万博で蜜月演出も 日米関税交渉、真の熱量は?

 大阪・関西万博会場でアメリカのナショナルデーイベントが19日に開催された。日本を代表して赤澤亮正経済再生担当大臣が、そしてアメリカを代表してスコット・ベッセント財務長官が参加し、日米の65年に渡る相互扶助の関係を祝福し、今後の協力関係にも期待を寄せる内容のスピーチが両国からなされた。

 幾つか気になった点を挙げてみたい。

 公式には、両者は関税についての話しはしていない、というコメントを発表しているが、式典の開始が30分押しで遅れたことや、式典の後、日本館、そしてアメリカ館を一緒に巡って、並んで記念撮影を行っていることなどを考えるとワシントンDCで膝を突き合わせて会議をした時よりも長い時間を一緒に過ごしていたのではないか思えるほどの時間を一緒に過ごしている。言葉を交わさずとも、お互いに何かしらのシグナルはキャッチしているのではないか。

19日、大阪・関西万博の米国館前のフォトセッションで握手するベッセント米財務長官と赤澤経済再生相

 また、その間、その場にはいない事務方が膝を突きわせて何かしらの協議をしていても不思議ではないだろう。そういう意味では何かしらの進展は合ったと考えるのが自然かもしれない。

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「Together」強調の米財務長官

 ベッセント財務長官は、スピーチの中で「Together」という言葉を4度、続けて使用した。力を込めた言い方や、間の取り方など、よくあるスピーチのテクニックを活用していて、このTogetherには気持ちが込められていると感じた。

 また、同じように「Share」という言葉も3度、続けて使用した。

 ここで言わんとしていることを簡単にまとめると、「同じ価値観を共有し、共に未来に向けて歩もう」ということで、日米が歩調を合わせて対等な関係で世界をリードして発展していこうとポジティブなものだ。

 しかし、現場はどうかというと、直面する関税の課題では同じ価値観を共有しているとは言い難く、対等ではない力関係のもと、〝America First〟というメッセージを押し付けているのだから、先の言葉を深読みすると、「こちらの価値観に合わせろ」とも取れないことはない。「そうすれば私もあなたも明るい未来が待っている」というわけだ。

赤澤大臣の〝関税ジョーク〟空振り?

 赤澤大臣は、自分のスピーチの冒頭で、自分は経済再生担当大臣だと自己紹介した後に、「しかし今は〝関税〟担当大臣とも呼ばれています」とジョークを挟んだ。もっとウケると思ったが、観客からはそれほど反応は見られなかった。特に出席者の半分以上を占めるアメリカ人の反応はイマイチ。

 ここから透けてみえるのは、ベッセント財務長官の日本人の間での認知度に比べて、赤澤大臣のアメリカ人の間での認知度がそれほど高くないのではないか、ということ。

 もし、アメリカ国内でも、彼がベッセント財務長官と丁々発止の交渉をしているタフネゴシエーターだと認識されていれば、きっと会場には笑いが起こったはず。アメリカ人相手のスピーチとしては、ジョークの使い方は間違えていなかったが、会場のアメリカ人には何が面白いのか伝わらなかったのかもしれない。

日米のメディアで温度差にじむ万博舞台裏

 それとも関連してくるが、ナショナルデーの式典でも、フォトセッションでも日本のメディアは東京からの参加も含め多数が集まっていた。しかし、アメリカ側を見ると、4大ネットワークやCNN、New York TimesやWashington Postなどの主要メディアはどこも来ておらず、米系では唯一ロイターの東京支局が撮影チームを送り込んできていた。パビリオンの海外メディア担当に確認したところ、アメリカメディアは、ロイターやパビリオンの公式映像や発表を使用するので問題ないとの返答。国内でもベッセント財務長官がこのタイミングで日本に来ていることはニュースになっている、という説明だった。

 しかし、翌日20日の段階で、ネットで見られる映像ニュースは式典でのスピーチをそのまま流しているものしかみられず、18日に石破首相と東京で会ったというニュースよりも数は少なく、とても大きなニュースになっているとは感じない。

 しかもブルームバーグが配信していた映像は、音声の品質が悪く、コメント欄で「これはスマホで撮影したものよりひどい」と酷評されていた。これが公式映像として提供されたものなので仕方なく使ったのだろうが、これを配信してしまうところに、このニュースの重要性の度合いを感じた。

 以上のように、アメリカが、日本が期待しているような最優先で配慮を持って交渉してくれるかどうか、というと、とてもそうとは思えない。 果たして8月1日の関税率はどうなっているのだろうか。
(岡野健将)