建設業界で長く続く多重下請け構造は、職人の賃金が上がりにくい一因とされ、品質管理や責任の所在が見えにくくなるとの指摘もある。この業界課題を元職人の視点から変えようとする経営者が大阪にいる。クリニック専門の施工会社「ラピネス」(大阪市西区立売堀)の吉田弥琴社長だ。

建設業界、転換点に
建設業界はいま、大きな転換点に立っている。資材高騰や職人不足、働き方改革への対応。2024年4月からは建設業にも時間外労働の上限規制が設けられ、これまでのような長時間労働で現場を回すのが難しくなった。国土交通省も建設業の担い手不足を課題に挙げており、若い職人をどう育て、現場に定着させるかが業界全体の課題となっている。
こうした問題の背景の一つに、建設業界に根強く残る多重下請け構造がある。仕事を受けた会社から下請け、孫請けへと流れる過程で、必要性の乏しい中間コストが重なれば工事費は膨らみやすい。一方で、実際に現場で手を動かす職人に届く利益は薄くなる。施主にとっても適正価格が見えにくく、責任の所在が曖昧になりやすいため品質管理も難しくなる。
吉田社長は「職人に適正な対価が残る仕組みにしなければ、担い手はますます減ってしまう。職人を育成する余力も奪われ、結果として現場の技術が劣化していく」と警鐘を鳴らす。
職人時代の違和感が原点
吉田社長がここまで問題意識を持つ理由は、自身も16歳からクロス貼りなどの内装の職人として働いていたからだ。
「現場でどれだけ良い仕事をしても、利益や評価が集まるのは元請けや上流の会社ばかりだった」と振り返り、「職人が誇りを持って働ける業界にしなければいけない」と2020年にラピネスを起業した。

当初は総合建築業として、住宅修繕や店舗工事など幅広く請け負っていた。ポストの取り付け、屋根瓦の修理、住宅の相談まで「来る仕事はできる限り引き受けた」と吉田社長。しかし、案件ごとに必要になる知識や資材が異なり、その都度調べて見積もりを出す日々。「これではノウハウがたまらない」と感じたという。チームで数年取り組んでも思うような手応えをつかめなかった。
転機はコロナ禍 専門特化へ
転機となったのはコロナ禍だ。世の中全体が不安定になる中、医療機関の開業需要が比較的安定していることに目をつけた。工事を重ねれば見積もり、工程管理、医療機器への対応、協力業者への教育など、経験がそのまま会社の力になる。「何でもできる会社」ではなく、「クリニックなら任せられる会社」へ。ピンチの中で選んだ専門特化が現在のラピネスの土台になっている。
クリニック施工には、一般的な内装工事とは違う特殊性がある。例えば、レントゲン室は放射線が外に漏れないよう壁や床、扉、ガラスに鉛を使った防護工事が必要になる。また、医療機器の配置に合わせた配線や、院内の情報をつなぐLAN配管、サーバー室との接続など見えない部分にも細かな知識が求められる。診療を続けながら改修する場合は、医師の診療時間に合わせた工程の調整も欠かせない。

「だからこそ、専門会社として現場を深く理解する意味がある。間に入る会社が増えれば、情報は伝言ゲームのように薄まり判断も遅くなる。クリニック特有の事情を理解した施工会社が前に出ることで工事の透明性を高め、無駄を減らすことができる」と吉田社長は話す。
吉田社長によると、クリニックの開業や改装に伴う内装施工は、歯科医院も含めて関西全体で年間約600件の需要があるという。このうちラピネスは約50件を受注するまでに成長した(2025年末時点)。
街の医療インフラをつくる
大阪では駅前再開発やマンション建設に合わせ、クリニックモールの整備も進む。街に人が増えれば医療機関の需要も生まれる。吉田社長は「クリニック施工はインフラ工事に近い」と話す。病気になった時、通える場所にクリニックがある。その当たり前を施工の現場から支えているという自負がある。

同社が目指すのは、関西ナンバーワンのクリニック施工会社だ。その数値目標としては、現在の年商7億円から15億円を見据える。ただ、吉田社長が語る「一番」は売上規模だけを指していない。
「不要な中間コストを減らし、職人に利益が届く。医師にとっては開業費用の透明性が高まり、患者にとっては安心して通える医療空間が増える。携わる人すべてを幸せにする利益循環を広げることが、業界を変える第一歩になる」と吉田社長は力を込める。 自らが変えたいと願う業界の構造を、まずは自社の商習慣から変えていく。街のクリニックをつくる一つ一つの現場から、建設業界の古い構造に風穴を開けようとしている。
