2025年の大阪・関西万博に向け、メタバース(仮想空間)やAI(人工知能)の可能性に注目が集まっている。その先陣を切るのがMetaHeroesの代表、松石和俊さんだ。社会課題に対してテクノロジーを駆使した事業を次々と展開。44年までに「100人のヒーローを創る」という壮大なビジョンを掲げ、社会構造そのものを変える挑戦を続けている。「これからの時代は〝出来杉くん〟を目指す必要はない。〝のび太くん〟でいい」と語る松石さんの視線の先を、阪本晋治が追った。
〝出来杉くん〟でなく〝のび太〟が勝つ下克上時代に

─起業家を目指した経緯は。
出発点は母親を助けたいという思いでした。熊本の母子家庭で育ち、母はトリプルワークで家計を支えていました。子どもながらに「こんなに真面目に働いている人が報われないのはおかしい」と世の中への憤りを強く感じていました。それが〝稼ぐこと〟を意識した原体験だったと思います。
─起業家としての基礎はその頃に?
小学生の頃から「自分で工夫して、何か役に立つことができないか」といつも考えていました。ミニ四駆の大会で得た景品を元に小さな交換会を開いたりしていました。こうした行動の根底には、いつも「身近な人の役に立ちたい」という気持ちが原動力でした。
─現在の事業に取り組んだきっかけは?
19歳の時に読んだ漫画「サンクチュアリ」の影響が大きいです。二人の主人公の目標は「和僑をつくる」。つまり、世界で活躍する日本人を生み出すことでした。その思いに感化され、「44年までに100人のヒーローを創る」という人生計画を立てたんです。ヒーローとは、社会を変える力を持った人たちのこと。政治家や起業家などジャンルを問わず「世の中に影響を与える存在」だと考えています。100の事業が大成功すれば達成できると推論し、まずは逆算して2500の事業を立ち上げる計画を立て、実際に60以上の会社をゼロから育ててきました。
─現在はAI×Web3(メタバース)を軸に展開されている。
特に注力しているのがAI×Web3を活用した社会インフラの再構築です。事業テーマとしては、未来を創る「教育」、命を守る「防災」、日本を魅せる「地方創生」の3つを掲げています。AI×メタバースの活用は、次世代の社会基盤そのものであり、リアルとデジタルを統合しながら人の可能性を最大限に引き出すものだと考えています。
メタバースというとゲームの延長のように捉える人も多いですが、まったく異なります。私にとってメタバースとは、リアルを再定義する空間です。現実社会でいじめに遭っている子が、メタバースの中ではヒーローになれます。外出が難しい高齢者が仮想空間で人とつながり、社会との関係を取り戻すこともできます。これは単なる技術ではなく、日本の教育や働き方そのものを変える可能性を秘めています。
─メタバースは、いわば〝チャンスの再配分〟ということだろうか。
その通りです。これまで評価されなかった人が輝ける場所がメタバースにはあります。現実世界でアニメ「ドラえもん」の〝のび太〟のように不器用で社会に埋もれがちな子が、仮想空間ではスティーブ・ジョブスになれるかもしれない。能力や環境に左右されずに挑戦できる、それがメタバースの最大の魅力です。
社会はなんでもそつなつこなす優等生の〝出来杉くん〟を求めがちですが、これからは〝のび太〟が勝つ時代になると考えています。努力のベクトルを見極め、〝ドラえもん〟となるAIテクノロジーを使いこなせば、どんな子でも世界を変えられます。5年後には、この仕組みの中からスティーブ・ジョブズやイーロン・マスクのような人物を輩出できると確信しています。
─その未来を、具体的にどう広げていこうと考えているか。
今後は、大人たちもメタバースやAIを学び直し、子どもたちに機会を提供する時代にしなければなりません。子どもたちが無料で最先端のテクノロジーを学べる拠点として立ち上げた「ヒーローエッグ」などの教育施設を通じて、無償でテクノロジーを学べる環境を全国に広げていく。子どもたちが最先端のテクノロジーを学べる環境を整えるとともに、大人たちもまた、学び直し(リスキリング)を通じて、子どもたちに学ぶ背中を見せる時代にしていかなければなりません。リスキリングとは、既存のスキルをアップデートしながら、新たなテクノロジーや知識を身につけること。変化の激しい時代に対応するためには、大人もまた“学ぶ側”である必要があります。AIを活用した企業向け研修にも注力しており、これまでに半年間で1万人を超えるAI研修を実施してきました。これは単なるスキル教育ではなく、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させるものであり、日本全体の変革力を底上げする取り組みです。
そしてこの「学びの再構築」は、大人だけで完結するものではありません。子どもたちにも無料でテクノロジー教育を提供することで、未来を担う人材の育成に力を入れています。こうした子どもたちの教育と、大人のリスキリング、そして企業のDX支援を組み合わせた取り組みこそが、私たちが提唱する“次世代HERO創出エコシステム”です。これは単なる教育プログラムではなく、社会全体で学び合い、成長を支え合う循環型の仕組みなのです。
そして、大阪・関西万博では「防災万博」も開催し、子どもたちが自ら学び、提案する場を作る予定です。
防災訓練と聞くと堅苦しく、実際の参加率は低いです。でも、ゲームの中なら話は別。私たちはメタバース上での防災訓練プログラムを開発し、より自然な形で命を守る知識を学べる仕組みづくりを進めています。
「防災万博」では小学生以上の学生による防災ピッチコンテストを実施する予定です。子どもが大人に向けて防災の大切さをプレゼンする、新しい形の防災教育を日本に根付かせたいと考えています。

Meta Heroesの概要
メタバース、AI、web3の技術を活用し社会課題の解決を行うホールディングス企業。主にUEFN(Unreal Editor For Fortnite)を活用した制作事業、 AIを活用した開発、リスキリング を中心とした教育事業を行う。また、メタバースやAIを活用した防災対策や社会課題解決、こどもや大人のDX教育事業を行うことで 教育、医療、防災、環境問題など幅広い分野での社会への貢献を目指すと共に次世代のヒーローの輩出を目指す。
株式会社Meta Heroes
【本社】大阪市北区堂山町1-5 三共梅田ビル8階/【Hero Egg】大阪市浪速区難波中2-10-70 なんばパークス1階【Meta Heroes Guild】大阪市北区太融寺町8-17 プラザ梅田ビル B1階【グループスタッフ数】47人(海外拠点含む)