ペット業界の働き方改革に挑む 大阪・門真のUONLY(ウォンリー)

オーナーの飯尾さん(右)とインタビューに答えてくれた岡本さん(右から2人目)、小泉さん(左)らサロンのスタッフ

 トラックドライバーなどに時間外労働を制限することで生じる「2024年問題」が取り沙汰されている。もともと働き方改革からはじまった話だが、スポットの当たらないトリミング業界も同じような労働環境にあると門真市のペットサロン「UONLY(ウォンリー)」オーナー、飯尾誠司さんは明かす。その実態に迫るとともに、同店が進める業界変革について取材した。(竹居真樹)

ペットは家族同然

 街中を歩いていると服を着て歩く犬を見かけることが多くなった。ペットの犬に何着も服を買ったり〝ウチの子〟と呼んだりすっかり家族の一員だ。飼い主同士では犬の名前で〝〇〇ちゃんのママ、パパ〟などと呼び合い、わが子同然の扱いに。
 このようにペットを家族同然として暮らす人が多い中、愛犬をいつでも清潔に保つのは必須であり、家では出来ないカットや体の手入れなどをお願いできる「トリミング」は欠かせない。犬種にもよるが、一昔前よりもカットのデザインが増えており、〝かわいく〟仕上げてくれる。
 人間で言えば美容師に位置づけられるペットトリマー。外から見れば、華やかで楽しそうな仕事に思えるが、実際に中で働いてみると景色が異なるようだ。

参入のきっかけ

 大阪府門真市─。ららぽーと門真やコストコ門真倉庫店が開業して周辺のにぎわいが増す中、中央環状線をはさんだ向かいに2023年9月、「UONLY」が開店した。ららぽーとでのショッピングの間に愛犬のトリミングや一時預かりを利用する客のニーズをつかんでいるようだ。
 オーナーの飯尾誠司さんは「バッキー」という名前のミックス犬を飼う愛犬家だ。バッキーを家族として迎え入れたきっかけは、娘へのプレゼントだった。バッキーは飯尾さんにべったりの甘えん坊で「わが家にやってきてからは、生活に潤いが出た」という。
 一方で、さまざまな悩みも抱えるようになった。「トリミングに連れて行きたくてもどの店も予約が埋まっているし、家族で出掛けるときは留守番をさせるのがかわいそうで、一緒に出掛けるのですが、レストランに入れないため預け先に困ることもある。ペットフードをなるべく無添加の物を食べさせたい」と飯尾さん。ペットを飼う多くの人に共通する問題であり、この悩みを解決するために飯尾さんはペット業界に参入した。

悪しき習慣

 実は飯尾さん。本職は通信工事会社の社長で、ペット業界のことをまったく知らない。このため、スタッフを面接していて業界の厳しい状況に驚くことになる。
 例えばトリミングもそうだ。トリマーは一日中、立ちっぱなしで前屈みのつらい姿勢が続く。加えて30㌕以上の大型犬になると、抱きかかえてトリミングテーブルに乗せるため肉体的にもハード。加えて、カットをしている時は、じっとしていないペットを相手にけがをさせないよう集中しなければならない。

慣れてきた犬はおとなしくトリミングを受ける。飼い主が迎えに来ると「帰りたくない〜」と泣く犬もいるとか

 こうした状況から、ペットは人間の髪を切るよりも約2時間と時間もかかる。時間がかかれば当然、トリマーが1日でカットする数も限られてくるが、利益率が低いから回転を上げなければならない。加えて、人手不足のため休憩すら取れない実情がある。
 別の店でのトリマー経験のあるトレーナーの岡本さんは「トイレにも行けず、我慢することも頻繁にあった。残業も多い半面、収入も少ない」と明かす。
 こうした惨状を知った飯尾さんは「運送や医療現場での働き方改革ばかりがクローズアップされているが、トリミング業界も例外ではない。まずは働き手を幸せにしないと、業界は進歩していかない。異業種の人間だからこそ、この〝悪しき習慣〟を変えられるのではないかと思った」と話している。

みんなで作り上げる

 飯尾さんが目指したのは、スタッフみんなで作り上げていく店だ。トリマー歴が長くなると〝こだわり〟が強く出て、周囲との摩擦が起きることがある。そこで飯尾さんは、同じような年代や経歴年数のスタッフを雇うことにした。「お互いにコミュニケーションが取りやすい環境にし、なるべく1人の負担が軽くなるよう工夫している」と飯尾さん。業界を知らない分、口出しはせずにほぼトリマーたちに任せている。
 トリマーの小泉さんは「すごく働きやすいし、『ここは自分達の店なんだ』という意識も芽生えた。私たちで決めて相談を重ねていくことでチームワークも生まれています」と微笑む。
 トレーナーの岡本さんは「以前の職場では何度もトリマーを辞めたいと思っていた。UONLYに来てからはポジティブに考えられるようになり『もっと働きたい!ここに来たい!』と思えます。〝自分達の店なんだ〟の意識もあって、お客様をもっと増やしたいと自ら思うようになりました」と明るく話し、飯尾さんについては「お父さんみたいな存在。いつも温かく見守ってくれ安心して働けます」と飯尾さんの顔をのぞき込む。

業界について話す小泉さん(左)と岡本さん

〝ワンちゃん〟が楽しい場所に

 同店は専門学校で技術を学び、民間資格を持つトリマーを雇っている。スタッフの平均年齢は若いが、その分一生懸命に取り組んでいる。
ところで、ペットに対するトリマーの接し方は二つに大別できるらしい。一つは強引に押さえつけてカットする、もう一つは犬との信頼関係を築いてカットする接し方だ。
小泉さんによると、同店の場合は後者の「信頼関係」という。「怖がり、噛み癖など〝ワンちゃん〟の性格はさまざまなので〝その子〟に合った対応を心がけている。声をかけるときの強弱も重要だし、つめ切りが〝苦手な子〟には一本づつ声をかけながら切る。一本切れることに『できたね、やったね!』とほめてあげて、根気強く段階を踏んで信頼関係をつくるのが何よりも大切。ここに来ればほめられる、遊んでもらえる、おやつをもらえる、と〝その子〟にとって楽しい場所になりますから」(小泉さん)

リピーターが多い理由

 トリマーにとって難しいのはカットのイメージの擦り合わせだ。飼い主が愛犬のカットされた姿を見てイメージと異なれば、何も言わず次から他店に行くケースが多々ある。こうした状況の中で、同店のリピーター率9割以上と高い。飼い主が言いたいことを遠慮なく伝えられるよう、飼い主とスタッフとのコミュニケーションを大事にしているためだ。
 「最初は不安な顔をして入ってきた〝ワンちゃん〟が回数を重ねるたび、楽しそうに来てくれるのを見るとうれしくなります。今後、トリミングだけではなく保育園を拡大して、さらにダイエットやシニア犬のリハビリ、マッサージといった独自プログラムのサービスも準備している」と飯尾さん。

〝食〟にもこだわり

 同店はペットグッズにもこだわりがある。なかでも飯尾さんの親戚が経営する鹿児島県の山崎海産が製造するペットのおやつ「しまんま」は、大阪では同店でしか購入できない。食材は潮流の速い長島海峡で育った海鮮で、脂肪分が少なく身が引き締まりコリコリとした食感。水揚げされた新鮮な状態でパッケージ保存し、決して機械では真似できない特殊な手法で、地元の職人によって一つずつ作られている。
 「しまんま」には犬用とネコ用があり、犬用は季節ごとの魚を厳選し、素材の味を引き出しながら味付けも無く無添加。体にやさしい燻製で仕上げている。一方のネコ用は、燻製ではなくグリルにしている。
 「えっ、ワンちゃんも魚を食べるんですか」と記者が尋ねると、「ネコと同じようにおいしそうに食べます」と飯尾さんは足下でしまんまにかぶりつく愛犬のバッキーを指さす。「人間の私でさえ食べてみたくなるくらい〝食いつき〟がいい」(飯尾さん)。他にも手作りおやつを販売しており、今後も種類を増やしていく予定という。
 飼い主にとって、愛犬にはずっと健康で長生きしてほしいという思いは一緒だ。「体は食べ物でできているというのはどの生物も共通している。だから、おやつにもこだわりを持ってほしい」と飯尾さんは思いを語った。
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[取材協力]UONLY(ウォンリー)/門真市殿島町20─6水野ビル/電話06(6914)9395

人気のペットおやつ「しまんま」