。
