【短歌に込める経営者の想い⑥】スタジオアリス 牧野俊介社長

(歌人・高田ほのか) 

 「でも、そこを見誤りたくないんです」

 インタビューの途中、牧野俊介社長が力強く伝えてくれた言葉だ。

 牧野社長は440を超える店舗を自らの足で回る、根っからの現場主義だ。「自分の目で基本となる現場を見ておかないと知らない間に変わっていたり、守り育ててきたものが違ったことになっている。でも、報告だけ受けていると、『そうなんかな』と思うじゃないですか。それでだめになっていく会社、裸の王様になってしまった社長を大勢見てきましたから。そこを見誤りたくないんです」

 真剣なまなざしで語りつつ、「スタッフには『じっとして難しいことを考えてくれてたらいいのに』と思われているかもしれませんが」とニヤッ。この難航自在な人品を読み解く鍵はどこにあるのだろう。 

スタジオアリスの牧野社長

 牧野社長は昭和37年(1962年)、二人兄妹の兄(長男)として誕生した。「実家が写真屋で、おやじとおふくろが店を切り盛りしていました。実家の店を継ぐ前提で、「本気でやるんだったら勉強しよう」とスタジオアリスの前身の、写真のDPE(現像・焼き付け・引き伸ばし)ショップである日峰に入ったんです」 

 80年代当時、写真のDPEショップは花形。投資がいらず、ボールペン1本で粗利が5割くらいあるいい商売だったという。しかし、牧野社長が就職してまもなく、写真業界にデジタル化の波が押し寄せる。実家の写真屋も日峰も、日を追うごとに売上が芳しくなくなっていった。日峰は起死回生をかけ、子ども専門の写真館を立ち上げる。

 当時、店長だった牧野社長は、「ここで成功しないと将来はない」という気持ちで、一号店の立ち上げに立候補する。「人生で一番頑張った時期ですね。切羽詰まっていたというか、ハングリー精神があったというか。でも、仕事はおもしろかった」 

 牧野社長は幼いころから両親に、「友達がいつも迎えにきてくれてるんだったら、たまにはお前からいかなあかん」、友達の家に手ぶらで行こうとしたら、「遊びに行かせてもらうんだったら、何か持っていきなさい」と、恩を返すことの大切さを教えられて育ったという。

 スタジオアリスは女性活躍先進企業1位(週刊東洋経済)。従業員約3000人の9割超を女性が占め、管理職の女性比率も88.3%に達する(2024年2月末時点)。育児との両立支援にも力を入れており、短時間勤務制度の利用率は9割に上る。

 「店舗で働く社員は一番の宝です。多くの社員はやりがいを持って働いてくれており、それが会社の強みにもなっています」

 スタッフ一人ひとりをしっかり見つめ、やりがいを持って働けば、それ以上のものを返す。スタジオアリスには、牧野社長が両親から受け継いだ恩に報いる精神が息づいているのだ。 

牧野社長(右)と高田ほのか

 「我々の大切なメッセージに、〝写真は未来の宝もの〟があります。幼い頃のアルバムをめくると、改めて家族の愛情に触れることができるのが写真。近年では幼い頃にスタジオアリスで撮影をされた方が、自身のお子さまを連れて来店されることも増えました。スマホやパソコンなどのハードがなくてもすぐに見られるのが写真プリントのよさ。これからも一家族ごとに愛を持って向き合い、最高の一枚を撮り続けていきたいですね」 

 相手の心をまっすぐに見つめ、信頼する。不思議の国のアリスのように未開の地を走り続けてきた牧野社長を読み解く鍵は、アリスが落ちたうさぎ穴のようにどこまでも深い、「愛」なのかもしれない。

【プロフィル】歌人 高田ほのか 大阪出身、在住 短歌教室ひつじ主宰。関西学院大学文学部卒。未来短歌会所属 テレビ大阪放送審議会委員。「さかい利晶の杜」に与謝野晶子のことを詠んだ短歌パネル展示。小学生のころ少女マンガのモノローグに惹かれ、短歌の創作を開始。短歌の世界をわかりやすく楽しく伝えることをモットーに、短歌教室、講演、執筆活動を行う。著書に『ライナスの毛布』(書肆侃侃房)、『ライナスの毛布』増補新装版(書肆侃侃房)、『100首の短歌で発見!天神橋筋の店 ええとこここやで』、『基礎からわかるはじめての短歌』(メイツ出版)  。連載「ゆらぐあなたと私のための短歌」(大塚製薬「エクエル(EQUELLE)」)