「米国の経済的な独立宣言だ。今こそ我々が繁栄する番。何兆ドルもの繁栄を実現し、減税と国家債務の削減を行う。米国を再び偉大にすることができる」─。すべての国に対して一律10%の関税を課すトランプ大統領の「相互関税」という名の 〝アメリカ第一主義〟に世界が大混乱している。誰が見ても理不尽な突然の言いがかりに各国の対応はまちまちだ。日本のように慌てて〝ホワイトハウス詣で〟する国、逆に対抗関税でファイティングポーズを取る中国。あるいはその両方を懐に、様子見のEU(欧州連合、27カ国)などなど。
輸入品に関税をかけることで、米国内の製造業の価格競争力をつけ、雇用を生む。さらには貿易赤字も解消するなどが理由として語られているが、果たして本当だろうか。もしかして別の意図もあるのではないか。トランプ関税の真の狙いをひも解いてみたい。

「対米追従外交」離脱の好機
世界中不幸になる〝アメリカ第一〟NO
消費税代わりに関税!?
今、世界の話題をさらっているトランプ政権の「相互関税」。安い輸入品に対抗するため、関税をかけて他国製品の価格優位性をなくし、米国内の産業を保護。国内の製造業を復活させることで雇用を確保する、さらに貿易赤字も削減するというのが表向きの理由だ。
トランプは「アメリカ国民が損している分を取り返す」と国民にアピールしているが、本来なら一方的な関税は米国も加盟するWTO(自由貿易促進目的の国際貿易機関)違反だし、日本をはじめとするさまざまな国と結んでいる貿易協定(条約、国家間の約束事)に違反している。しかし、「俺様がルール」のトランプ相手では通用しない。
関税対象は185カ国・地域におよび、個々の関税率の算定はいい加減。その率の上下に一喜一憂するより、「全ての国に一律10%」という基礎部分が重要。米国の年間輸入総額は500兆円だから、一律10%なら輸入業者から米政府に50兆円の新たな税収がもたらされる。これは国内GDP(国内総生産)比で2%程度。つまり、輸入品の値段に10%がそのまま価格転嫁されたとしても米国民にとって痛みは少ない。なぜなら、日本での消費税がGDP比4%だが、米国は州税はあっても国の消費税がないからだ。
大統領選でのトランプの公約トップは「減税」だ。次いで今回の「関税」、〝外国人を雇うな〟の「移民排除」、〝掘って掘って掘りまく れ〟の「エネルギー」。しかし、景気回復策は「減税」しかなく、インフレ抑制策は「エネルギー」だけ。赤字の国家予算には「減税」するための原資がないから、ちゃっかり関税で捻出しようとしている思惑が透ける。
全て「中間選挙」対策
国ごとでバラバラな関税率の上積みは単なる脅し。相手国が慌てふためき、ホワイトハウス前に交渉の列をなさせることが真の狙いだ。これは、いじめっ子が最初、「千円出せ!」と脅した後、作り笑顔で「やっぱかわいそうやから、百円でエェわ」と言って相手を得した気分にさせるのと似ている。額を引き下げても所詮〝恐喝は恐喝〟で本質は変わらない。
トランプとしては一律関税を打ち出すことで、中国が猛反発することも、日本が最初に駆けつけることも、〝女性版トランプ〟と呼ばれるイタリアのメローニ首相が真っ先に訪れることも、全て織り込み済みだっただろう。
中国とはさっそく報復関税の応酬で、互いに100%を超える関税率に。「品物の値段が倍以上」になる法外なレベルで、互いに「お前の国の品は一切買わない」と宣言したようなもの。様子見だった南半球途上国に「トランプは本気だ…」と震え上がらせ効果があった。
日本は極東アジアの対露、対中の拠点国で、軍事への依存度からも離反しないことが分かっているから着実に要求をのませ、残るアジア諸国に「モデルケース」としてさらす絶好の存在だ。そしてイタリアはEU主要国の足並みを乱してくれ、米国に従う手下と見ている。
4月9日に「関税」上乗せ分のみを突然、90日間停止したのも〝周到なはかりごと〟が渦巻く。「単なる〝朝令暮改〟では?」と見るのは早計で、90日後は7月8日。その前週末となる4日は米国の独立記念日。つまり、この日に合わせて「米国の側に付くか、付かないか」を迫り、米国民に盛大にアピールする目論見だ。また、3カ月の猶予期間で株の乱高下もある程度収まるし、さまざまな輸入品の価格変動も緩やかに移行できる。コロナ禍で各国が目覚めた「経済安全保障」の視点から「有事に半導体や医薬品、ワクチンなどを国内調達できないと国民の安全安心は守れない」と意識付けるメリットも。
米国の中間選挙(上院議員の3分の1、下院議員全員。任期満了の州知事)が来年11月に迫っている。現在、連邦議会上下院はトランプ与党の共和党が過半数以上を制する。しかし、仮に野党・民主党に負けたら後半2年の任期はほぼ死に体になってしまう。共和党の伝統的な中間派議員はなだれを打って〝トランプ離れ〟しかねない。
米国の将来は真っ暗
議院内閣制の日本や英国と異なり、直接選挙の米国大統領はあくまで行政府の長。立法府の議会は日本のような政府提出議案や党議拘束もない独立した存在。議案はすべて議員立法で、大統領は独自で予算執行を命ずる権限もない。1期目でトランプが築こうとしたメキシコ国境の壁は議会で予算を削られ完成しなかった。減税も議会承認が必要だが、関税は大統領権限でできるから格好良く大統領令にサインするパフォーマンスで国民に「やってます」と強くアピールしている。
トランプの本質は、①攻撃は最大の防御、常に攻め続ける②自身の間違いは絶対認めない。だから人の話は聞かない③勝てば官軍。どんな手を使っても交渉(ディール)に勝つ、の3原則と見る。この性格が第二次大戦後、米国が〝世界のリーダー〟として多くの国から尊敬されてきた価値観を急速に失わせた。
①【自由貿易から保護貿易へ】国内産業の保護育成が目的だが、机上の空論。10年単位で収支を考える企業側が賃金の高い米国内に新たに製造拠点を早急に移すのは困難。既に米国内拠点がある海外企業が増強を図る程度。
②【開かれた国際協調から排他的一国主義へ】日本人は民主党が強い東海岸や西海岸をよく知るが、保守的な共和党支持層が多い内陸部は想像できないほど貧富差とインフレが拡大。トランプは「金持ちで優秀な外国人歓迎」とのご都合主義だが、逆に優秀な外国人材の国外流出を招いている。
③【〝世界の警察〟を放棄】イラクやアフガンの駐留泥沼化に懲り、ウクライナ侵攻やガザ無差別攻撃の調停に消極的となり、優秀な軍幹部を次々解任。パナマ運河やグリーンランドなど金が儲かりそうな場所にだけ注目。
米国の将来像は、思想的に右派左派で分断された極端な二重社会。かつて「南北戦争」を引き起こした国だけに内乱危機も増大。ゆっくりと盟主の座を退場するはずが、急速に坂道を転がり落ちる危険性が叫ばれ始めた。
日本は態度どうする?
米側の日本に対する主な要求は3点。
①貿易赤字(2024年額9兆54億円)解消へ。牛肉、米、ジャガイモ、小麦などをもっと買え。米国の対中農産物輸出減の肩代わりも。
②米国車(年間約1500億円)の輸入促進。非関税障壁(電気自動車充電システムをテスラなど米国製に合わせる、日本の自動車安全基準を米国並みに引き下げ)の撤廃。
③米軍の駐留経費(年間約2110億円)負担増。既に「思いやり予算」で86%負担。米側要求は100%でなく、もっと多額。つまり経費だけでなく「軍人給与も出せ」と。
①はすぐにでも実現可能②は一般消費者には事実上困難。石破総理の肝入りで行政機関公用車としての購入や、地域でPRフェア開催程度③は憲法違反で無理。安倍総理時代のF35戦闘機(1機約173億円)105機購入などの様に装備充実で代替。他に為替の円高ドル安誘導やアメリカ国債追加購入、アラスカ天然ガス開発費負担などを持ち出される可能性あり。
こうした状況の中で、日本が取るべき道は〝面従腹背〟だと見る。表向きには、政府が「少数与党で不安定」「参院選が近いから」とのらりくらり回答を引き延ばしておく。しかし、その裏では、トランプが1期目に脱退したTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の一員として、ASEAN(東南アジア諸国連合)や欧州、韓国、台湾などと連携し、対米共同政策を立てることだ。
対米追従外交を戦後一貫して推し進めてきたのは政治家以上に官僚だ。だから官僚のアメリカ離れがまず先決。沈み行く泥船に乗り続けることなく、勇気を持って決断することだ。