空室が目立つ古びたビルを再生 人との〝つながり〟を生かし、観光業へ進出

 スカイビルやウェスティンホテル大阪にほど近い、北区大淀中2丁目にガラス張りの外観が特徴的な小川ビルがある。見た目はよくあるオフィスビルだが中にはシェアオフィス、写真スタジオ、大きいサイズ専門のメンズアパレルショップ、マッチョ男性向けのアンダーウェアショップなど個性豊かなテナントが入居している。ビルの仕掛け人・オルガワークスの細川裕之専務に話を聞いた。(取材・森陽一)

12万円分のプロモーション

 今からさかのぼること10年前。細川さんがデザイナーとして独立を機に事務所を探していたところ、元々知り合いだった同ビルオーナーの小川拓史さんから「ビルをリノベしたから見に来たら?」と声をかけられた。その当時のビルは6割が空きテナントになっており、「定価15万円の部屋だけどどうしても細川に来てほしかったから3万円で貸しました」(小川さん)と破格の条件で入居が決定。「ディスカウントしてもらった12万円分のプロモーションをしてビルの入居者を増やそう」―。細川さんの挑戦が始まった瞬間だった。

大盛況のビルマルシェ

 まず細川さんが考えたのが「ビルで面白いことをする」。細川さんの部屋で染め物のワークショップを開催したところ大好評。「『これはいける』と確信し、翌月にはマルシェを企画していました」と笑う。
 農家による野菜の直売、焼き菓子や軽食・雑貨の販売、楽器を作って演奏するワークショップなど何でもありの「テングマルシェ」がスタート。2カ月に1回の開催ごとに集客とブース出展者も1・5倍ずつ増えていき、最終的には2日間で500人の来場を記録。「自分たちが〝楽しい〟と思うことを追求したら、お客さんも喜んでくれ、人が人を呼ぶ状態になりました。中には片道2時間以上かけてやってくる人も。『立地が悪いから入居者が集まらない』というのは違うんだと実証することができました」と細川さんは胸を張る。

 細川さんの活動は「ビルマルシェでコミュニティー作り」としてメディアに取り上げられ、「マルシェに出展したい」という人だけでなく、「このビルに入居して面白いことをしたい」という人も増えていった。空室が目立っていた築40年のビルは生まれ変わり、現在は個性的なテナントで満室となっている。

小川ビル内で開催される「テングマルシェ」。人が人を呼び、2日間で500人の来場を記録したことも

観光業にチャレンジ

 そんな細川さんがこれから手がけるのが観光業への進出だ。昨年9月には北区で50年以上の歴史がある旅行会社・ハチハチ観光をオルガワークスが引き継ぎ、「ヨリドコ観光」を設立。コロナ禍で倒産の危機にあった会社をM&Aで事業継承した形になる。

 「日本でこれから成長が期待できる産業の一つが観光業。今まで培ってきた食、建築、クリエーティブなどさまざまな業界の人との〝つながり〟を観光というフィルターを通して、生かすことができる。また、大都市と地方を〝つなげる〟ことができるのも魅力です」と話す。

 ハチハチ観光が得意としていた団体貸し切りバス旅行のほか、同じ趣味の人が出会える婚活ツアー、旅行好きな人のお薦めスポットをパッケージにして巡る「わたしツアー」など面白い企画を検討中だという。これからの細川さんの仕掛けにまだまだ目が離せそうにない。

空室が目立つビルを「人とのつながり」で再生したオルガワークスの細川専務
長屋をクリエーターの住宅兼アトリエに改装した「ヨリドコ大正メイキン」も細川さんが手がけた

<取材協力>オルガワークス/大阪市北区大淀中2-1-1 小川ビル4階/電話06(6456)2460