美の探究者 その感性と哲学(5) 「落ちないマスカラ」をやめた理由 <久山奈津>

ル・キヤの久山奈津さん
久山奈津/まつげパーマが一般的でなかった1996年に創業。独自の「まつ毛カール」技術や「落ちないマスカラ」で一世を風び。まつ毛デザインと目元美容で、常に日本の先端を走り続ける。一流が集う東京と大阪・にサロンを構え、後進の指導にも力を入れている。

 美を追求する中で、私たちにはプロとしての責任があります。一時期、ル・キヤでは「落ちないマスカラ」が大ヒットしましたが、その施術をなぜやめたかについて今回はお話ししたいと思います。

 2000年前後、私はニキビ改善に取り組んでいました。施術では先にメイクを落とすのですが、まつ毛が切れ切れになっているなど、状態のひどい人お客様が多いことに気づいたのです。どうしてこんなことになっているのか。答えを知りたくなった私は、独自に調査をしていきます。

 当時、百貨店などの店頭では、マスカラのブースがメインで置かれるくらい話題を集めていましたから、マスカラコーナーにいる人を観察したり、美容部員に話を聞いたりしたのです。するとマスカラを塗る前にベースコート(マスカラがまぶた下に付かないように)とトップコート(カールを持続するため)を塗り、さらにマスカラも2、3本使いが軸になっていることが分かりました。これではまつ毛が硬くなり、顔を洗う時、なかなか落ちないのは当然です。

 そこでまつ毛に負担をかけない方法はないかと考え、思いついたのが「マジックマスカラ」です。黒い特殊な顔料で柔らかさを重視し、固くならないように設計。一度塗ると3重まで重ねられ、きれいにセパレートされた美しいまつ毛を実現することができました。

 この画期的なマスカラを「温泉に入っても取れない、パンダ目(下まぶたに付くこと)にならない」というキャッチコピーで広告展開。一躍注目を浴びました。テレビでも「落ちないマスカラ」と番組で取り上げられて一世を風び。瞬く間にサロンにお客様が詰めかけ、既存のお客様の予約が取れなくなるほど人気が出たのです。

 しかし、お客様の期待に応える中で、きれいな仕上がりの質を維持する難しさが浮き彫りになっていきます。サロンのスタッフによっては「もっと濃くして欲しい」という要望に応えてしまい、美しいセパレート状態を保つことが難しくなりました。マスカラの効果は1ヵ月持続しましたが、時間が経つにつれて崩れていくのを嫌うお客様もいました。このため、私はお客様の美に対し責任が取れない、そう考えて「マジックマスカラ」を人気の最中にメニュー表から消す決断をしたのです。

 この経験から、美の追求には難しさと責任が伴うことを認識しました。常に技術を研究し、お客様の満足を両立させる努力を続けていく。こうした責任を感じながら美の追求に励んでいくことが大切なのです。

(ル・キヤ代表 久山奈津)

ル・キヤ アイスペシャリテハービスENT店
大阪市北区梅田2ー2ー22 ハービスENT 6階 tel.06(6346)7644
まつ毛を傷めず育てながら、きれいに長持ちする“理想の上向きまつげ”を実現。