【外から見たニッポン】通訳の難しさと英語の違い

Spyce Media LLC 代表 岡野 健将

Spyce Media LLC 代表 岡野健将氏
【プロフィル】 State University of New York @Binghamton卒業。経営学専攻。ニューヨーク市でメディア業界に就職。その後現地にて起業。「世界まるみえ」や「情熱大陸」、「ブロードキャスター」、「全米オープンテニス中継」などの番組製作に携わる。帰国後、Discovery ChannelやCNA等のアジアの放送局と番組製作。経産省や大阪市等でセミナー講師を担当。文化庁や観光庁のクールジャパン系プロジェクトでもプロデューサーとして活動。

 大谷翔平選手の通訳になったウィル・アイアトンさんの最初の仕事が、あの大谷選手の会見での通訳。彼にとっては相当プレッシャーのある初仕事だったと思います。アメリカだけでなく、世界中のメディアは彼の訳した言葉やフレーズをそのまま大谷選手の発言として伝えました。

 誤訳はありませんでしたが、そのニュアンスや意訳的な表現、使用した言葉(単語)などによって、ニュースに触れた人たちの捉え方も変わってしまいますから、物凄い責任を負わされた事になります。間違った表現をしてしまうことで大谷選手が「有罪なのでは?」という印象を与えてしまうリスクもあったのです。

 私も、自分の通訳した文言がそのままメディアに使われる事がわかっている時はとても気を使いました。通訳は大体において一発本番なのでやり直しが効きません。水原さんがわりとカジュアルな英語を使って、大谷選手が伝えたい思いを表現しようとしていたのに対し、アイアトンさんは大谷選手が発した言葉を奇麗な英語で出来るだけそのまま伝えようとしています。 また、水原さんは長年に渡って行動をともにして来ているので、大谷選手の意図やニュアンスもうまく拾い上げていたと思います。

 通訳と一言で言うのは簡単ですが、実際にやってみると大変な作業です。絶対的な正解がない中で、話者の語った内容や本当に伝えたいことを理解して、それを適切な言葉や表現で外国語に変換しなければいけません。適切でない単語や言い回し、もしかしたら話した言葉のどこにアクセントを置いたかで、聞く側の印象が変わったりします。

 私も仕事でたくさん通訳をしてきていますが、1行ごとにきっちり通訳する事を前提にした様なケースを除き、話者が話す内容を一言一句違わず通訳する事は現実的に不可能で、状況に応じて話した内容の中から重要な部分を伝える事になります。多くのインタビューでもこの様に通訳されています。アイアトンさんの先日の通訳は、その中でも出来るだけ丁寧に1行1行、大谷選手の言葉を通訳していました。ただ中には全く通訳されなかった文言もあったので、そこは少し気になりました。

 どの部分を通訳するか、それをどう表現するか、どんな単語やフレーズを使うか、などを瞬時に判断して伝えるので、通訳には語学力だけでなく、幅広い知識や創造力、表現力、コミュニケーション能力など多彩な才能が必要なのです。

 英語自体も国や地域で差があり、場所によってなまりやイントネーション、発音が違っています。アメリカ東海岸の英語に慣れている私にはイギリス英語は早く、西海岸の英語は遅く聞こえます。シンガポールやインドの英語は聞き取れますが、オーストラリア英語は、現地へ行くといつも最初の数日は何を言っているのかよくわからない程です。

 英語は世界中で話されているため、発音やイントネーションは千差万別。変に正解を探すのではなく、自由に操り、使える英語を身に付けることが大事。学習するのではなく、慣れることを目指してみてください。