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「60平方㍍」が選ばれる理由 「売りやすく、貸しやすい」 マンション購入の新常識

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マンション購入の新常識

 2025年大阪・関西万博の開催やキタ・ミナミの再開発などを背景に、大阪の地価が急上昇している。国土交通省の「令和6年地価公示」によると、大阪市中央区の商業地は前年比25.3%上昇。市内の新築分譲マンションの1平方㍍あたりの単価が110万円を超え、一般的な収入の家庭にとって、資産価値を保ちながら無理なく購入できる物件選びが課題となっている。 その答えの一つが「60平方㍍のマンション」。なぜ今、この広さが注目されるのかを探った。

〝ちょうどいい〟広さ

 大阪市内の不動産業者によると、60平方㍍前後のマンションは、単身者、DINKs(夫婦のみ世帯)、シニア、子ども1〜2人のファミリーと幅広い層に支持されている。その理由は暮らしに最適なバランスにある。30〜40平方㍍台の単身向け物件では、収納やワークスペースを確保しづらく、在宅勤務や二人暮らし以上では手狭さを感じやすい。一方、70平方㍍以上のファミリータイプは価格が急騰し、大阪市内では6000万円以上が当たり前となりつつある。

 60平方㍍であれば、1〜2LDK、場合によってはコンパクトな3LDKも可能。価格だけでなく管理費も手頃。将来、子どもが生まれたり、その子どもが独立したりとライフスタイルの変化にも柔軟に対応できる。収納豊富な設計も多いため、快適な暮らしを長期間にわたって支えてくれる。

 大阪市内在住の30代男性(会社員)は、コロナ禍での在宅勤務を機に住み替えを決意。40平方㍍の1LDKでは「リビングと仕事スペースを分けられずストレスだった」と振り返る。新たに選んだのは、62平方㍍・2LDKの駅近マンション。「小さな書斎スペースを確保でき、暮らしにメリハリが生まれた。光熱費や管理費も手頃で、将来家族が増えてもこのまま暮らせそうです」と満足している様子だ。

売りやすく、貸しやすい

 不動産コンサルタントの後藤一仁氏は、著書『マンションを買うなら60㎡にしなさい』(ダイヤモンド社)の中で、マンション購入においては〝出口戦略〟が重要と述べている。つまり、将来的に「売りやすい」「貸しやすい」物件かどうかを見極める視点が不可欠ということだ。

 近年、生涯未婚率や離婚率の上昇、配偶者に先立たれたシニア層の増加といった社会背景から、単身世帯は加速度的に増えている。そうしたなか、後藤氏は「70~80平方㍍以上の広いファミリータイプのマンションの需要は、今後だんだんと少なくなっていくものと思われる」と指摘する。

 大阪市においても、単身世帯の割合が53.6%(令和2年国勢調査)と過半数を超えている。こうした人口構造の変化をふまえると、過不足のない広さである60平方㍍前後のマンションは、将来的にも〝売りやすく貸しやすい〟、つまり出口戦略に強い物件といえる。

国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」※世帯数は2015年、2020年国勢調査の値で比較

ベイエリアの可能性

 60平方㍍マンションを探す上で、エリア選びも重要なポイントだ。北区、天王寺区、福島区は利便性と資産性の高さで従来から人気が高い。

 近年、注目が高まっているのが大阪のベイエリアだ。西九条・弁天町を中心に、夢洲(ゆめしま)の万博・IR開発によるインフラ整備や商業施設の拡充が進み、将来の資産価値向上が期待されている。また、西九条はキタ・ミナミそれぞれに電車1本でダイレクトアクセスできる点や周辺に生活利便施設がそろっていることも魅力だ。単身者やDINKs、外国人需要が高まっており、不動産業者によると、居住用だけでなく投資目的での購入も堅調に増えている。

 大阪の地価は万博や再開発の波により、中心部や沿岸部を中心に今後も上昇が続く見通しだ。一方で郊外エリアでは、団塊世代の高齢化による「2025年問題」で物件供給が増え、価格下落リスクも指摘される。こうした中、インフラが進化するエリアで60平方㍍マンションを手にいれることは、資産価値を保ちやすく、暮らしやすさも兼ね備えた「失敗が少ない」選択肢だと言えるだろう。

大阪市内で販売されている新築分譲マンションの間取り。60平方㍍台が中心になっている

プロが語る「60平方㍍マンション」の魅力と選び方

不動産コンサルタント・後藤一仁氏に直撃

 特段の理由なく漠然と「マンションを買う=70〜80平方㍍の間取り」と考える人は多いですが、近年、将来やお金に対する不安から「どんな家(マンション)を買うべきか」というご相談が増えています。

 こうした質問に対し、実際の取引事例や経験を踏まえ、私は「60平方㍍」「利便性の良い立地」「2001年以降完成」という三つの条件を集約してお答えしています。狭すぎず広すぎない60平方㍍のマンションは、さまざまな側面から見て最も無駄がありません。価格が手頃で、売りやすく、貸しやすい。もちろん、広さだけでなく立地や築年数も重要です。こうしたマンションを適正価格で購入することが、最も失敗が少ないと考えています。これを私は「60平方㍍論」と呼んでいます。

 資産性のない物件を購入してしまうと、その家に縛られ、住宅ローンの返済に追われる人生になりかねません。マンション購入は人生の大きな決断です。一般的な収入・予算であっても「購入するなら少しでも資産価値が保てる物件を選びたい」と考えるなら、現時点では「60平方㍍論」が最も有効な選択肢だと考えています。

後藤一仁さん

<後藤一仁(かずひと)氏 プロフィル>
 不動産コンサルタント。株式会社フェスタコーポレーション代表取締役。36年以上にわたり、常に顧客と接する第一線で不動産実務全般に携わる。首都圏を中心に、不動産の購入、売却、賃貸、賃貸経営サポートなど、3万人以上の対面個別相談を行い、取引件数は6000件以上。日々、実務を行いながら、執筆、セミナー講師、テレビ・ラジオ出演・監修、各種メディア取材協力など幅広く活動。「不動産を通じて一人でも多くの人を幸せにする」ことをミッションに掲げる。
 著書に『マンションを買うなら60㎡にしなさい』(ダイヤモンド社)、5月30日に新刊『中古マンション これからの買い方・売り方 絶対に損したくない人のための最強バイブル』(日本実業出版社)を全国の書店、インターネットで発売予定。