
「勉強をする」といえば、机の上でひたすらテキストを解いたり、みんなで机に座って先生の話を聞いたり、というイメージが根強い。しかし現代では、AIやインターネットの普及や問題の複雑化といった社会課題に対応するために、知識をたくわえるだけでなく、知識を〝どう使うか〟が必要となっている。こうした時代を踏まえ、「思考力」や「課題解決力」を育む「探究学習」が教育の新たな潮流となっている。
学びを広げる4つのアプローチ
文部科学省は探究学習を「変化の激しい社会に対応して、横断的・総合的な学習を通じ、課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成する学習」と定義している。
その取り組み方は学校によってさまざまだが、大きく次の4つの特徴のいずれか、もしくは複数に当てはまる。
まず、ICT(情報通信技術)やEdTechの活用。
プログラミングやマインクラフトなどを教材に使い、統計データを分析して課題を探るなど、デジタル技術を手段として「情報をどう扱うか」を学ぶ。大阪高等学校では、データ調査やプレゼン支援の過程にICTを取り入れ、生徒の発信力を養っている。

二つ目は、実験や制作を通じた「ものづくり型探究」だ。
調査・実験だけでなく、アイデアを形にする学びが広がっている。樟蔭中高(樟蔭学園)では「STEAM Lab」やレーザーカッター、3Dプリンタなど、ものづくり機器が整備されている。
三つ目は、地域・企業・大学との連携。
学びの場を学校外へ広げ、社会と結びつける動きが活発だ。桜和高校では府教育庁や大学、小学校と連携し、地域課題の解決をテーマにした公開ワークショップを実施している。

最後は、探究を教育課程として制度化する取り組み。
かつては希望制や特別授業だった探究学習を、選択科目や必修科目として体系的に取り入れる学校が増えている。大阪国際中高では「未来探究コース」を設け、キャリア教育や進路指導と結びつけた継続的なプログラムを展開している。
こうした学校に共通するのは、「探究から発信までの流れ」が整っている点だ。
単に調べて終わるのではなく、問いを立て、調査や実験を経て成果を発表する――この一連のプロセスを重視する。学びを深める過程そのものが、思考力や表現力を鍛える場となっている。
また、生徒の興味や関心を出発点にしているのも大きな特徴だ。
テーマを自分で決めることで主体性が生まれ、探究を通じて「学びたい」「知りたい」という意欲が高まる。探究学習が基礎学力の底上げにもつながると期待されている理由はここにある。

支える側にも探究心が必要
一方で、探究学習を推し進められる人材が少ない、という課題がある。サポート側は学習者の学習テーマやスタイルに合わせられるよう複数の引き出しを持っている必要があり、難易度が高いからだ。
探究学習に携わる人材を育成しようと26年1月から「探究推進機構」という団体を立ち上げ、オルタナティブスクール※「ラーンネット・グローバルスクール」を運営する炭谷俊樹さんは、「『探究』は教材やメソッドよりも、まず子ども一人一人の探究心に火がつくこと、同時に指導する大人側も『主体性』を持って探究できることが重要です」と話す。「勉強させる」ではなく、「同じ熱量で一緒に課題に取り組む」という大人の姿勢が今の教育には必要とされているのかもしれない。
探究学習は一見、「受験」や「学力向上」とは距離があるように思われる。だが実際には、学びへの前向きな姿勢を育み、将来の進路選択や目標意識にもつながっていく。
子どもの進路を考える際には、学校の「探究学習カリキュラム」にもぜひ注目してみてほしい。
※オルタナティブスクール…従来の公立・私立学校とは異なる「新しい学びの選択肢」。法で定められた指導要領や運営体制に縛られず、各校の理念で運営される。子どもの主体性を重んじ、モンテッソーリ教育やシュタイナー教育を取り入れる学校も多い。
