【わかるニュース】明かされる宝塚歌劇団の「闇」 大相撲、自衛隊しのぐ閉鎖社会

阪急宝塚駅南側、宝塚ゆめ広場にある「タカラヅカレビュー」のモニュメント
阪急宝塚駅南側、宝塚ゆめ広場にある「タカラヅカレビュー」のモニュメント

バックの「阪急」が問題複雑化

 来年創立110年記念を迎える宝塚歌劇団。歌と踊りで女性だけのレビューとして常に日本の頂点に立ってきた「清く、正しく、美しく」の集団が揺れている。劇団員のA子さん(25)が9月に死亡。自殺が疑われるA子さんをめぐっては、2月に週刊誌でパワハラや長時間労働の問題点が暴露され、半年後の突然死に「口封じと隠蔽(いんぺい)体質があったのでは?」の疑惑が急浮上。世間が納得しない歌劇団の調査報告が火に油を注いだ格好。そこには、令和の時代にふさわしくない上意下達の実態が次第に明らかになってきた。

宝塚大劇場
宝塚大劇場

〝絶対的純粋培養〟から脱却が必要 ギクシャク会見の裏には?

いじめ認めぬ会見

 騒動の発端は、9月に宙(そら)組所属劇団員のA子さん(25)が自宅マンションから転落死しているのが見つかった事から。現場の状況から自殺が強く疑われた。歌劇団は哀悼の意を表し公演を一時中止したが、歌劇団や劇団員個人の責任問題には一切言及しなかった。ところがA子さんの遺族が上級生による〝パワハラ〟と、歌劇団管理不十分による長時間けいこによる〝過労死〟を指摘。歌劇団は弁護士による調査チームを編成。11月14日に結果を会見で発表した。パワハラを認定しなかった中身が遺族側のさらなる怒りを呼び、事態収束どころか「非常識な封建的体質!」と再調査要求の声がわき上がっている。

 2月の週刊誌報道時点での対応が組織の実態を物語っている。劇団側は積極的に調査をせず、A子さんの所属する宙組に丸投げ。組トップ数名が、A子さん自身とヘアアイロンやけどの加害者とされた3期上の娘役劇団員から聴き取り。「(わざと)やってないよね!」「やってません!」などの簡単なやり取りで「週刊誌報道は事実無根」と決め付けた、とされる。この件は歌劇団側の調査会見でも「ヘアアイロンでのやけどは日常茶飯事」と結論付け。暴言によるパワハラを含め、遺族に向け「故意というなら証拠を示してほしい」とまで言い放った。

「証拠を出せ」は理不尽

 昨今のさまざまなパワハラ報道で「証拠」となるのは多くが音声録音。スマホ機能が充実し、こっそりと誰でも簡単に録音や動画撮影ができる時代。しかし宝塚歌劇団でのレッスンはレオタードで激しく動くからスマホは装着できない。同じように大相撲のけいこでもまわし一つ、自衛隊の柔道女子部員も道着一つの姿では、いずれもスマホによる証拠確保は不可能。

 こうした組織では、その場にいた指導者や同僚への強制捜査による尋問に近い聴き取りが事態解明に欠かせない。歌劇団会見では「宙組62人のうち4人は聞き取り辞退」とし、その理由すら「ご容赦願いたい」と明かされなかった。辞退が許されるような〝おざなり調査〟で「上級生絶対」組織の実態が明らかになるはずはない。米国での証人保護プログラムのような真実を明らかにする方策が必要だが、歌劇団はパワハラを「ない」と断定的に言わず「確認できなかった」というあいまい表現で、責任問題に結びつくのを巧みに避け
た。

閉鎖組織の陰湿な習慣

 宝塚でパワハラやいじめが昔から存在することは、OG芸能人も過去に自叙伝で「衣装やアクセサリーを隠された」や「衣装に針」などの陰湿な嫌がらせを告白している。上級生による理不尽とも思える生活指導の実態もたびたび紹介されているが、これらも成功者が語ればスポ根的な美談で済まされてしまう。

 旧ジャニーズ事務所の性被害も同根だが、独特の閉鎖社会では〝時代変化から意識的に隔絶された世界〟が当たり前に続けられているケースが見られる。旧ジャニーズ事務所は今春の英国テレビによって実態が白日にさらされ、今回は宝塚歌劇団。一足先にパワハラやセクハラの問題提起がなされた大相撲や自衛隊では、被害者の先輩や指導者が処分され組織を去った。旧ジャニーズ事務所は解体的出直しを余儀なくされているが、宝塚歌劇団だけが「劇団員はお構いなし」では済まされるはずもない。

阪急阪神HDの目論見は?

 いじめを認めようとしない背景には、上場企業である親会社「阪急阪神ホールディングス(HD)」の収益性が高い傘下企業に対する姿勢がある。歌劇団は、HD内のエンタテインメント部門で阪神タイガースと同じグループに分類され、決算書を見ると共に極めて収益額が多い。このグループは、かつてプロ野球「阪急ブレーブス」というタイガースに匹敵する伝統を持ったパ・リーグ強豪球団があったが長年赤字で、現在のオリックスへ売却された。歌劇団とタイガースも、もうかっている限りHD傘下に抱え、たとえ運営状態がHDから見て異質でも維持される。かつてタイガースの親会社・阪神電鉄を吸収合併した時も、世間からは「阪急タイガースにする気か?」と危惧の声が上がったが、その運営体制にはあえて手を付けなかった。

 今回も矢面に立ったのは歌劇団幹部だけで、劇団員はお構いなし。会見で木場建之理事長(60)が辞任を表明したが、阪急電鉄入社のサラリーマンで電鉄執行役員だから辞任といっても巨大企業グループでは単なる人事異動の一環でしかない。後任理事長の村上浩爾歌劇団専務理事(56)も同じく電鉄入社の電鉄執行役員だ。会見自体も電鉄広報部が仕切り、調査チーム弁護士はHDと関係する別の弁護士が所属する法律事務所からだった。通常第三者委員会といえば、独立した組織で弁護士だけでなく大学教授やメディア関係者ら学識経験者が加わることが多い。その点、今回の調査チームは第三者委員会と言うより内部調査と理解した方がよい。

不思議の国のヅカガール

 閉鎖された組織のしごきやいじめは下級生の時は被害者でも、上級生になると加害者に転じる危険性がある。これが学生スポーツなら入学から卒業まで決まった年数で順次入れ替わるが、歌劇団配属先の組や大相撲の入門部屋、自衛隊の配属部隊などでは、入れ替わりがほぼなく延々と上下関係による精神的支配が続く。

 歌劇団の特殊性は、まず宝塚音楽学校に入学し2年の基礎教育を受け卒業できた者だけが劇団員になれることだ。1学年40人定員に約1000人が受験する。中学卒から高校卒までの4回受験のチャンスはあるが、19歳になれば入学の道は閉ざされる。卒業して入団後は研究生と呼ばれ、5年間は固定給。6年目からは業務委託の個人事業主として歌劇団と個別に出演契約を結ぶ。実質的には誓約書を取り交わして『歌劇団業務専念』を求められるから、個人事業主なのに副業やアルバイトは自由にできない。劇団員は音楽学校時代から「上級生は絶対」をたたき込まれ、この枠組みの中で「外部漏らし」と呼ばれる歌劇団内で起きたトラブルはささいな事でも肉親を含めた部外に話さない様、厳しく戒められる。

宝塚音楽学校
宝塚音楽学校

相撲部屋でも改革できた

 歌劇団は変われるのだろうか? 逆に男だけの社会の大相撲は、かつて「無理へんにげんこつ、と書いて兄弟子と読む」と言われたぐらいしごきといじめが横行する集団だった。相撲部屋から逃げ出そうとした若手力士をリンチで死なせた親方が警察に逮捕され協会をクビになった事で、角界は暴力的な指導を許さない組織へと変ぼうを遂げた。中学卒業してすぐの新弟子だけでなく、高卒や大卒からの力士も毎年増え社会常識も理解できるようになった。

 そう考えると、宝塚歌劇団の改革はまず〝絶対的純粋培養〟から脱却することだ。音楽学校卒業生中心を維持しても、退団者の欠員補充の形で外部からの途中入団を認めれば組織に新しい風が吹き込まれる。また、個人事業主になった入団6年目以降は、海外留学や内外での活動域を広げたい意欲を持った劇団員に対し、休団を含めた外部活動を許す新たな育成システムが必要だ。

 HDから密かに課せられた歌劇団幹部への指命は「何としても歌劇団公演を再開させる」ことと想像できる。だからこそ歌劇団の管理体制不備は認めても、コンプライアンス(法令遵守)教育強化を含めた劇団員へのアプローチには言及できなかったのだ。

 こういう時に一般の劇団員に対して組幹部が話す内容は容易に推測できる。「私たちは舞台が第一。余計な事を考えず、お客さまに喜んでいただける舞台作りに専念しましょう!」。矛盾や理不尽さを丸のみし、一生懸命な歌と踊りにすり替えるのだけは勘弁してほしい。