【わかるニュース】米中間選挙後の世界は? 起きなかった〝赤い波〟


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 トランプが陣頭指揮を執り「共和党の大勝利で間違いなし」とも言われた今回の米中間選挙。しかし、共和党のシンボルカラーになぞらえた〝レッド・ビッグ・ウェーブ(赤い大津波)〟は起きなかった。選挙が終わると、2年前に再選に失敗したドナルド・トランプ(76)が大統領選への出馬を宣言した。

 中間選挙は日本に例えれば、衆院総選挙と参院3分の1の同日選で、両院の勢力が同時に動く重大事。さらに落選した前大統領が4年後に再立候補したことは、200年を超える米大統領選史上で4例しかなく、ましてや返り咲いたケースは百年以上前の19世紀末に1度しかない。米国はどこへ向かうのか? 世界に最も影響力のある米政界の明日を占ってみたい。

トランプ劇場再び 米国の「終わりの始まり」加速か

先手必勝のトランプ流

 大統領選の2年後にある中間選挙では、常に野党が有利だった。現職の大統領に対する怒りが原動力になるからだ。直近を振り返ってもオバマ政権の2010年には63議席を減らし、18年のトランプ政権時にも40議席減と負け続けている。そう考えると、今回のバイデン政権の16前後(未確定を含む)の減は上出来という見方がある。

 共和党を大勝利へ導けなかったことから、党内の反勢力から「トランプは無党派層に人気がない」「彼の時代は終わった」と批判が相次いだが、トランプ自身は選挙明けの15日、2年後の大統領選への出馬を表明し、健在さをアピールした。

 出馬表明でトランプは「下院を奪還した」と強調。自身がお墨付きを出した候補が「いかに数多く当選したか」を述べ、注目選挙区での相次ぐ落選には「不正があった、投票をやり直せ」と繰り返した。ちなみに米国の大学の調査によると、全国民の29%、共和党支持者の60%以上がバイデン大統領は20年の大統領選で不正に当選したと捉えている。

 トランプは出馬について「アメリカを再び偉大で輝かしい国にする」と前置きし、得意の「アメリカズ・ファースト(米国が第一)」を宣言。バイデン政権のインフレや移民対策を激しくののしり、ウクライナ問題についてもプーチン大統領との蜜月を背景に「私が大統領だったら決して起きなかった」と断言した。


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共和党内に反省の色

 周囲の制止を聞かず、トランプがこの時期に出馬表明したのは、彼自身走り続けるしかないからと見る。連邦議会襲撃騒動、国家機密文書自宅保管などで、刑事訴追の危険性がぬぐえぬまま活動するには「強さ」を前面に押し出して強行突破するしかない。大統領復帰を期待して金と人は自然に集まってくるが、引退した途端に全て砂上の楼閣のように消えてしまうことは彼自身が一番良く承知しているのではないか。

 出馬表明の傍らには、盟友だったはずの共和党幹部の姿はなく、娘イヴァンカの顔も見えなかった。

 大統領時代に〝トランプ党〟とやゆされた共和党は、もともとリンカーン大統領を生んだ伝統的保守の色合いが強い集まり。党内の候補者選考に伴う予備選ではトランプのお墨付きがないと選ばれないケースも多い。つまり党内はトランプが主流だが、2大政党の一騎打ちになると民主党に競り負け続けているため「トランプの1枚看板では勝てない」との現実が透けて見えてくる。これまで党内選考でトランプに遠慮して下を向いていた候補者も、公然と「トランプではもう勝てない」と言い始めた。

ミニ・トランプすでに台頭

 〝賢いトランプ〟とか〝スマートなトランプ〟〝ミニ・トランプ〟と言われる共和党の次期エース候補がフロリダ州のロン・デサンティス知事(44)だ。イェール大からハーバード法科大学院を出て連邦検事や下院議員を務めたエリート。思想的には①人工妊娠中絶はレイプや近親相姦も含め例外なく禁止②同性愛を否定しLGBTQ(性的少数者)の事を小学校で教えるのを禁止③自州への不法移民入国者はバスに詰め込んでニューヨークやボストンなど移民に寛容な東海岸各地へ強制追放-などトランプに劣らない過激さ。イーロン・マスクも彼への支持を表明しており、年齢的にもトランプの息子世代。リベラル派から見れば到底話しにならない存在だが、伝統的保守層からの期待は高まるばかり。地元に豪邸を持つトランプが、彼の事をけなし始めたのも人気に対する危機感の裏返しだ。

 トランプ大統領の下にいたマイク・ペンス前副大統領(63)、マイク・ポンペオ前国務大臣(56)、ニッキー・ヘイリー前国連大使(50)の立場は微妙。ペンスは、大統領落選当日の連邦議会襲撃事件以降はっきりとトランプと決別。上院議長職に対するトランプ大統領からの選挙結果無効決議要求も拒否、バイデン大統領就任式にも出席した。デサンティスが醜聞などで失脚すれば代わって浮かぶ目も残る。ポンペオとヘイリーは目立った動きや人気もなく、復活トランプの副大統領狙いか?


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80歳バイデンの勝機は?

 受けて立つ側の現職、ジョー・バイデン大統領は今月で80歳。すでに史上最高齢の大統領で、もし2年後に立候補するなら文句なく最高齢の当選となる。米大統領は憲法で2期8年しか出来ないから、仮に次期選挙でバイデンVSトランプになれば、高齢者同士が 〝互いに残り1期4年を争う〟という妙な展開だ。

 こうした流れから、仮に共和党がトランプ候補になれば、前回勝った実績からバイデン擁立の可能性が高まる。相手が若いデサンティス候補なら、高齢バイデンは引退に追い込まれるだろう。

 2年前の大統領選で民主党は、16年の大統領候補のヒラリー・クリントン・元国務長官(75)擁立で激しい党内分断があった反省から、「トランプ以外の最大公約数」という視点でオバマ大統領下の副大統領だったバイデンを擁立し政権奪還した。

 当時の暗黙の了解は「高齢バイデンは1期限り」のはずだった。そのため次期大統領候補含みでカマラ・ハリス上院議員(58)を副大統領に据えた。ところが、ハリス副大統領は主担の移民処理問題でミスが続き極めて不人気。「とても大統領候補には無理」とのレッテルが貼られてしまった。彼女にとっての起死回生は、バイデン大統領が何らかのアクシデントで職を離れるケース。副大統領は憲法で自動的に大統領に昇格するからだ。

 では、ほかに民主党の候補者はいるのか? ピート・ブティジェッジ運輸長官(40)。前回大統領選の民主党指名争いで当初最も人気があった人物だが、ハリス副大統領同様にバイデン政権の閣僚になってから目立った実績がない。さらに同性愛者であることを公表しており、伝統的保守派からは支持を得にくい。

 キャビン・ニューカム・カリフォリニア州知事(55)は、銃規制強化と人工中絶権利擁護で伝統的なリベラル派。デサンティス知事を意識して「フロリダが住みにくかったら、カリフォリニアに移住しませんか?」と意見広告を出したりし、革新系中道派としての政治姿勢を強く意識させている。

21世紀の新リーダーは?

 トランプ再登場の是非にかかわらず、今世紀に入って米国の力は徐々に下がってきている。ウクライナ問題への対露制裁を支持しない国も多く、米国の求心力がいかに低下しているかを裏付けている。制裁が引き起こすエネルギー高騰などで、欧州は自らクビを締めている状況にある。専制国側のリーダー・ロシアと中国にとっては好都合だ。

 試金石はウクライナ援助の今後のあり方。米国のウクライナ援助はすでに7兆8000万ドルに上っており、総額の約半分に達する。トランプ政権が誕生すれば、彼とプーチンとの友好関係からウクライナは切り捨てられるだろう。「アメリカに他国を援助する余裕はない」という訳だ。すでに共和党が主導権を握る事になる下院ではそうした動きが出ている。

 トランプの「アメリカズ・ファースト」は一見耳障りは良いが、米国が長年得意としてきた「世界のあらゆる国から 〝人と金〟を受け入れ発展する」という成長ビジネスモデルに逆行した目先の利益だけを追う考え方。中世のスペイン、近世の英国、そして今、米国がゆっくりと世界のリーダーの地位を降りようとしているのだろうか?